極東極楽 ごくとうごくらく

豊饒なセカンドライフを求め大還暦までの旅日記

量子ドット工学講座 No.38

2017年05月07日 | デジタル革命渦論

           鄭のお家騒動、荘公の決断   /  鄭の荘公小覇の時代 

                                                

      ※ は、天子の国・周に隣接し、現在の河南宵洛陽の東方に前八世紀ごろ
        建国、第三代荘公によって一時は強盛をほこり前五世紀までつづいた。
        荘公は、長男として武公のあとをついだが、母の武美が次男・共叙段を
        溺愛し、段は位をねらう。が、荘公はよくこれに耐えて、一挙に解決す
        る。荘公の措置はきわめて陰険だが、古来、お家騒勣への対策の模範と
        されている。

 

  

 No. 11

 【量子ドット工学講座 No.38

Mar. 23, 2017

 ● 特許事例:US 2017/0084761A1 光電変換素子及びそれを含む電子機器

今回はサムソン電子株式会社の最新新規考案を考察する。この事例の光電変換素子は、光エネルギー
を電気エネルギーに変換し、可視光、赤外線、紫外線などの光に応答して電気信号または電力生成す
でき。フォトダイオード/太陽電池などの光電素子に関するものである。光電デバイスは、画像セン
サ、光センサなどに使用できる。赤、緑、青(RGB)ピクセルは、相補型金属酸化物半導体(CMOS)イメージセ
ンサ、RGBフォトセンサなどに使用しできる。典型的には、各サブピクセルに対応するカラーフィルタは、RGB
ピクセルの実装に使用できるものの、カラーフィルタを使用すると、クロスオーバーや光散乱、あるいは、素子
の集積度及び分解能が向上すると、画素内の光電素子サイズの減少るにつれ、フィルファクタ(特性曲線因
子)の減少や光利得の減少などのさまざまな限界や問題点が発生する。

【要約】

光電変換素子及びそれを含む電子機器の提供。光電変換素子は、光活性層――光活性層は、光に応答

して電荷生成するよう構成したナノ構造層/ナノ構造層に隣接する半導体層から構成――で構造/構
成で、ナノ構造層は、1つ以上の量子ドットを含み、また、半導体層は、酸化物半導体で構成しても
よく、光電素子、光活性層の異なる領域に接触する第1の電極および第2の電極で構成される。複数
の光電変換素子は、水平方向に配列してもよく、垂直方向に積層されていてもよい。また、この光電
変換素子は、カラーフィルタを用いることなく、異なる波長帯の光を吸収して検出できる(上下図ダ
ブクリ参照)。


【概要】

  • 吸収された(検出された)光の波長帯域が能動的に決定できる光電変換素子が提供できる。
  • 優れた光電変換特性/キャリア(電荷)伝達特性をもつ光電素子が提供できる。
  • 高い応答性/高い検出率をもつ光電変換素子が提供できる。
  • 集積化/高分解能化が可能な光電変換素子が提供できる。
  • カラーフィルタをもたないRGB画素の光電変換素子が提供できる。
  • サブピクセルを垂直方向に積み重ねて、水平方向のピクセルサイズを大幅に縮小できる光電変
    換素子が提供できる。
  • 透明デバイスに適用され得る光電変換素子が提供できる。
  • 半導体層の酸化物半導体には、例えば、酸化物半導体は、酸化亜鉛(ZnO)系酸化物、酸化イ
    ンジウ
    ム(InO)系酸化物、酸化スズ(SnO)系酸化物の中から選択できる。
  • また、酸化物半導体には、例えば、シリコンインジウム亜鉛酸化物(SIZO)、シリコン亜鉛ス
    ズ酸化物(SZTO)、酸化亜鉛(ZnO)、インジウム亜鉛酸化物(IZO)、亜鉛酸化スズ(ZTO)、
    ガリウムインジウム亜鉛酸化物(GIZO)、ハフニウムインジウム亜鉛酸化物(HIZO)、イン
    ジウム亜鉛酸化スズ(IZTO)、酸化スズ(SnO)、酸化インジウムスズ(ITO)、酸化インジ
    ウムガリウム(IGO)、酸化インジウム(InO)、および酸化アルミニウムインジウム(AIO)
    を含む。
  • また、半導体層は、約3.0eV~5.0eVのエネルギーバンドギャップをもつ。
  • また、 光活性層は、量子ドット層が半導体層内に埋め込まれた構造でもよい。
  • また、半導体層は、下部半導体層と上部半導体層とで構成し、量子ドット層は、下部半導体層
    と上部半
    導体層との間に設けてもよい。
  • 量子ドット層を構成する複数の量子ドットは、Ⅱ-Ⅵ族半導体、Ⅲ-Ⅴ族半導体、Ⅳ-Ⅵ族半導体
    Ⅳ族半導体、およびグラフェン量子ドットでもよい。(※以下、詳細は上記図をダブクリック
    参照)。

【図の簡単な説明】

  • 図1は、実施形態による光電素子を示す断面図
  • 図2は、別の例示的な実施形態による、光電デバイスを示す断面図
  • 図3は、図1の光電素子の動作の原理を示す概念図、
  • 図4A及び図4Bは、光電素子が図1のように動作する時、光活性層のエネルギーバンド構造がゲ
    ート電圧Vgと共にどのように変化するかを示すエネルギーバンド図
  • 図5は、図4を参照して説明した光電素子に入射する光の強度に応じて、光電変換素子のゲー
    ト電圧Vgとドレイン電流Idとの関係を示すグラフ
  • 図6は、図5を参照して説明した光電素子に入射する光の強度によって光電素子の応答性がど
    のように変化するかを示すグラフ
  • 図7は、光電素子を示す断面図
  • 図8は、別の例示的な実施形態による、光電デバイスを示す断面図
  • 図9は、別の例示的な実施形態による、光電素子を示す断面図
  • 図10は例示的な実施形態による光電デバイスにおいて利用され得る光活性層構造における時間
    依存フォトルミネッセンス(PL)強度変化を示すグラフ
  • 図11は、比較例に係る1画素に対応する受光部を示す概念
  • 図12は、実施形態に係る複数の光電変換素子を含む光電変換装置を示す概略断面図
  • 図13は、他の実施例による複数の光電変換素子を含む光電素子を示す概略断面図
  • 図14は、例示的な実施形態による光電デバイスで利用され得る様々な量子ドット層の吸収スペ
    クトルを示すグラフ
  • 図15は、例示的な実施形態によるフォトトランジスタの例を示す回路図(※以下、詳細は上記
    図をダブクリック参照)。
     

以上、速読してみて、新規性というよりも、関連知見の総合的な編集性を表したものと了解する。頭の整頓に
役立つ。流石、サムソン電子であると。

    

 読書録:村上春樹著  『騎士団長殺し 第Ⅰ部』    
  

   22.招待はまだちゃんと生きています  

 「あるいは諸君はその繰を描くことによって、諸君が既によく承知しておることを、これから主
 体的に形体化しようとしておるのだ。セロニアス・モンクを見てごらん。セロニアス・モンクは
 あの不可思議な和音を、理屈や論理で考え出したわけじやあらない。彼はただしっかり目を見開
 いて、それを意識の暗闇の中から両手ですくい上げただけなのだ。大事なのは無から何かを創り
 あげることではあらない。諸君のやるべきはむしろ、今そこにあるものの中から、正しいものを
 見つけ出すことなのだ」

  この男はセロニアス・モンクのことを知っているのだ。

 「ああ、それからもちろんエドワードなんたらのことも知っておるよ」と騎士団長は私の思考を
 受けていった。
 「まあいいさ」と騎士団長は言った。「ああ、それからひとつ礼儀上の問題として、念のために
 今ここで申し上げておかなくてはならないのだが、諸君の素敵なガールフレンドのことだが……、
 
いうか、つまり赤いミニに乗ってくる、あの人妻のことだよ。諸君たちがここでおこなっておる
 こ
とは、悪いとは思うが、残らず見物させてもらっている。衣服を脱いでベッドの上で盛んに繰
 り
広げておることだよ」

  私は何も言わずに騎士団長の顔を見つめていた。我々がべッドの上で'盛んに繰り広げている
 こと……彼女の言を借りるなら「目にするのがはばかられるようなこと」だ。


 

 「しかしできることなら気にしないでもらいたい。悪いとは思うが、イデアというのはとにかく
 何でもいちおう見てしまうものなのだ。見るものの選り好みができない。けれどな、ほんとうに
 気にすることはあらないよ。あたしにとってはセックスだろうが、ラジオ体操だろうが、煙突掃
 除だろうが、みんな同じように見えるんだ。見ていてとくに面白いものでもあらない。ただ単に
 見ておるだけだ」

 「そしてイデアの世界にはプライバシーという概念はないのですね?」
 「もちろん」と騎士団長はむしろ誇らしげに言った。「もちろんそんなものはこれっぽちもあら
 ない。だから諸君が気にしなければ、それでさっぱりと済むことなんだ。どうかね、気にしない
 でいられるかね?」

  私はまた軽く首を操った。どうだろう? 誰かに一部始終をそっくり見られているとわかって
 いて、性行為に気持ちを集中することは可能だろうか? 健全な性欲を呼び起こすことが可能だ
 ろうか?

 「ひとつ質問があります」と私は言った。
 「あたしに答えられることならば」と騎士団長は言った。
 「ぼくは明日の火曜日、免色さんに夕食に招待されています。そしてあなたもまたその席に招待
 されています。そのとき免色さんはミイラを招待するという表現を使いましたが、もちろん実質
 的にはあなたのことです。そのときにはまだあなたは騎士団長の形体をとっていなかったから」
 「かまわんよ、それは。もしミイラになろうと思えばすぐにでもなれる」
 「いや、そのままでいてください」と私はあわてて言った。「できればそのままの方がありかた
 い」

 「あたしは諸君と共に免色くんの家まで行く。あたしの姿は諸君には見えるが、免色くんの目に
 は見えない。だからミイラであっても騎士団長であっても、どちらでも関係はあらないようなも
 のだが、それでも諸君にひとつやってもらいたいことがある

 「どんなことでしょう?」

 「諸君はこれから免色くんに電話をかけ、火曜日の夜の招待はまだ有効かどうかを確かめなくて
 はならない。またそのときに『当日私に同行するのはミイラではなくて、騎士団長ですが、それ
 でも差し支えありませんか?』とひとことことわっておかなくてはならない。前にも言うたよう
 、あたしは招待されない場所には足を踏み入れることはできないようになっておる。相手に何
 らかのかたちで『はい、どうぞ』と招き入れてもらわなくてはならない。そのかわり一度招待し
 てもらえれば、そのあとはいつでも好きなときにそこに入っていくことができるようになる。こ
 の家の場合そこにある鈴が招待状のかわりを務めてくれた」

 「わかりました」と礼は言った。何はともあれ、とにかくミイラの姿になられるのだけは困る。
 「免色さんに電話をして、招待がまだ有効かどうかを確かめ、ゲストの名前をミイラから騎士団
 長に変更してもらいたいと言います」
 「そうしてもらえるとたいへんありかたい。なにしろ夕食会に招かれるなんて、思いも寄らんこ
 とだからな」
 「もうひとつ質問があります」と私は言った。「あなたはもともとは即身仏ではなかったのです
 か? つまり自ら地中に入って飲食を絶ち、念仏を唱えながら入定する僧侶だったのではなかっ
 たのですか? あの穴の中で命を落とし、ミイラになりながらも鈴を鳴らし続けていたのではな
 いのですか?」

 「ふうむ」と騎士団長は言った。そして小さく首をひねった。「そればかりはあたしにもわから
 んのだよ。ある時点であたしは純粋なイデアとなった。その前にあたしが何であったのか、どこ
 で何をしておったのか、そういう続的な記憶はまるであらない」

  騎士団長はしばらく黙って宙をにらんでいた。

 「いずれにせよ、そろそろあたしは消えなくてはならん」と騎士団長は静かな、少ししやがれた
 声で言った。「形体化の時間が今もって終わろうとしている。午前中はあたしのための時刻では
 あらない。暗闇があたしの友だ。真空があたしの息だ。だからそろそろ失礼させてもらうよ。で、
 免色くんへの電話のことはよろしく頼んだぜ」

  昼過ぎに免色に電話をかけてみた。考えてみれば、私が免色の家に電話をするのは初めてのこ
 とだった。常に電話をかけてくるのは免色の方だった。六度目のコールで彼が受話器をとった。

 「よかった」と彼は言った。「ちょうどそちらに電話をしようと思っていたところです。でもお
 
仕事の邪魔をしたくなかったから、午後になるまで待っていたんです。午前中に主に仕事をなさ
 るとうかがっていたから」

  仕事は少し前に終わったところだ、と私は言った。

 「お仕事は進んでいますか?」と免色は言った。
 「ええ、新しい絵にかかっています。まだ描き始めたばかりですが」
 「それは素晴らしい。それは何よりだ。ところであなたの描いた私の肖像は、頬袋はしないまま、
 
うちの書斎の壁にかけてあります。そこで絵の具を乾かしています。このままでもなかなか素晴
 らしいですが」
 「それで明日のことなんですが」と私は言った。
 「明日の夕方六時に、お宅の玄関に迎えの車をやります」と彼は言った。「帰りもその車でお送
 りします。私とあなたと二人だけですから、服装とか手土産とかそんなこともまったく気にしな
 いでください。手ぶらで気楽にお越しください」
 「それに関して、ひとつ確認しておきたいことがあるのですが」
 「どんなことでしょう?」

  私は言った。「免色さんはこのあいだ、その夕食の席にミイラが同席してもいいとおっしやい
 ましたよね?」
 「ええ、たしかにそう申し上げました。よく覚えています」
 「その招待はまだ生きているのでしょうか?」

  免色は少し考えてから、楽しそうに軽く笑った。「もちろんです。二言はありません。招待は

 まだちゃんと生きています」
 「事情があって、ミイラは行けそうにありませんが、かわりに騎士団長が行きたいと言っていま
 
す。ご招待にあずかるのは騎士団長であってもかまいませんか?」
 「もちろん」と免色はためらいなく言った。「ドン・ジョバンニが騎士団長の彫像を夕食に招待
 したように、私は騎士団長を喜んで謹んで拙宅の夕食に招待いたします。ただし私はオペラのド
 ン・ジョバンニ氏とは違って、地獄に堕とされるような悪いことは何もしていません。というか、
 していないつもりです。まさか夕食のあとで、そのまま地獄に引っ張っていかれたりするような
 ことはないでしょうね?」

 「それはないと思います」と私は返事をしたが、正直なところそれはどの確信は持てなかった。
 次にいったい何か起こるのか、私にはもう予側かつかなくなっていた。
 「それならいいんです。私は今のところまだ、地獄に堕とされる準備ができてはいませんから」
 と免色は楽しそうに言った。彼は――当たり前のことだが――すべてを気の利いたジョークとし
 て受け取っているのだ。「ところでひとつうかがいたいのですが、オペラ『ドン・ジョバンニ』
 の騎士団長は死者として、この世の食事をとることはできませんでしたが、その騎士団長はいか
 がでしょう? 食事の用意をしておいた方がいいのでしょうか? それともやはり現世の食事は
 目にされないのかな?」

 「彼のために食事を用意する必要はありません。食べ物も酒もいっさい口にしませんから。ただ
 席を一人分用意していただくだけでかまいません」
 「あくまでスピリチュアルな存在なのですね?」
 「そういうことだと思います」。イデアとスピリットは少し成り立ちが違うような気がしたが、
 それ以上話を長くしたくなかったので、私はとくに異議を唱えなかった。

  免色は言った。「承知しました。騎士団長の席はひとつしっかりと確保しておきましょう。か
 の有名な騎士団長を拙宅の夕食に招待できるというのは、私にとっては望外の喜びです。ただ食
 事を召し上がれないのは残念ですね。おいしいワインも用意したのですが」

  私は免色に礼を言った。

 「それでは明日お目にかかりましょう」と免色は言って、電話を切った。
  その夜、鈴は鳴らされなかった。おそらく昼間の明るい時刻に形体化したせいで(そしてまた
 二つ以上の質問に答えたせいで)、騎士団長は疲労したのだろう。あるいは彼としてはもうそれ
 以上、私をスタジオに呼び出す必要を感じなかったのかもしれない。いずれにせよ、私は夢ひと
 つ見ずに深く朝まで眠った。

  翌日の朝、私かスタジオに入って絵を描いているあいたち、騎士団長は姿を見せなかった。だ
 から私は二時間ほどのあいだ何も考えず、ほとんどすべてを忘れて、キャンバスに意識を集中す
 ることができた。私がその日の最初にまずやったのは、絵の具を上から塗って下絵を消していく
 ことだった。ちょうどトーストにバターを厚く塗るみたいに。

  私はまず深い赤と、鋭いエッジを持つ縁と、鉛色を含んだ黒を使った。それらがその男の求め
 ている色だった。正しい色をつくり出すのにかなり時間がかかった。私はその作業をおこなって
 いるおいた、モーツァルトの『ドン・ジョバンニ』のレコードをかけた。音楽を聴いていると、
 今にも背後に騎士団長が現れそうな気がしたが、彼は現れなかった。

  その日(火曜日)は朝から、騎士団長は屋根裏のみみずくと同じように、深い沈黙を守り続け
 ていた。しかし私はとくにそのことを気にはかけなかった。生身の人間がイデアの心配をしたと
 ころで始まらない。イデアにはイデアのやり方がある。そして私には私の生活がある。私はおお
 むね、「白いスバル・フォレスターの男」の肖像を完成させることに意識を集中した。スタジオ
 に入っていてもいなくても、キャンバスを前にしていてもしていなくても、その絵のイメージは
 私の脳裏をいっときも離れなかった。

  ラジオの天気予報によれば、今日の夜遅く、関東東海地方はおそらく大雨になるということだ
 った。西の方から天気が徐々に確実に崩れていた。九州南部では豪雨のために川が溢れ、低い土
 地に住む人々は避難を余儀なくされていた。高い土地に住む人々は山崩れの危険を通告されてい
 
た。

  大雨の夜の夕食会か、と私は思った。

  それから私は雑木林の中にある暗い穴のことを思った。免色と私が重い石の塚をどかせて、日
 の下に暴いてしまったあの奇妙な石室のことを。自分がその真っ暗な穴の底に一人で座って、木
 材の蓋を打つ雨の音を聞いているところを想像した。私はその穴に閉じ込められ、抜け出すこと
 ができずにいるのだ。梯子は持ち去られ、重い蓋が頭上をぴたりと閉ざしていた。そして世界中
 の人々は、私かそこに取り残されていることをすっかり忘れてしまっているようだった。あるい
 は人々は、もう私はとっくに死んでしまったと考えているのかもしれない。でも私はまだ生きて
 いる。孤独ではあるけれど、まだ息はしている。私の耳に届くのは降りしきる雨の音だけだ。光
 はとこにも見えない。一筋の光も差し込んでは来ない。背中をもたせかけた石壁は冷ややかに湿
 っていた。時刻は真夜中だ。やがて無数の虫たちが這い出てくるかもしれない。

  そんな光景を頭の中に思い浮かべていると、だんだんうまく呼吸ができなくなってきた。私は
 テラスに出て手すりにもたれ、新鮮な空気を鼻からゆっくり吸い込み、口からゆっくり吐いた。
 いつものように回数を数えながら、それを規則正しく繰り返した。しばらく続けていると、なん
 とか通常の呼吸ができるようになった。夕暮れの空は重い鉛色の雲に覆われていた。雨が近づい
 ているのだ。
  谷間の向こうには免色の白い屋敷がほんのりと浮かび上がって見えた。夜にはあそこで夕食を
 とることになるのだ、と私は思った。免色と私と、かの有名な騎士団長の三人で食卓を囲かのだ。
 ほんとうの血だぜ、と騎士団長が私の耳元で囁いた

   23.みんなほんとにこの世界にいるんだよ

  私が十三歳で妹が十歳の夏休み、私たちは二人だけで山梨に旅行した。母方の叔父山梨の大
 学の研究所に勤めていて、彼のところに遊びに行ったのだ。それは子供たちだけで行く初めての
 旅行だった。その頃、妹の身体の具合は比較的順調だったので、両親は私たちが二人だけで旅行
 することを許してくれた。

  叔父はまだ若く独身で(今でもまだ独身だ)、当時三十歳になったばかりだったと思う。彼は
 遺伝子の研究をしており(今でもしている)、無口で、いくぶん浮き世離れしたところはあるが、
 裏のないさっぱりした性格の人物だった。熱心な読書家で、森羅万象いろんなことを実によく知
 っていた。山を歩くのが何より好きで、だから山梨の大学に職を見つけたのだということだった。

  私たちは二人とも、その叔父のことをけっこう気に入っていた。

  妹と私はリュックを担いで新宿駅から松本行きの急行列車に乗り、甲府で降りた。叔父が甲府
 駅まで迎えに来てくれていた。叔父は飛び抜けて背が高かったので、混み合った駅の中でもすぐ
 にその姿を見つけることができた。叔父は友人と共同で甲府市内に小さな一軒家を借りていたの
 だが、同居者はそのとき海外に出かけていたので、私たちは自分たちだけの部屋を与えられた。
  私たちはその家に一週間滞在した。そして毎日のように叔父と一緒に近隣の山を歩き回った。
 叔父は私たちにいろんな花や虫の名前を教えてくれた。それは私たちにとって一夏の素敵な思い
 出となって残った。




奇妙な場面が続き、作者の意図とを読み切れず、樹海で迷う時間を非連続的に塗り重ねる夜が続く。
はやる心を抑えできるだけ?丁寧に丁寧に頭のハイク&トレッキングだ。

                                     この項つづく

 ● 今夜のアラカルト

 わたしの一押し、イタリアン野外料理|チーズとパン(パニーニ)の重ね焼きアンチョビ風味

 

 

 

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