安倍晋三の自民総裁としての憲法改正発言だからと国会答弁拒否は党の議論をコントロールするための高等戦術

2017-05-14 11:55:02 | Weblog

 高等戦術かどうかは事の経緯を見れば一目瞭然となる。 

 先ず事の発端は安倍晋三が憲法記念日の2017年5月3日都内開催の「公開憲法フォーラム」に送った自身の憲法改正案を示すビデオメッセージと同日付読売新聞朝刊に載った安倍晋三の同じ憲法改正に関わるインタビュー記事。

 内容は憲法9条の1項と2項は手を付けずに3項に合憲性を示すために自衛隊を明記するというもの。

 次に5月3日と共に5月4、5、6、7と休日に合わせて国会は審議未開催で、5月8日の衆院予算委員会で民進党議員の長妻昭が安倍晋三に対して説明を求めた。 

  長妻昭「次に自衛隊についての問題ですが、私は唐突感があったわけですけれども、2020年までに新憲法施行と、いうふうに仰ったわけですけれども、これの真意を教えて頂ければと」

  安倍晋三「私はあの、この場には内閣総理大臣として立っているわけでございまして、えー、予算委委員会はですね、政府に対する質疑という形で議論が行われる場であろうと、こう思うわけでありますが、各党が憲法について議論する場が設けられているのは、これは憲法審査会であろうと、このように考えているわけでありまして、ま、そこでご議論頂きたいと、こう思う次第であります。

 で、一方で私が今回第19回の『公開憲法フォーラム』に於けるビデオメッセージ等を通じて自民党総裁としてのですね、憲法改正についての考えを公にしたしたもので、国会に於ける政党間の議論を活性化するもので、ま、ございます」

 要するに自民党総裁としての憲法改正の考え方であって、総理大臣としての憲法改正の考え方ではないから、国会での質疑に応じることはできないと答弁拒否に出た。

 長妻昭が繰返し説明を求めたが、安倍晋三は同じ答弁の繰返しで応じない姿勢を崩さなかったが、長妻昭がなお食い下がると、業を煮やしたのか、長妻昭に同じ質問を諦めわせるためなのか、次のように答弁して、却って油に火を注ぐ結果となった。

 安倍晋三「あの、繰返しを言うんですが、私はここは内閣総理大臣として立っており、いわば私は答弁する義務はなく、内閣総理大臣として義務を負っているわけでございます。自民党総裁としての考え方は相当詳しく読売新聞に書いてありますから、是非それを熟読して頂いて(激しいヤジ)、いいと(思います)、自民党・・・・・・、ちょっと静かに、静かに、静かにして頂かないとですね。

 それはそこ(読売新聞)に、いわば党総裁としての考え方はそこで知って頂きたい。ここ(国会)で党総裁としての考え方は縷々述べるべきではないというのが私の考え方でありますから、そこは是非、そこ(読売新聞)で、いわば自民党総裁としては知って頂きたいと。あるいはまたビデオで、これはビデオで述べているわけでございます」

 ビデオを見ようと、読売新聞のインタビュー記事を熟読しようと、自衛隊に対する考え方や憲法9条に対する思いが安倍晋三と異なる側からしたら、それが正しい考え方なのかと追及し、説明を求めなければならない。

 異なるとする考え方に共通の考えを持つのは何も国会議員だけではなく、国民の中にも多く存在する。異なる考えの国会議員は共通の考えを持つ国民の意思を代弁して説明を求める責任も有する。

 いわば安倍晋三は国会という場で説明することが考えが異なる側のみならず、国民に対する説明となって、一国のリーダーとしての説明責任を果たし得る。大体が国会は与野党議員の質問に応じる場であると同時に国民に対する説明の場でもある。

 例え自民党総裁としての発言であったとしても、同一人物である総理大臣と憲法改正についての考え方が異なるというわけではないから、自民党総裁になり代わって説明しても不都合は生じない。

 だが、質問議員に対する説明に応じないだけではなく、国民に対する説明責任にも応じないのは自民党総裁になり代わって説明した場合に安倍晋三の中に不都合な事情が生じることになるからで、それを避けるための拒否姿勢と見なければならない。

 余程の不都合な事情であるのは長妻昭が衆院予算委で安倍晋三に説明を求めた日の翌日の2017年5月9日の参院予算委で民進党代表の蓮舫が同じ質問で迫ったにも関わらず、衆院予算委のときと同じ答弁に終止したことからも窺うことができる。

 蓮舫と安倍晋三の遣り取りを「産経ニュース」が伝えているから、そこから関係個所を引用してみる。    

 蓮舫「総理・総裁は同一人格であり、考えは同じです。読売新聞では一方的に気持ちよく改憲の思いを話して、国会では話さない。なぜ使い分けるのですか。なぜたった一つの読売新聞だけで答えて、国会議員も国民も総裁の僕の考えを聞きたいんだったら、読売新聞を熟読してくれ。国会を何だと思ってるんでしょうか」

 安倍晋三「既にですね、縷々ご説明させていただいたところでございますが、ここに立っているのはですね、内閣総理大臣として立っているわけでございます。一方私は自民党の総裁という役割を担っているということは、ご承知の通りなんだろうと。いわば内閣として…(ヤジ)あの、今、少しおとなしく」

 山本委員長「静粛に願います!」

 安倍晋三「おとなしくしていただけないとですね」

 山本委員長「答弁中だから! 静粛に願います」

 安倍晋三「冷静な議論ができないと、こう思うわけですが。よろしいですか皆さん。そこでですね、そこでまさにこれは憲法審査会において各党各会派が提案を持ち寄ってそこで議論を深めていくべきだろうと思います。そこに持っていく、私の基本的な考え方を述べたものであって、自民党の草案とは違うわけでありますから、自民党の今までとの草案との違いも含めてですね、党で議論をしていただきたいと。こういう思いで述べたわけであります」

 蓮舫「政府与党一体の議院内閣制で、総理・総裁を使い分けるというのはあまりにも私は二枚舌だと思っています。自民党総裁として語ったというのならば、なぜ取材を首相の執務室、首相官邸で受けたんですか」

 安倍晋三「それはですね、首相としてですね、日々対応しなければいけないことが起こるわけでありますから、それはそういうことが当然あるわけであります。党の役員に、自民党の総裁室ではなくて、総理執務室で会うこともあるということでございまして、どうか蓮舫議員にもこういうことではなくて、外形的なところではなくてですね、中身についてぜひ党の案をですね。(ヤジ)党の案についてですね」

 山本委員長「答弁中です」

 安倍晋三「皆さん、そんなエキサイトしないで。今、みなさんそんなエキサイトしないでですね、今、私は答弁の最中なんですから、最後まで聞いて、批判があれば質問の形で批判していただければと、こう思うわけでありまして、よろしいですか?議論するのであれば、皆さんの案をですね、憲法審査会に出していただいて、と、私は従来ずーっと申し上げているわけでありまして、そこでご議論をいただきたいと。

 これですね、国民の皆さん、ずーっと皆さんが並んで私にヤジを浴びせているわけでありまして。これはですね、こんなにですね皆さん、そんなにエキサイトするよりもですね、私が申し上げた通り、これから自民党として、憲法審査会に提出をする、憲法調査会に自民党として提出をする中身について議論をするわけでございます。ですから、御党におかれましてもですね、どうか中身について議論をしていただき、憲法審査会に考えをまとめて提出していただきたいと、思っているところでございます」(以上)

 蓮舫は「総理・総裁は同一人格であり、考えは同じです」と言っているが、役目が異なれば、役目上の人格は必ずしも「同一人格」というわけではない。役目、役目に応じた人格を発揮することになる。

 会社経営者が家庭では優しい父親としての人格を見せていても、会社では暴君一辺倒の人格を見せると言うこともあり得る。

 但し憲法に関する考え方は国家という大枠に関することだから、同じでなければならない。役目が違うからと言って、国家の把え方が違うとなったなら、頭の中に二つの国家を存在させていることになる。

 蓮舫は5月8日の衆院予算委員会での長妻昭と同じく、あくまでも自民党総裁としての憲法の考え方であっても、総裁と総理大臣を使い分けて国会で説明しないのはおかしいとする追及に拘り続けた。

 安倍晋三は5月8日の衆院予算委員会でもそうだったが、総理大臣としての憲法の考え方については国会で答える義務はないとする一方で、ここでも憲法に関する議論は憲法審査会で行うべきだとする主張に終始した。

 と言うことは、国会で質問議員に対する説明に応じた場合に、あるいは質問議員に対する説明を通して国民に対する説明責任にも応じた場合に生じる不都合な事情とは、応じることが憲法審査会の議論に何らかの影響が及ぶ懸念と見なければならない。

 安倍晋三は自民党総裁として発信した憲法改正の考え方と憲法審査会の議論との関係について次のように答弁している。

 安倍晋三「これ(憲法に関する議論)は憲法審査会において各党各会派が提案を持ち寄ってそこで議論を深めていくべきだろうと思います。そこに持っていく、私の基本的な考え方を述べたものであって、自民党の草案とは違うわけでありますから、自民党の今までとの草案との違いも含めてですね、党で議論をしていただきたいと。こういう思いで述べたわけであります」

 言っていることは、自民党の憲法改正草案と安倍晋三自身の憲法改正の基本的な考え方とは違うから、その違いを含めて双方を自民党で議論して纏めて貰いたいという思いで自民党総裁として憲法改正の考え方をビデオメッセージと読売新聞のインタビューで述べたわけだという意味になる。

 勿論、各党が改正案を纏めた後に憲法審査会が控えているのだから、各党が纏めた考えを叩き台として与野党が議論し合って、最終的に改正案を決定するというプロセスを踏むことになる。

 但しである、衆議院憲法審査会は50人の委員で組織され、自民党が31名、民進党が10名、公明が4名、共産が2名、維新が2名、社民が1名で、自民党だけで既に圧倒的多数を占めるばかりか、与党の片割れ公明と憲法改正に熱心な維新を加えると、話にならないくらいの勢力図となる。

 参議院憲法審査会は45人で構成され、各党何名ずつかわざわざ数えなかったが、勢力図の傾向は変わらないだろう。基本的には自民党の改正案が賛成多数で通ることになる。

 と言うことは、憲法審査会で議論することになる自民党改正案に安倍晋三が自民党総裁としてビデオメッセージと読売新聞のインタビューで述べた憲法改正に関わる案が含まれるかどうかにかかってくる。

 そのための第一歩がビデオメッセージと読売新聞のインタビューと言うことだったのだろう。

 安倍晋三2017年5月12日午後、党憲法改正推進本部の保岡興治本部長と党本部で会談して、9条への自衛隊の根拠規定明記や教育無償化等の検討を含めて衆参両院の憲法審査会に提案する自民党案の取り纏めを急ぐよう指示したと2017年5月12日付「時事ドットコム」記事が伝えている。  

 これが憲法審査会で議論することになる自民党改正案に自身の改正の考え方を含めるための第二歩と言うことなのだろう。

 ここにビデオメッセージや新聞インタビューで発信するのはなく、保岡興治と会談して伝えれば済むことではないかという疑問が生じるが、譲ることのできない儼然とした決意、あるいは意思表示であることを見せる必要から、憲法の考え方は総理大臣と変わりはないことは誰もが暗黙の了解事項としていることを前提に自民党総裁名で公にしたということであろう。

 自民党憲法改正草案は9条の1項の戦争放棄は現憲法のままだが、現憲法2項の戦力不保持と交戦権の否認は削除し、自衛権の発動を認め、9条の2として、国防軍の創設を謳っている。安倍晋三は自衛隊という名とその歴史に拘っているようだ。

 国防軍創設となった場合、自衛隊は国防軍の前身として扱われることになり、自衛隊の歴史が断ち切られることになる。

 安倍晋三の思惑で憲法改正に持っていくための第一歩以降第二歩に持っていくまでの間にその思惑を誰がどう批判しようと、思惑のまま維持できるが、下手に批判に応じて発言した場合、思惑が変質して受け取られたり、思惑に矛盾が生じて綻びたりする危険性が生じて、そうなった場合、憲法審査会での自民党案に思惑通りに潜り込ませることに支障が生じかねないことになる。

 どのような小さな危険性でも避ける最大の安全運転は憲法審査会に自身の思惑をそっくりそのままに自民党案として持ち込むことにあるはずだ。

 いわば自民党総裁としての発言であって、総理大臣としての発言ではないからと国会での答弁を拒否したことは、それが国民に対する説明責任の不履行となったとしても、自身の改正の思惑を憲法審査会に自民党の改正案として持ち込んで議論させるよう、前以ってコントロールするための高等戦術だったはずだ。

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