私の闇の奥

藤永茂訳コンラッド著『闇の奥』の解説から始まりました

福島雅典氏の『科学者に与ふるの文』

2017-04-04 22:12:58 | 日記
岩波書店発行の雑誌「科学」の4月号に巻頭エッセイとして『科学者に与ふるの文 軍民両用研究を憂ふ』と題する科学者宛の檄文が掲載されています。
筆者は京都大学名誉教授福島雅典氏。科学者の皆さん、ぜひ読んで下さい。その冒頭と末尾の部分だけをコピーさせていただきます:
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君知るや、今、科学者、否国民一人一人に科学とは何か、科学者のあり方、大学のあり方が深刻に、問われていることを。今、人類が未曾有の科学・技術の革命期にあることを。
・・・・・・・・・・・・・・・
君よ、今こそ我らは、日本の科学者の誓い、日本学術会議声明を、朝日に匂う桜が如く心に蘇らせるのだ。『軍事目的のための科学研究を行わない』そして、『戦争を目的とする科学の研究には絶対従わない』。
**********
一風変わった、古風な、そして、胸がすくような文章です。多額の研究費を獲得して自分のグループの研究の成果を挙げようとする有力な研究者たちすべてが、この檄文に耳を傾けてくれることを願っています。医学研究者としての福島雅典氏の物の考え方については次の記事が参考になります:

http://www.hhk.jp/hyogo-hokeni-shinbun/backnumber/2016/0605/070001.php

 私は、自然科学研究者としての生涯を通じて、軍部あるいは軍事に関連のある如何なる資金源からも、一文たりとも金を頂戴せずに、一生を全うすることが出来ました。それは一人の恩人のお蔭です。まあ話を聞いて下さい。
 1958年、私は、シカゴ大学物理学教室のロバート・マリケン教授から突然招待を受けて、研究員として渡米することになりました。問題は渡米の方法で、マリケン教授からの手紙では、旅行にはMATS(Military Air Transportation Service) の飛行機に乗れるように手配するから、ということでした。私はMATSのことは全く何も知りませんでしたが、MATSはベルリン空輸(1948-1949)や朝鮮戦争(1950-1953) で既に大活躍していた米国の軍事空輸組織でした。米国政府と関係のある民間米国人も利用していたようですが、私がMATSに乗りたくなかったのは、反軍反戦の思想からでは全くなく、MATSの輸送機が発着する米空軍基地がどこになるかは、民間機と違ってその日になってみないとはっきりしないことなどを知らされて、すっかり怖気付いてしまったからでした。当時の私は国内の民間機(日本航空)にも乗った経験がなく、ましてや、米国の輸送機で米国軍人や軍属民間人に混じって初の海外旅行などとても出来そうに思えなかったので、私はマリケン教授のオファーを断り、民間航空会社の便で渡米しました。ところがマリケン教授は私の謝絶を私の抱く反軍、あるいは、反占領米軍の思想の故と思い込んでしまったのでした。
 当時、マリケンの率いる研究チームは創成期のコンピューターを使って分子の物理的化学的性質を計算によって解明するというComputer Chemistry の最前線にあり、マリケンのグループにはシカゴ・ギャングという物騒な響きを持ちかねないニックネームが与えられていました。その研究の内容は純粋に理論化学的で、軍事研究とは全く結びつきのないものでしたが、この研究活動は主に米国海軍からの出資で賄われていました。しかし、マリケンは、私のシカゴ着任直後に、私の給料は軍と関係のない資金から支出されることを、ただ単純に、通告してくれました。これがMATS利用謝絶の結果だと私が悟ったのはしばらく後のことでした。
 「瓢簞から駒が出る」という言葉をここで使うのは不適切かもしれませんが、私は、マリケン教授の好意を一生無にしてはならないと考え、それ以来、意識的に軍部と結びつきのある資金源から研究費をもらうことを一切避けて自然科学研究者としての生涯を終えることができました。これが敬愛する恩人ロバート・マリケンのお話です。
 福島雅典さんの驥尾に付して、私も日本の科学者に反戦反軍の檄を飛ばしたいと思います。戦争はやめましょう。

藤永茂 (2017年4月4日)
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