「高知ファンクラブ」 の連載記事集1

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鈴木朝夫の「ぷらっとウオーク」 ・・・出会うチャンスが多い造りほど良い

2010-11-24 | 鈴木朝夫の「ぷらっとウオーク」

「ぷらっとウオーク」                 情報プラットフォーム、No.236、5(2007)
{出会うチャンスが多い造りほど良い}

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  高知工科大学の基本的構想の中で特に重要視したことがある。誰とでも、何処でも、何時でも、出会う機会、挨拶の機会の多いキャンパス構造にしたいとの思いである。


 私の育った東工大・大岡山キャンパスは極めて平面的である。4階建ての本館以外は、実験棟・研究棟はすべて平屋である。イチョウ並木や芝生広場があり、出会いが多く、挨拶が自然に出てくる仕組みが温存されている。

昭和40年代に始まる学科増や大学院化の中で、横浜市郊外に新キャンパスが誕生した。この長津田キャンパスは9階建ての高層ビルが主流である。エレベーターは人との遭遇の可能性を極端に減少させる。他所の階を横に歩けば「何か用事ですか」、「久しぶりですね」と尋ねられることになる。立体的構造が人間関係を著しく阻害することを体感した。


  工科大のキャンパスでは、境界線に区切りの塀を設けず、研究棟・講義棟を可能な限り集中した建物にまとめようとした。二つの研究棟は4階の渡り廊下で接続しており、教員の部屋は平面的に連続している。

教室と実験室は1階の幅広い通路(廊下)を挟んで右側と左側に配置している。受講する1年生が実験室を身近に感じ、先輩と遭遇するチャンスが増えることを見込んでいる。幅広い廊下は3階まで吹き抜けである。

エレベーターとそのシャフトはガラス張りである。このような配慮が工科大生の人格形成にどのように役立ってかを示すことはできないが、挨拶のチャンスを増やしていることは確かである。


  高知に来て気が付いたことがある。大きな石積みに白い漆喰と瓦葺きの塀、そして威圧感のある門構えのお屋敷がご近所にある。しかし、この門と玄関が開くことは滅多にない。正月と法事の時だけである。私は「建前の入り口」と名付けた。

そのお家を普段に訪ねるときは勝手口や縁側に廻る。生活の息吹が感じられる「本音の入り口」である。それぞれが役割を分担しているのである。思い当たるのは今の一般住宅の間取りである。


  戦後の住宅難の時代に、2LDKや3LDKの公団住宅を作るに当たって、入り口を一つに決める必要があった。この時、日本人は「建て前の入り口」を選び、「本音の入り口」を捨てたのである。格式張った玄関ホールのある住宅を望んだのである。

玄関と奥のダイニングルームが廊下で結ばれている。廊下の両側には主寝室や子ども部屋が並んでいる。以後、日本人はこれが当然の、理想の間取りであると信じ込んでしまった。

そして、新興住宅地の戸建ち住宅も、高層マンションも、横並びの構造になってきたのである。これを読んだ皆さんも「それ以外に何があるのだ。冗談じゃない」と思うのは当然であろう。多くを知るわけではないが、アメリカでも、韓国でも、入り口とダイニングルームはほとんど一体である。アメリカの家庭ドラマのシーンを思い出して欲しい。


 子どもが玄関(入り口)からダイニングルームを通って、子ども部屋へ行く造りをイメージして欲しい。心のかよう家族の絆がもっと豊かに培われたと思われる。引きこもりとは無縁だったかも知れない。そして、ご近所の方とのお付き合いも変わっていただろう。ご近所と連携の採れる地域社会が素直に出来ていただろう。


 出会えるチャンスの多い造りが必要である。挨拶のチャンスが多いほど良い。

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鈴木朝夫  s-tomoo@diary.ocn.ne.jp

 高知県香美郡土佐山田町植718   Tel 0887-52-5154

 

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