僕の家内は招き猫が好き

個人的なエッセイ?

「雪が降る」 星降る街

2016年11月05日 | Book
藤原伊織さんの短編集「雪が降る」(講談社文庫)を読みました。
珠玉の短編集と銘打っていただけあって、胸にしみる作品でした。

表題作の「雪が降る」は、別れた恋人・陽子と、横浜で12年ぶりに再会した、中年男性・志村の一日を描きます。

たがいに惹かれながらも、かなわなかった思いが、雪の夜に燃え上がります。
そして、相手が自分にとって、今も変わりない大切な存在だと、気づいてしまうのです。

2人が、今まで感じたことのない、やわらかい、なごみ。
ただ、こうしているだけでいい。

それは、あまりにも切ない願いでした。

「また雪が降ったら、あなたのところにいく」
と、陽子は泣きながら、約束をします。

しかし、次の雪の夜、彼女は横浜に向かう途中、第三京浜でスリップ事故を起こして死んでしまいました。

藤原伊織さんの語り口には、ページには収まりきらない、日本的な情感が、色濃く漂っています。

恋人をやさしく、いたわり。
哀しいぐらいに、愛しむ。

生きていくうえで、なにが大切なのかを教えてくれます。

陽子が亡くなって、4年後。
志村のもとへ、彼女からの手紙が届きます。


 「今、午後3時です。
  雪が降っています。

  でも私の気分は、なんだか小春日和のようです。
  あなたに会えるかもしれないし、会えないかもしれない。
 
  でも、いいんです。
  この前、私は大人になったから。

  ねえ、人はすこしずつ大人になるんじゃなくて、いっぺんに大人になってしまう。
  そういうことがあるって思いませんか。

  私の場合、それがずいぶん遅すぎた。

  志村さん、大好きよ。
  これから私は、横浜に行きます。」


今夜も雪が降っている・・・。
純白の世界で戯れる、陽子の幻を見ていた志村を、静寂のときをつむぐ雪は、やさしく包んでくれたのでした。


◆参考文献 「雪が降る」 藤原伊織 講談社文庫
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