安倍晋三のアベノミクス成長戦略は今や自身の要請に基づいた賃上げが武器の個人消費刺激策に堕したも同然

2014-11-21 09:17:52 | Weblog


 ――そのための消費税再増税の先送りであり、再増税時の軽減税率導入である――

 安倍晋三が今日11月21日午前の閣議で衆議院解散の決意を表明、解散を決める閣議書に閣僚が署名して正式に衆議院の解散を決定するという。

 安倍晋三「(アベノミクスに)批判や抵抗もあるなか、成長戦略を前に進めるには、国民の声をどうしても聞かなければならないと判断した」(NHK NEWS WEB

 11月18日、NHKの番組に出演して、解散の理由をそう述べたという。

 そして総選挙を戦うために消費税の10%への増税を2015年10月から2017年4月に1年半延期し、10%増税時に同時に軽減税率導入を決めている。

 そもそもからして公明党2012年総選挙マニフェストは「公明党は軽減税率の実現をめざします」と謳っているのに対して自民党2012年総選挙マニフェストは軽減税率に一言も触れていない。

 自民党・政府は軽減税率導入に慎重な姿勢を見せていた。と言っても、実際は反対であった。

 2013年12月12日、自公間で2014年度与党税制改正大綱を合意した。その全文。

 〈軽減税率に関する与党の合意内容

 軽減税率、導入は「10%時」
 
 消費税の軽減税率制度については、「社会保障と税の一体改革」の原点に立って必要な財源を確保しつつ、関係事業者を含む国民の理解を得た上で、税率10%時に導入する。

 このため、今後、引き続き、与党税制協議会において、これまでの軽減税率をめぐる議論の経緯及び成果を十分に踏まえ、社会保障を含む財政上の課題とあわせ、対象品目の選定、区分経理等のための制度整備、具体的な安定財源の手当、国民の理解を得るためのプロセス等、軽減税率制度の導入に係る詳細な内容について検討し、2014年12月までに結論を得て、与党税制改正大綱を決定する。〉(asahi.com

 2014年度与党税制改正大綱で合意していた10%時導入を、本体の増税を1年半先送りするなら、このことに伴って軽減税率導入も自動的に先送りされる形で導入されることは既定路線であるはずだが、今更ながらに安倍晋三が山口公明党代表と会談(11月17日夕、都内ホテル)し、導入を求められて、導入を前向きに検討する考えを伝えるという経緯を取らなければならなかった。

 こういった経緯を取ったのは、2014年度与党税制改正大綱合意の2013年12月12日の2日前12月10日午前の麻生副総理・財務相の閣議後記者会見発言が全てを物語っている。

 麻生太郎「軽減税率は、何を対象にするのかが難しい。また、食料品を対象としても1兆円近い減収となるのでその不足をどう補うのか。このほか企業側の事務負担もある」(NHK NEWS WEB
 
 要するに自民党・政府共に軽減税率導入に反対だったものの、公明党の主張を税制改正大綱に盛り込むことにしたが、導入に対して抵抗勢力であることに変わりはなく、合意の実施決定は今回の解散まで待たなければならなかったといったところが実態だったということなのだろう。

 このことの証明として野田毅自民党税制調査会長の11月18日夜のBSフジの番組での発言を挙げることができる。

 野田毅(2017年4月軽減税率同時導入について)「(制度設計が)まだ煮詰まっていない。同時にやるにはまだ(国民に混乱を招くという)リスクがある。対象品目の選定や所要財源など(の問題)でかなり準備期間が必要だということは自民、公明両党で理解が進んでいる」(時事ドットコム

 2013年12月12日の2014年度与党税制改正大綱で導入に合意していながら、「(制度設計が)まだ煮詰まっていない」とか、「かなり準備期間が必要だ」などと言っている。

 では、なぜ安倍晋三は同時導入を決めたのだろうか。自民党税制調査会が反対し、国家のカネを握る麻生財務相が導入に反対している。と言うことは財務省自体が反対していることになるが、この反対を押し切ることになるのだから、再増税反対世論調査70%以上に配慮した同時導入の決定であり、当然、答は唯一、選挙対策ということになる。

 いずれにしても安倍晋三の経済政策「アベノミクス」三本目の矢である「成長戦略」の歩みを確実にするために10%増税を1年半先送りすることにした。いわば成長戦略の財源ともなる消費税10%増税であるから、成長戦略から消費税再増税を当面外したことになる。

 但し一方で解散を決行することによって、成長戦略の柱と位置づけた「女性活躍推進法案」と「労働者派遣改正法案」、「国家戦略特区法改正案」などが廃案となる。

 安倍晋三は2013年4月19日、日本記者クラブで講演し、6月に纏める成長戦略の第1弾を発表している。

 安倍晋三女性の活躍は、しばしば、社会政策の文脈で語られがちです。しかし、私は、違います。『成長戦略』の中核をなすものであると考えています」

 2014年3月20日2015年度予算成立記者会見。

 安倍晋三「さらに、6月には成長戦略を一段と強化します。女性の活躍を阻むあらゆる壁を突き破らねばなりません。女性の就労を後押ししてまいりま す。

 企業が国際競争に勝ち抜いていくための税制改革の検討を進めます。女性や高齢者など、多様な人材が自分のライフスタイルに合わせて仕事 ができるワーク・ライフ・バランスに考慮した労働制度の見直しも大きな課題です」

 2014年年6月24日記者会見。

 安倍晋三新しい成長戦略でも、岩盤のように固い規制や制度に果敢にチャレンジしました。多様な働き方を実現する労働制度改革や能力ある外国人材の活用に踏み込みます」

 2014年9月29日第187国会所信表明演説。

 安倍晋三「民間のダイナミックなイノベーションの中から、多様性あふれる新たなビジネスが生まれる。大胆な規制改革なくして、成長戦略の成功はありません。農業・雇用・医療・エネルギーなど、岩盤のように固い規制に、これからも果敢に挑戦してまいります。

 その突破口が、国家戦略特区です」

 「女性活躍推進法案」や「労働者派遣改正法案」、「国家戦略特区法改正案」などのアベノミクス成長戦略の柱となる政策を早期に成立させて直ちに実施に移さなければならないにも関わらず、解散することによって国会成立と実施を先送りすることになった。

 当たり前のことを言うが、実施したからといって、直ちに政策が実現するわけではない。取り掛かってから実現までに長期の時間が必要となるし、実現しない場合もあるから、その成果は先行き不透明の状態にあるものの、成長戦略の柱として掲げた以上、先ずは早期に試行しなければならない。

 でなければ、何のために掲げたか意味不明となる。

このように直ちに取り掛からなければならないこれらの成長戦略政策の実施を、選挙結果が判明する僅かな日数であったとしても、解散・総選挙によって結果的に先送りしたことになって、成長への寄与を遅らせたことになる。

 安倍晋三がそのように仕向けた。

 アベノミクスの成長戦略政策の実効性が先行き不透明である中、アベノミクス経済好循環の主要な柱としている雇用者の賃上げのみが確実視されている。11月19日の政労使会議。

 安倍晋三「賃金が上がっていく展望を示すことができれば、経済の好循環の2巡目は大きく前進していく。きのうの(首相官邸での解散表明)記者会見でも、来年の春、再来年の春、そのまた翌年の春と、賃金が上昇していく環境を作ることを国民に約束した」(NHK NEWS WEB

 要するに成長戦略の柱となる各政策の国会成立と実施を先送りする中、雇用者の賃金が上がって個人消費が増えて、経済が活性化し、GDPが増加するより確実視できるプロセスに成長戦略を託した。 

 消費税8%を受けた物価高と円安による生活物資価格高騰を上回る賃金上昇率を願ったのだろう。そして経団連もこの要請に応じる姿勢を見せた。

 と言うことは、安倍晋三は日本の景気回復を自らが掲げたアベノミクス成長戦略の各政策によってではなく、自身の要請に基づいた賃上げを武器とした個人消費の刺激によって果たそうとしていることになる。

 だから、成長戦略の各政策の国会成立と実施を先送りすることになる解散ができたのであり、賃上げを武器とした個人消費を確実にするために消費税増税を先送りし、70%を超える国民の消費税再増税に対する拒絶感を和らげて総選挙に勝利するために1年半後の再増税と同時の軽減税率導入を決めることができた。

 アベノミクスの成長戦略は個人消費刺激策のみに堕したも同然である。


コメント    この記事についてブログを書く
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 安倍晋三の総選挙、消費税増... | トップ | 安倍晋三の解散記者会見から... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

Weblog」カテゴリの最新記事