(西口尚宏氏)
日経BIZ+PLUS 9月28日付の、西口尚宏氏(マーサー・ヒューマン・リソース・コンサルティング代表取締役常務M&A部門アジア太平洋地域 統括)のコラム記事である。
記事自体のタイトルは、「クロスボーダーM&Aの特徴(2007/09/28)」である。
記事それ自体に目を通す価値があると考えられ、タイトルにリンクを張っておくので、アクセスして目を通すとよい。ちなみに、記事のサブタイトルは、「なぜクロスボーダーM&Aが難しいのか」である。
クロスボーダーとは、まさに、ボーダー(国境)をクロスする、つまり、国境を越えるという意味であり、それがM&Aという用語と結びつき、クロスボーダーM&Aという合成語が出来上がる。
すなわち、国家間をまたがるM&Aという意味で、単純にいえば、「外国企業の買収」ということになる。
西口氏は、「なぜクロスボーダーM&Aが難しいのか」について、3点指摘しており、そのポイントは下記の通りである。
1)複雑な文化等融合
2)クロスボーダーM&Aに精通した人材の不足
3)ガバナンスの難しさ
確かに、外国企業であるため、その国の企業文化も含め、「異なる企業文化をどのように融合させるか」という課題を抱えることになる。
また、M&AおよびM&A後を、期待する方向で統括できる人材がいるか、ということも課題になる。
また、人種、文化の相違等もあり、企業統治をあるべき姿に作り上げることができるかということも重要なポイントとなる。
西口氏は、それぞれのポイントにつき、次のように分析している。
直接西口氏の分析に目を通したほうが理解も早いと思われるため、記事を引用させて頂く。
========
記事引用
========
1)複雑な文化等融合
クロスボーダーM&Aでは、少なくとも三種類の文化を相手にした戦略的な対応が必要となる。その三種類の文化とは、(1)社会文化(それぞれの国や民族の文化)、(2)企業文化(ビジネスの成果を出すために企業の多くの人がとる行動およびその動機付けの集合体)、(3)職業文化(それぞれの職業人が持つ職業上の価値観やそこから生まれる共通言語により形成される文化)である。
クロスボーダーM&Aの現場で、多くの企業が犯してしまう典型的な間違いは、これら三つの文化を混同して理解、判断をしてしまい、相手に変わることを期待してはいけない分野でその期待をし、変革を期待できる分野でアクションをとらないことであると言えよう。例えば、相手の社会文化を日本文化に同化させようとか、或いは社会文化自体を否定してしまうのが典型的な失敗のパターンだ。
2)クロスボーダーM&Aに精通した人材の不足
以上述べたような社会文化や企業文化が複雑に絡み合った状況の中で、複眼志向に基づいた分析・判断を行い、現地マネジメント、従業員を巻き込みながら対象会社の経営を行える人材は滅多にいないのが現実だ。
クロスボーダーM&Aに精通するということは、グローバル人材マネジメントに精通する、ということに他ならない。すなわち、「日本と異なる」課題を適切に把握し、自社の経営哲学やそれに基づいた人事理念や行動指針を浸透させる上で、組織・人事上「変えるべきこと」「変える必要のないこと」を見極め、中長期的に人材マネジメントを行っていく力が必要、ということだ。
3)ガバナンスの難しさ
複雑な文化統合という課題、その課題に取り組み解決する社内人材の不足という状況の二つの変数がある場合、その歪みはガバナンスに露骨に集約されることが多い。
本来分析・理解しなければいけない企業文化が社会文化の影に隠れて見えなくなっており、また語学のハンディもあり、相手企業従業員を主導的な巻き込む人材が社内に不足していることから、いわゆる「内部者」になりきれないまま、時間が経ってしまう。
従って、日本では働いていたはずの「ガバナンス」を効かしきることなく、極端な放置経営型か極端な片寄せ型(日本のやり方を持ち込むパターン)になってしまうことが往々にして起こる。
M&Aによって一夜にして増えた数千、数万人の各国の人材に対して、グローバル人材マネジメントを行っていく必要がある。ただ、ここは日本企業が最も経験値が不足している部分だ。なぜなら、日本企業の既存の海外拠点の人材マネジメントについても、完全に現地の人事ディレクターに任せきりで、本社は全く把握していないというケースが意外なほど多いからだ。
========
確かに指摘しているポイントは的を得ている。
ダイムラークライスラーも、発足当初は「世紀の合併」ともてはやされたが、上記のような3つのポイントに焦点を当てて分析を加えると、意外にダイムラー側のとった弱点、もしくは、失敗せざるを得なかった要因が見えてくるのかもしれない。
Written by Tatsuro Satoh on 9th Oct., 2007