私の闇の奥

藤永茂訳コンラッド著『闇の奥』の解説から始まりました

シリア、プーチン、オバマ

2015-10-07 22:45:30 | 日記
 今、私の心の中で繰り返しているのは「人を馬鹿にするのも程々にしてくれ」という言葉です。米国が、ISについての巨大なそして見え透いた大嘘をこのまま押し通せると、本気で思っていたのだとすれば、これは arrogance, hubris の極みと言わなければなりません。マスメディアの操作でどんな嘘でも一般大衆に押しつけることが出来ると考えている人々が世の中を支配しているのだとすると、これは実に恐るべきことです。米国がIS対策として組織したいわゆる有志連合なるものが発足してからほぼ一年が経ちますが、その頃米軍の一高官が「ISを制圧するには50年ぐらいかかるだろう」と発言したことがありました。
 このISという米欧側の傭兵組織体が、今回のロシア軍の介入によって、数ヶ月という短時間で崩壊することがあっては大変ですから、米欧側は何とか嘘の巧妙さを jack up して、とにかくアサド政権をつぶす所まで事を運ばなければなりません。これに関して、10月4日付のニューヨークタイムズに、極めて興味深い記事が出ました。オバマ大統領はシリアについて二つの新しい重要な動きに出るというのです。しかも、それは今回のプーチンのシリアへの

http://www.nytimes.com/2015/10/05/world/middleeast/us-aims-to-put-more-pressure-on-isis-in-syria.html

軍事介入より以前に立案されたというふれ込みです。第一に、地上でアサド政府軍と戦っている勢力に、今回初めて直接に、弾薬と武器を供給する事、第二に、シリアの北東部に重点を置いて、二万人以上のクルド人兵士(ロジャバ革命軍!)に三千人から五千人のアラブ人兵士を加えた対ISテロリスト軍団を編成して、米国空軍を主力とする有志連盟諸国の空軍がISを猛爆する。目指すは、IS(イスラム国)の“首都”ラッカ(Raqqa)、ロジャバ革命のレニングラードとも呼ばれるコバネのほぼ南100キロに位置します。オバマにしてみれば、ラッカをプーチンより先にどうしても占領したいのでしょう。これまでの、そして、これからの歴史的糊塗の仕事もあるでしょうから。三千人から五千人のアラブ人兵士はどうでも良いことです。でも、二万人以上のクルド人兵士の実の中身がオバマには分かっているのでしょうか? 彼女ら彼らの憲法草案に何が書かれているかを知っているでしょうか? 

http://civiroglu.net/the-constitution-of-the-rojava-cantons/

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The Constitution of the Rojava Cantons

Preamble

We, the people of the Democratic Autonomous Regions of Afrin, Jazira and Kobane, a confederation of Kurds, Arabs, Syrics, Arameans, Turkmen, Armenians and Chechens, freely and solemnly declare and establish this Charter.

In pursuit of freedom, justice, dignity and democracy and led by principles of equality and environmental sustainability, the Charter proclaims a new social contract, based upon mutual and peaceful coexistence and understanding between all strands of society. It protects fundamental human rights and liberties and reaffirms the peoples’ right to self-determination.

Under the Charter, we, the people of the Autonomous Regions, unite in the spirit of reconciliation, pluralism and democratic participation so that all may express themselves freely in public life. In building a society free from authoritarianism, militarism, centralism and the intervention of religious authority in public affairs, the Charter recognizes Syria’s territorial integrity and aspires to maintain domestic and international peace.

In establishing this Charter, we declare a political system and civil administration founded upon a social contract that reconciles the rich mosaic of Syria through a transitional phase from dictatorship, civil war and destruction, to a new democratic society where civic life and social justice are preserved.

ロジャバ諸県の憲法

前文

我々、クルド人、アラブ人、シリア人、アラム人、トルコ人、アルメニア人、チェチェン人の連合体である、アフリン、ジャジーラ、コバネ三県の民主的自治区の人民は、率直かつ厳粛にこの憲章を宣言し、制定する。

自由、正義、尊厳、そして民主主義を求め、平等と環境的持続可能性の原理に導かれて、この憲章は、お互いの平和な共存と社会のすべての要素の間の理解に基づく新しい社会契約を宣言する。それは基本的人権と自由を擁護し、人民の自決の権利をあらためて確認する。

この憲章の下、我々この自治区の人民は、すべての人々が公共生活で自由に自己表現できるように、和解、多元的共存、民主的参加の精神で一致団結する。権威独裁主義、軍事主義、中央集権、公事への宗教的権威の干渉から自由な社会を建設するために、この憲章はシリアの領土的一体性を認め、国内的また国際的平和を維持することを強く願うものである。

この憲章を制定するにあたって、我々は、独裁政治、内戦、破壊から、市民生活と社会正義が保護される新しい民主的社会への遷移の局面を経て、シリアの豊かなモザイックを調和させる社会契約に基づいた政治的システムと市民行政を布告する。

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米空軍の本気の爆撃に支援された二万余のクルド人兵士は比較的短期間でラッカからISの悪漢たち(英語のthugsという言葉が彼らにぴったりです)を追い出すことに成功するでしょうが、その後の米欧の猿芝居は、結局、惨めな破綻に終わるに違いありません。私がそう考える主な理由は、シリア東北部のトルコ/シリア国境地帯のいわゆるロジャバ革命の本拠地だけではなく、イラク北部のクルド人地域でも、上掲の憲法に盛られたオジャランの思想と政治的プログラムに基づいた草の根の生活共同体の組織運動が力強く拡大しているという事実にあります。その例の一つは先日のブログ『オジャラン(6)』で紹介した「大虐殺の後で:ヤジディ女性たちの反撃」が進行しているシェンジャル、もう一つは、イラク・クルディスタンの首都エルビル(Erbil)から車で一時間ほどの所にあるMakhmourの難民キャンプで、ここには1990年代のトルコの圧政の攻撃目標となった村落からの避難民約10万人が苦しい難民生活を営んでいます。このクルド人難民キャンプの最近の状況が次のサイトで報じられていますので詳しくは原文をお読み下さい。シェンジャルと同じく、このマクムール難民キャンプにもISが襲いかかりましたが、女性たちが見事にキャンプを守り通したようです。

https://libya360.wordpress.com/2015/10/05/meet-the-self-determining-refugees-in-kurdistan/

この記事の終わりに、マクムール難民キャンプの一女性の見事な言葉が書きとめてあります。
“They fear us, because we stand on our feet. We did not trust anyone to save us, we took our fate into our own hands and created our own self-defense and social system. We made life sweeter by organizing ourselves.”

 ISのthugsの間には「女の兵士に殺されると天国に行き損なう」という迷信があるのだそうです。何と格好をつけようと、とどのつまりは傭兵に過ぎないISの男性兵士たちとまなじりを決したクルドの女性兵士との対決、勝利が帰すべき側は明白です。

藤永 茂 (2015年10月7日)

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