僕の家内は招き猫が好き

個人的なエッセイ?

「小さな生命」 星降る街

2017年10月07日 | Wish
子供のころ、この季節になると、きまって街角に子犬が捨てられていました。
そばを通る人を見つけては、一所懸命しっぽを振り、身体を摺り寄せる姿をよく見かけたものです。

下校途中、そんな子犬を家に連れて帰り、母親に叱られたことがありました。

泣く泣く子犬を拾った場所に戻し、私は一目散に走りました。
振り返ると子犬が私の後をついてきます。

追い払っても、どこまでもついてきました。

木かげに隠れ、じっと息を殺す私を、鼻を鳴らしながら、いつまでも捜し続ける子犬。
私は、その姿を今でも忘れることができません。

あの子犬は、あれからどうなったのか・・・。

心の中に、子犬の形をした空洞ができて、そこを吹く風がいつまでも止みませんでした。

私の実家には「ウリ」という雑種の雌犬がいます。
居候を決め込んで、十二年になります。

私が初めてウリと出合ったのは、大通りに面したマンションの駐車場の片隅でした。
友人の住むそのマンションを訪れたとき、生まれたばかりの子犬六匹を抱え、雨に打たれて震えている、やせこけた雌犬が、私の目に止まりました。

かわいそうに、と思いましたが、どうすることもできません。
後ろ髪を引かれる思いで、その場を去りました。

翌日、そして次の日と、私はマンションへ足を運びました。
誰もえさを与えている様子がありません。

このままでは死んでしまう。
私の脳裏に、子供のころの、あの日の情景がよみがえってきました・・・。

私は、動物が嫌いです。
かわいいと思うことはあっても、飼いたいと思ったことは、一度もありません。

しかし、今まさに消えようとする生命を目の前にして、どうしても見捨てることができませんでした。

七匹の犬を車に乗せ、家へ帰りました。
家族に見つからないように、リヤカーに移し、裏の竹林に急ぎました。

この日のために作っておいた犬小屋に、七匹を無事に押し込んだときには、身体中冷や汗でびっしょりになっていました。

見知らぬ場所に連れてこられ、不安な表情を浮かべる母犬を、私はなで続けました。

これから、この犬たちを、誰にも気づかれずに育てなければなりません。
生命の重さが、ずっしりと私にのしかかってきました。

やがて、七匹の犬は家族の知るところとなり、いずれ新しい飼い主を探すという条件で、飼うことになりました。

雨の日も風の日も、私はえさを竹林へ運びました。
子犬たちは、待ちわびるかのように犬小屋からはいだし、私のいくところに飛びはねついてきました。

心をほどくと、なにかが見えてきます。

いつしか、母犬と六匹の子犬は、私にとってかけがえのない、大切なものとなりました。

時は流れ、子犬は日ましに成長していきました。
いつまでも、子犬を手元に置いておくことはできません。

私は、必死に子犬をもらってくださる方を探しました。

薄霧に包まれた早朝、最初の別離がやってきました。
真新しい首輪をつけた子犬を抱きしめ「幸せになるんだぞ」と耳元でささやきました。

そして、迎えにきた新しい飼い主の車のシートに、子犬をそっと乗せました。

走りだす車を、追いかけていきたい気持ちをこらえながら、いつまでも手を振っていました。
車は角を曲がり、私は一人残されました・・・。

それから二週間のうちに、子犬たちはいなくなりました。

子犬たちにとって、人間に飼われることだけが幸せだったのかどうか、私にはわかりません。
しかし、私にはそれ以外に方法がありませんでした。

夜中、目がさめると、寂しくてなかなか寝つけないときがありました。
どしゃぶりの心に、かすかな光がほしくて、ほのかに輝く星を東の空が白み始めるまで、時を忘れ見上げていました。

子犬たちは私に、理屈を通り越した、暖かな気持ちと笑顔を与えてくれました。

私は、白髪が混じり年老いた母犬ウリと一緒に、子犬たちを育てた竹林へ足を運ぶときがあります。
十月の風は竹の葉を揺らし、さやさやと軽い音を奏でていました。

十二年前、ここに母犬と六匹に子犬がいました。

秋さわやかな、空の高い日。
今宵、あなたの心に寄り添うのは、そんな小さな生命なのかもしれません。

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