私の闇の奥

藤永茂訳コンラッド著『闇の奥』の解説から始まりました

オジャラン(6)

2015-09-23 22:25:45 | 日記・エッセイ・コラム
 ジェレミー・コービンという社会主義政治家が英国の野党である労働党の党首に選ばれました。ウィキペディアには、「コービンは2015年6月6日に労働党党首選への出馬を表明した。最初は党首選において泡沫候補と考えられていたが、選挙のトップに躍り出、多くの世論調査で圧倒的支持を得たほか、労働党と提携する組合の多数及び提携のない組合3団体からも支持をとりつけた。2015年9月12日、コービンは初回投票において59.5%の得票で労働党党首に選ばれた。」とあります。以下に引用するのは、彼の2013年11月の発言の一部ですが、大変分かりやすい内容です。:
# If you want to live in a decent world, then is it right that the world’s economy is dominated by a group of unaccountable multinational corporations? They are the real power in the world today, not the nation-state. It’s the global corporations. And if you want to look at the victims of the ultimate of this free market catastrophe that the world is faced with at the moment, go to the shantytowns on the fringes of so many big cities around the world. Look at those people, migrants dying in the Mediterranean trying to get to Lampedusa. Why are they there? Why are they dying? Why are they living in such poverty? I’ll tell you this: It’s when the World Bank arrives and tells them to privatize all public services, to sell off state-owned land, to make inequality a paragon of virtue. That is what drives people away and into danger and poverty.
And I will conclude with this thought: Think about the world you want to live in. Do you want the dog to eat the dog, or do you want us all to care for each other, support each other, and eliminate poverty and injustice? A different world is possible. Thank you. #
「もしあなた方が真っ当な世界で暮らしたいと思うのでしたら、この世界の経済が無責任な多国籍企業の一群に支配されていてよいのでしょうか?彼らが今の世界の本当の権力であって、国民国家ではないのです。それはグローバルな企業体です。もし、この自由市場という災難の極の犠牲者をよく見たいと思うのなら、世界中の無数の大都会の周辺にある貧民街にお行きなさい。そこの人々をよく見てください。ランペドゥーサ島にたどり着こうとして地中海で溺死する人々を御覧なさい。なぜ彼らは死んで行くのか? なぜ彼らはあの様な貧困に中に生きているのか? それはこうなのです。世界銀行がやってきて、すべての公共サービスを民営化するように、国有地を売ってしまうように、不平等を美徳の手本とするように、人々に告げるようになると、それが人々を駆り立て、危険と貧困に追い立ててしまうのです。締めくくりに、私の想いを申し上げましょう。:あなた方が生きたいと思う世界のことをよく考えてください。食うか食われるかの世界を望みますか、それとも、我々すべてがお互いにいたわり合い、お互いに助け合い、そして貧困と不公平をなくしてしまうことを望みますか? 違う世界は可能なのです。ご静聴ありがとう。」#
 ロンドン在住の頼りになる論客タリク・アリによると、労働党からの下院(ハウス・オブ・コモン、庶民院)議員として、1983年から30余年一貫して、あらゆる戦争参加反対、反核、反ネオリベラル経済政策の立場を堅持して一度たりともブレたことはありません。虐げられた人々に接した時の彼の心の痛みは深刻にパーソナルなもので、深奥のその感性が政治家としての姿勢を決定しているからこそジェレミー・コービンは決してブレないのだと私は思います。政治家としての彼の「分かりやすさ」の理由もここにあります。分かりやすい政治家といえば、ウルグアイのホセ・ムヒカ(Jose Mujica)が思い出されます。(2013年12月3日の記事で取り上げました。)ムヒカは米国政府の定義に従えばテロリストとしての過去を持つ政治家ですが、心底に溢れる人間的優しさにおいてはコービンと同族です。そして、同じく“テロリスト”、オジャランも、“A different world is possible”と堅く信じて戦い続ける「分かりやすい」政治家の一人です。日本には底の見え透いた政治屋はいくらも居ますが、コービンやムヒカやオジャランの意味で「分かりやすい」政治家は見当たりません。
 日本では近頃テレビなどで「分かりやすいニュース解説」が流行のようですが、実際には、むしろ、致命的に「分かりにくい」解説、事の本質を隠蔽するための報道操作になっている場合が多いのではありますまいか。シリアやアフリカ諸国からの難民のヨーロッパ流入もその一例です。米欧の侵略行為が難民問題の原因だという事の本質を伏せる限り、分かりやすい解説は不可能です。もっと根本的には、難民たちの母国が貧しいのは米欧が彼らの富を強奪したからです。難民の一人が「本当の事を言えば、我々は移住しているのではない。我々は泥棒を追いかけているのだ。我々の持ち物を持ち去った先を確かめたい」と言ったと、何処かで読みました。痛烈な皮肉であり、事の核心を衝いています。
 「報道しない」という手も世論操作によく使われます。ロジャバ革命の原動力であるクルド人女性兵士たちが対イスラム國闘争で目覚ましい戦果を挙げている事、トルコのエルドアン大統領がイラク東部の山岳地帯のPKKのみならず、自国トルコの東部のクルド人地域の住民に対しても、軍事的暴力を振るって襲いかかっている事実を、米欧マスメディアは殆ど報じません。
 私が最も注目するのは、ロジャバ革命の地域でクルド人女性戦士とアサド政府軍が協力してイスラム国軍と闘っているという報道です。ソースはRT(ロシア・トゥデイ)で4分のムービーですが、信憑性は高いと思われます。戦闘の場所はシリア東部の端っこのハサカーです。米国の週刊誌「ニューズウィーク」も同じ戦闘が報じていますが、シリア政府軍の役割をなるだけ貶めようとする筆致は興味ふかいものです。

https://syria360.wordpress.com/2015/09/14/report-from-hasakah-kurdish-women-syrian-army-fighting-isis-on-the-frontline/

http://europe.newsweek.com/report-isis-ousted-syrian-city-hasakah-330957

もう一つ、オジャランの教えを奉じて不倶戴天の敵イスラム國と闘うクルド人女性たちについての感動的な報道記事を紹介します。

http://new-compass.net/articles/after-genocide-yazidi-women-fight-back

 2014年6月、イラク北部とシリア東部にまたがる地域で建国を宣言したイスラム國はイラク北部でイラク政府軍を容易に撃破してしまいます。しかし、首都バグダッドに向けては進撃を始めず、イラク北部のクルド人地域に兵力を向け、8月初旬、シリアとの国境に近い人口二十数万の都市Sinjarに襲いかかり、数千人を虐殺し、多数の女性を性的奴隷として捕獲しました。市民数万人は近くの山岳地帯へ逃げ込みましたが、イスラム國軍に道路を封鎖されて、餓死の危険に晒される事になりました。これがSinjar Massacreと呼ばれる事件です。
 Sinjarはクルド語ではShengalと呼ばれ、この小都市の住民の大多数はYazidiと呼ばれる独特の宗教を持つ部族の人々で、社会的習慣も独特の保守性を維持していました。上に掲げた報道記事『After the Genocide: Yazidi Women Fight Back』によると、シェンジャルの住民を守るはずであったイラク北部のクルド民主党(KDP)支配下のクルディスタン自治政府の軍隊ペシュメルガはISの侵攻の前に早々とシェンジャルを見捨てて撤退してしまいました。しかし、PKKのゲリラ兵士、ロジャバ地域からのYPG,YPJの男女混成部隊はISの封鎖を破って山岳地帯に閉じ込められたヤジディの人達一万人を西方に救出しました。
 それから1年、その間に、ヤジディの女性に大いなる覚醒、革命の時が訪ずれました。アブドゥッラー・オジャランの思想が彼女らの間にも力強く広がっているのです。それが“Yazidi Women Fight Back”というタイトルの意味です。

和訳する時間がありませんので、原文を移します。
********************
For an entire year, Yazidi women have been portrayed as helpless rape victims by the media. Countless interviews repeatedly asked them how often they were raped and sold, ruthlessly making them relive the trauma for the sake of sensationalist news reporting. Yazidi women were presented as the embodiment of the crying, passively surrendering woman, the ultimate victim of the Islamic State group, the female white flag to patriarchy. Furthermore, the wildest orientalist portrayals grotesquely reduced one of the oldest surviving religions in the world to a new exotic field yet to be explored.
Ignored is the fact that Yazidi women armed themselves and now mobilize ideologically, socially, politically and militarily with the framework laid out by Abdullah Öcalan, leader of the PKK. In January, the Shengal Founding Council was established by Yazidi delegates from both the mountain and the refugee camps, demanding a system of autonomy independent of the central Iraqi government or the KRG. Several committees for education, culture, health, defense, women, youth, and economy organize everyday issues. The council is based on democratic autonomy, as articulated by Öcalan, and met harsh opposition by the KDP, the same party which fled Shengal without a fight. The newly-founded YBŞ (Shengal Resistance Units), the all-women’s army YPJ-Shengal, and the PKK build the frontline against the Islamic State group here, without receiving a share of the weapons provided to the peshmerga by international forces. Several YBŞ and council members were also arrested in Iraqi Kurdistan.
On July 29, women of all ages made history by founding the autonomous Shengal Women’s Council, promising: “The organization of Yazidi women will be the revenge for all massacres.” They decided that families must not intervene when girls want to participate in any part of the struggle and committed to internally democratizing and transforming their own community. They do not want to simply “buy back” the kidnapped women, but liberate them through active mobilization by establishing not only a physical, but also a philosophical self-defense against all forms of violence.
********************
また、Sozdar Avestaという名のヤズディ女性の力強い発言も写しておきます。:
“It is not a coincidence that the Islamic State group attacked one of the oldest communities in the world. Their aim is to destroy all ethical values and cultures of the Middle East. In attacking the Yazidis, they tried to wipe out history. The Islamic State group explicitly organizes against Öcalan’s philosophy, against women’s liberation, against the unity of all communities. Thus, defeating the group requires the right sociology and history-reading. Beyond physically destroying them, we must also remove the Islamic State group-ideology mentally, which also persists in the current world order.”
********************

日本語の良い報道記事があることに気がつきましたので紹介させていただきます。遅きに失しました。

http://www.asiapress.org/apn/archives/2014/09/08082015.php

藤永茂 (2015年9月23日)
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4 コメント

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事の真相を突き詰めれば① (sugiyama hideko)
2015-09-24 09:53:43
事の真相を突き詰めれば①

いつも藤永さんの素晴らしいブログに触れて、清々しい気分になります。
出がけで恐縮ですが、コメント一部送信。

難民の一人が「本当の事を言えば、我々は移住しているのではない。我々は泥棒を追いかけているのだ。我々の持ち物を持ち去った先を確かめたい」と言ったというのはぐさりときます。ことの本質はこれに尽きると思います。→続きは後程。
事の真相を突き詰めれば② (sugiyama hideko)
2015-09-25 09:12:31
私信

昨日、事の真相を突き詰めれば②を投稿しましたが、うっかりコピーとっていません。
万が一到着しない場合は修正原稿なしなのでご了承ください。
今多忙で時々ポカをしてしまいます。
多忙ですが、忙中閑ありで藤永さんの『アメリカ・インディアン悲史』を読んでいます。このような素敵な本が多忙にもかかわらず購入できて読めるなんてホントに私は果報者で~す。
世界は一瞬にして繋がる (Hitoshi Yokoo)
2015-09-26 11:52:20
youtubeには、クルド労働者党(PKK)をはじめ、クルドの人達の動画も多数アップされています。

先日、何十年ぶりかの英語で、ある動画にコメントを書き込みました。内容は、藤永ブログで学んだことを稚拙な英語で表しただけですが。

すぐに反応がありました。その方はイラク出身のクルドの女性で、フセインのクルド弾圧の際、スコットランドに難民として移住された方のようです。

クルドの人達は、生まれ故郷に住む人はもちろんのこと、海外へと逃避された方達も含めて、現状の行く末を私どもの窺え知れない思いでもって注視されています。

クルドの人達から見れば、まるで異国の私達ですが、その私達が、公正な判断の下に、トルコ政府やイスラム国の理不尽な所業を指摘し、非難するだけでも、クルドの人達にとっては、生きる励みになるのだと思いました。

クルドの人達に、「あなた方は孤立してはいない、世界はあなた方に目を注ぎ、公正な判断の下、あなた方とともにある」、そのようなメッセージを伝えることは私達にもできますし、私達の義務でもあるような気がします。

かつて、サパティスタ運動において、ネットが利用され、世界の視線がメキシコ政府の軍事対応を抑制したように、私達の視線をトルコ政府のPKKに対する軍事発動に注ぎ、その行為が為された場合、即座に抗議の意志を世界に向けて発信することは可能です。
事の真相を突き詰めれば③ (sugiyama hideko)
2015-09-28 16:19:41
前掲者のHitoshi Yokooさんのコメントとても時宜にかなった考えですね。世界は広く見えてもネット時代、トルコ政府のPKKに対する軍事挑発や策動に対してクルド人を守る世界的な連帯運動を展開することもできますね。今世界ではクルド人女性のみならず、心あるヤクート人、ロシア人女性などが草の根で戦っています。連帯の証にレターを送信し励ましあうことも可能な時代になりました。

明日はマレーシア人女性と会う約束で
す。これからの時代にとって何が大切かじっくり話し合うつもりです。
一つ言えることは社会が女性の力を信じ
仕事を託すれば女性は相当のことができるということです。この3月にキューバの医療施設を訪問してキューバ医科大学の学長だの、老人施設の施設長、などが女性で堂々と先進的に仕事に取り組んでいることに瞠目しました。そこには男女の区別も差もない、感動的でした。ロシア人女性や引っ込み思案の日本人女性に見せてやりたいと思いました。 -続

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