私の闇の奥

藤永茂訳コンラッド著『闇の奥』の解説から始まりました

ロジャバ革命(2)

2015-02-11 21:31:00 | 日記・エッセイ・コラム
 少しばかり復習します。クルド人はトルコ・イラク北部・イラン北西部・シリア東北部等、中東の各国に広くまたがる形で分布する、独自の国家を持たない世界最大の民族集団です。人口は2,500万~3,000万人、中東ではアラブ人・トルコ人・ペルシャ人(イラン人)の次に多く、宗教はその大半がイスラム教に属します。もともとは、今のシリア東北部からイラク北部、中部を中心に一応まとまった居住地域を持っていたのですが、第一次世界大戦でオスマン帝国が敗れ、サイクス・ピコ協定に基づいてフランスとイギリスが勝手に引いた国境線によって、トルコ、イラク、イラン、シリアなどに分断され、各国内では少数民族になってしまったのでした。これまでの中東紛争のニュースでよく耳にしたのは、イラク北部のクルド人自治区と呼ばれる地域で、ブッシュのイラク侵略戦争でサダム・フセイン政権が打倒され、フセインが殺害された大きな理由の一つは、彼がイラク北部のクルド人を毒ガス攻撃で大量虐殺したという米国の主張でした。クルド人が毒ガスの被害にあったのは事実のようですが、全体的な事の真相は不分明です。この地区は、米国の中東政策の一つの要として、米国の庇護が厚く、クルド人自治区としての自由が米国によって与えられ、その首都エルビルは、石油資源目当ての米欧からの巨大な資本流入で高層ビルの建設ラッシュが進行中、第二のドバイと呼ばれることもあります。
 一方、イラク北部、シリア北部に接するトルコの国内のクルド人たちの状況は大変異なります。トルコには、その総人口約8千万人の18%、つまり約1400万人のクルド人が住んでいますが、公式には民族集団と認められてはいません。米欧の厚い庇護を受けているこのイラク北部のクルド人たちとは異なり、トルコ政府の厳しい抑圧と差別の対象であり、米欧の庇護はありません。トルコでのクルド人の反政府勢力の中核は「クルド労働者党」(PKK,Partiya Karkeran Kurdistan)で、その指導者はアブドラ・オジャラン (Abdullah Ocalan)です。この人物についてはPSIA(公安調査庁)のウェブサイトに次のような記事が出ています。:

http://www.moj.go.jp/psia/ITH/organizations/ME_N-africa/PKK.html

「(クルド労働者党の)設立者で象徴的指導者。1948年,トルコ生まれ。1970年代,トルコ・アンカラ大学に在学していた際に,左翼系武装組織「民族解放軍」の指導者に就任した。1978年,同組織の名称を「クルド労働者党」(PKK)に変更し,同国南東部での「クルド人国家の樹立」に向けて活動した。
1980年のトルコ軍による「9.12クーデター」の数週間前にトルコを出国し,シリアなどに滞在していたが,後に,アフリカなどで潜伏場所を探していたところ,1999年2月,ケニアで拘束された。
 オジャランは,1999年6月,トルコ領域の一部を分離させるために計画的な行動を実行するなどしたとして,アンカラの治安裁判所から死刑を言い渡された。同年8月には,獄中から「和平イニシアチブ」を発表した。同人は,2002年10月,トルコでの死刑廃止(同年8月)に伴い,アンカラの治安裁判所により死刑から終身刑に減刑された。現在は,マルマラ海のイムラル島で服役中である。」

 上にある「和平イニシアチブ」以後のオジャランが説いている思想が、コバニでイスラム国軍隊と死闘を繰り返し、遂に勝利を収めたクルド人男女兵士たちを支えたイデオロギー的な力であったのです。その本質は、このブログの前回に訳出したロジャバ諸県の憲法の前文から読み取れます。
 コバネ攻防の4ヶ月の死闘の幕開けから間もない時期に、ロジャバ革命の世界的意義についての分かりやすい解説を含む報道記事がガーディアン紙(2014年10月9日付)に掲載されました。:

https://zcomm.org/znetarticle/why-is-the-world-ignoring-the-revolutionary-kurds-in-syria/

これを読めば、オジャランのここ10年の思想の本質がどのようなものであるかが理解できます。そこにはメキシコの先住民農民のサパティスタ運動の影響が述べられています。この農民運動のことはご存知の方も多いと思いますが、TPPを押し付けられようとしている今の我々日本人にとっても全く他人事ではありませんので、和文ウィキペディアから少し長い引用をさせて貰います。:

歴史

マルコス副司令官が実質的な指導者である。
サパティスタという名称は、メキシコ革命において農民解放運動を指揮したエミリアーノ・サパタにちなむもので(「サパタ主義(サパティスモ)」)、サパティスタ民族解放軍はこのサパタの思想を引き継いだ革命行動である。
1994年1月1日、北米自由貿易協定(NAFTA)の発効日に、サパティスタ民族解放軍は、「NAFTAは貧しいチアパスの農民にとって死刑宣告に等しい」として、メキシコ南部のチアパス州ラカンドンにおいて武装蜂起した。NAFTAによって貿易関税が消失し、アメリカ合衆国産の競争力の強いトウモロコシが流れ込むと、メキシコの農業が崩壊することや、農民のさらなる窮乏化が予測されたのである。実際にメキシコでは、NAFTA発効後、多くの農民が自由競争に敗れて失業し、メキシコ市のスラムや北部国境のリオ・ブラーボ川を越えてアメリカ合衆国に流入した。ラカンドンでは、木材のグローバル商業化や、石油やウランの発掘がもくろまれており、当地の先住民を一掃する大規模な強制排除計画が進みつつあった。具体的には、白色警備隊と呼ばれるギャング組織が大規模農園主によって雇われ、暗躍し始めていた。身に迫る脅威を前に、インディオたちはついに、500年の抑圧を経て立ち上がったのである。
これに対し、メキシコ政府は武力鎮圧で応じ、チアパス州のインディオ居住区を中心に空爆を行なったため、サパティスタ側に150人近い犠牲者が出た。これを受けて、サパティスタ側は対話路線に転換したが、結果的にそれが奏功し、以後、メキシコ国内外から高い評価と支援を受けることになる。
サパティスタ民族解放軍は、先住民に対する構造的な差別を糾弾し、農地改革修正など政府の新自由主義政策に反対、農民の生活向上、民主化の推進を要求し、政府との交渉と中断を何度も繰り返しながらも、今日まで確実にその支持者を増やし続けている。
サパティスタ民族解放軍の実質的リーダーは、サパティスタ民族解放軍のスポークマンであり反乱軍の指揮も執るマルコス副司令官であるが、マルコスは例外的に非先住民族である。マルコスが反乱軍の指揮を執りながら司令官ではなく副司令官を名乗るのは、「真の司令官は人民である」との信念に基づく。

評価

サパティスタ運動の方法論や主張は、従来の左翼ゲリラと一線を画しているため世界的な注目を得ている。サパティスタ運動は、最初のポストモダン的革命運動であると言われているが、それはサパティスタ民族解放軍がインターネットを介して大々的に自らの主張を展開し、またそれによって世界的な支援を獲得したために、もはや武力などの実力を行使せずとも隠然たる影響力をメキシコ政府に対して持つに至ったというまさにIT時代の革命運動だったからである。たとえば、マニュエル・カステルは、サパティスタを「初の国際ゲリラ」と称している。この点において、コロンビア革命軍やIRA、日本の極左暴力集団に代表される、武力や脅迫といった一般人の犠牲者をも生むテロリズムに頼る前例とは異なった革新的手法と言える。■

  上掲のガーディアン紙の記事が出てから3ヶ月間、コバニをめぐるクルド人男女戦士とイスラム国軍の死闘が続いた訳です。めでたい結果になったのはなによりでした。ロジャバ地域でのクルド人たちの勝利がほぼ確立された2015年1月中旬あたりから、「ロジャバ革命」の現地報告が続々と現れました。有力な進歩的ウェブサイトの一つであるzcomm.org に出た記事を3つ(その1その2その3)を挙げておきますのでご覧ください。読んで嬉しくなること必定。

https://zcomm.org/znetarticle/impressions-of-rojava/

https://zcomm.org/znetarticle/unfolding-revolution-in-rojava/

https://zcomm.org/znetarticle/joint-statement-of-the-academic-delegation-to-rojava/

極めて興味深い動画もあります。:

https://www.youtube.com/watch?v=Dte5iCbvoNY

#1. Stateless Democracy: The Revolution in Rojava Kurdistan [part 1]

[part 2] もあります。

http://vimeo.com/109625788

PART 2: vimeo.com/debalie/statelessdemocracy2 (also on youtu.be/TldgkitcS-s )

 ところで、米国とNATOはロジャバのクルド人たちをどう扱っているでしょうか?コバニでの勝利が確実になった1月22日、ロンドンでの米国主導の対「イスラム国 」有志連合のメンバーの会合に、クルド人勢力からの代表は一人として招待されませんでした。シリア北部のコバニでの決定的勝利だけでなく、イラク北部でも、イスラム国に対して軍事的勝利を収めているのは、ほぼクルド人部隊だけと言っても余り言い過ぎではないのが現状です。米国は米国空軍による空爆の効果ばかりを強調しますが、勇猛果敢なクルド人地上部隊の奮闘がなければ、これだけの戦果は不可能であることは、現地からの報道に照らせば、否定の余地はありません。しかし、オバマ大統領やケリー国務長官を含む米国政府筋の公式談話や声明の中に、ロジャバで起こっているクルド人たちの自治運動(ロジャバ革命!)を些かでも匂わす文言は半片すらも見当たりません。米国とNATOの意図は明白です。このままで行けば、クルド人たちは、又しても、使い捨てされる運命にあります。
 メキシコのチアパス州のサパティスタ人口は多くて数千という所かと推定します。少数ではありますが、健在です。1994年1月1日のサパティスタ反乱から21年、その共同社会の最大の特徴の一つは、ほぼ完全な女性解放、男女同権の実現です。シリア東北部のトルコ国境周辺で立ち上げられようとしているロジャバ革命の自治共同体の中での女性の地位はそれに習ったものとも言えるのではありますまいか。しかも、このサパティスタ・クルド人の人口は、数千人ではなく、数百万人のオーダーです。こんな人間集団の存在を米国が許す筈はありません。「イスラム国」も、勿論、ロジャバ革命を許すべからざるものとして猛然と襲いかかったのですが、解放されたクルドの女性たちは男性たちと肩を並べて、見事にイスラム国軍を打ち負かしました。米国の本当の“本音”を推察すれば、「ロジャバ革命よりはイスラム国の方がまだましだ」ということになりましょう。
 サパティスタの中核的なモットーに「別の世界が可能だ」というのがあります。私たちも敢えてその標語を信じ、チアパスのサパティスタを、ロジャバのサパティスタを支援しなければなりません。

藤永茂 (2015年2月11日)
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3 コメント

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アサドの姿勢が気になります (特命希望)
2015-02-13 07:36:57
おはようございます。
同じくISISはじめ反政府過激派を取り締まってくれていたアサド氏はこのクルド人運動にどんな姿勢、評価をしているか知りたいのですが、なにか役立ちそうな資料があれば教えて頂けないでしょうか。
アサドの姿勢 (藤永茂)
2015-02-14 21:13:48
https://zcomm.org/znetarticle/impressions-of-rojava/
これは本文中にも引いた記事で、その中のRojava's Third Way と題する部分にお尋ねに対する答えが、不十分ながら、出ています。
いくつかのリンク (Kurdish learner)
2015-05-09 19:18:51
はじめまして。
ロジャバ革命について日本語で検索して辿り着きました。
突然のコメントにて大変失礼いたします。

文中で紹介されていますガーディアンの記事の執筆者はデヴィッド・グレーバーという高名な米国出身の人類学者で、「報道記事」というよりは「著名知識人によるオピニオン記事」といった性格ではないかと思います。グレーバーは現在英国を拠点としており、同じく英国を拠点とするアナキスト系ウェブサイトlibcom.orgではロジャバ革命をめぐって激論が交わされており、グレーバーは「ロジャバ革命否定派」にとって代表的な「論敵」となっている模様です。
その喧々諤々している様子が良く分かる論考のリンクを貼らせて頂きます。
https://libcom.org/blog/dear-cheerleaders-we-need-have-chat-about-imperialism-04042015

現在、ロジャバ革命についての情報が英語で一番集まっているのは、以下のサイトではないかと思います。
http://kurdishquestion.com/
こちらのサイトにはその性格上、ロジャバ革命に懐疑的な論考が掲載されることはまずありません。

お目汚し失礼いたしました。

一介のクルド語学習者より

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