極東極楽 ごくとうごくらく

豊饒なセカンドライフを求め大還暦までの旅日記

半導体テキスタイルの此岸

2016年09月28日 | デジタル革命渦論

 

 

 

 

                                       人生とは後悔する為に過ごすものである。       森田一義

 

                                                                                                           
                                                                                                                          
 Aug. 22, 1945-

   

 

 

 

  環境ビジネス 2016年秋季号

● RE100倶楽部:小形風力発電市場に注目

 

 

【RE100倶楽部:半導体テキスタイル】 

● 福井発半導体テキスタイルが世界を席巻!

世界初、球状太陽電池を織り込んだエネルギー創出テキスタイルを開発
は4年前、福井県工業
技術センターが発表。
太陽光発電糸を繊維に綺麗に織り込む技術は同センターが研究し、約3
年かけ開発。
 「テキスタイル:Textile」とは英語で織物という意味。世界では時代の先端の高
度な科学技術として、繊維に機能性を持たせる「テクニカル・テキスタイル」を活用して新た
な市場を創ろうとする開発が盛んになっている。昨年
の5月には産業用繊維・不織物展示会「
テクテキスタイル2015」が、ドイツのフランクフルトで行われ、世界各地から様々な製品が並
ぶ。
 ウエアラブル、つまり、半導体などの電子機器を「着こなす」時代が本格化する

 Nov. 29, 2012

すでに、Googleは年次開発者会議Google I/O 2015 で、「Project Jacquard」という高度技術プロ
ジェクトを発表。
衣服に織り込まれた繊維センサで、タップやスワイプなど簡単なジャスチャ
ーで端末を操作する。
着ている洋服がスマートフォンやタブレットなどのデバイスになる。ま
た、
マサチューセッツ工科大学は米陸軍と服に話しかけると通信ができるスマート軍服を共同
開発(物騒な話だが)しているというが、その市場規模は、
10年以内に10億ドル規模(1
ドル=115円として日本円で1150億円)と予想されている。 近い将来、カラフルな上
着が
が発電し、携帯電話や様々な電子機器やそれ自体の電飾などの電源となって、ポケモンG
O!をやっていたりしているかもしれない。

  Apr. 03, 2014

ウエアラブルコンピュータに代表されるように電子機器と織編物が融合したe-テキスタイル
と呼称される各種テキスタイル製品開発が行われている。電子機器と織編物を融合する手段の
1つとして、織編物製造工程で導電糸を配置する方法があり、この場合、織編物製造工程で問
題なく製品を製造するには、この導電糸織編物を構成する繊維素材と同等の力学特性を有す
ることが不可欠となる。また、イーテキスタイルを使用する場合、テキスタイルの特性である
柔軟性を要求される用途において様々な外力等による変形が発生し、それに伴いイーテキスタ
イルの構造自体も変形が生じて電気特性が低下する等の変化が起こる。特にハンダ等が困難で
あるため導電糸間および導電糸と他の電子部材との接続部は物理的接触により導通を確保する
ため、変形により接触面積が変化して導通状態が低下する等の問題がある。そのためにイーテ
キスタイルが変形の前後で電気特性が変化して製品性能の保証や耐久性に問題が生じる。実際
には織編物製造工程で導電糸を配置する織編物との一体化が困難な状況である。

【符号の説明】

1 イーテキスタイル用導電糸 2 芯部を構成する繊維素材 3 螺旋状に巻き付く導電性繊
維(下側) 4 螺旋状に巻き付く導電性繊維(上側)

特開2011-074512  e-テキスタイル用導電糸およびそれを用いた織編物


最も一般的な導電繊維は銅等の金属繊維であり、金属繊維以外の導電糸としては、導電性カー
ボンブラックや金属粉等の導電性粒子を熱可塑性ポリマー全体に分散させた導電性繊維や導電
性成分を非導電性ポリマーで完全に包みこんだ芯鞘型複合繊維、または、導電性成分が繊維表
面に露出したタイプの複合繊維、非導電性繊維にめっき処理を行った繊維等、様々な導電化技
術が開発されこれに伸長性を付与した繊維、導電性繊維をニット構造体にする方法、カラミ織
りしたテープ等の方法が開発されている。これらをふまえ、福井県工業技術センターでは導電
糸を使用する織編物の他の構成繊維素材と同等の物性をもつ繊維素材で芯部を構成、その繊維
素材に複数の導電性繊維素材を螺旋状に巻き付けることで、屈曲耐久性が高い導電糸を開発し
ている。これらの問題を解決するために、上図は、イ-テキスタイル用導電糸を使用する織物
の主構成繊維素材と同等の物性を有する繊維素材で芯部を構成し、その繊維素材のまわりを複
数の導電性繊維素材を用いて1m間に3,000回以上の巻き数でかつ、その表面積の50%
以上を導電性繊維が被うように螺旋状に巻き付けることで電気抵抗が50Ω/m以下であるイ-
テキスタイル用導電糸を提供する。

このように、多くの金属繊維は伸長性が乏しく、さらに弾性率が高いため捻りや屈曲等の変形
が困難で織物製造工程で破断し導電性低下や残留捻れによる不具合が生じ、また、伸長可能な
金属繊維の場合、伸長に反比例し断面積が減少し電気抵抗値の大幅な増加で、変形による同等
で均質な電気特性維持が不可能となる。



【図1】実施例1に係る半導体素子付き繊維構造体の平面図
【図2】半導体素子付き繊維構造体の要部拡大平面図
【図3】半導体素子付き機能糸と導電糸の断面図
【図4】半導体素子付き機能糸の平面図
【図5】図4のV-V線断面図
【図6】導電糸及び導電線の部分拡大斜視図

特開2016-171178  半導体素子付き繊維構造体

受光機能や発光機能等を備えた種々の半導体素子付き繊維構造体(テキスタイル構造体)の半
導体素子付き繊維構造体は、複数の半導体素子(例えば、太陽電池セル、発光ダイオード、バ
イパスダイオード等)が組み込まれた紐状の半導体素子付き機能糸を経糸又は緯糸とし、導電
線や絶縁線を緯糸又は経糸として織り込んだり編み込んだりすることで構成。半導体素子付き
繊維構造体には、複数の半導体素子付き機能糸を緯糸とし、複数の絶縁糸を経糸として製織さ
れたメッシュ状の繊維構造体が開示――複数の半導体素子(球状太陽電池セル)と、これら複
数の半導体素子を並列接続する可撓性のある1対の導電線等から紐状に構成。半導体素子の正
負の電極を結ぶ導電方向に揃えた状態に平面状に平行に配設、隣接する半導体素子付き機能糸
の導電線同士を物理的に接触させることで電気的に接続させる。このために、複数の半導体素
子を1対の導電線にハンダ等の導電接合材を介し固定する構造上、導電線や導電接合材の形状
により半導体素子付き機能糸の導電方向の幅にバラツキが生じる

これに対し、半導体素子付き繊維構造体の織り密度を大きくし、導電線や導電接合材を、隣接
する機能糸の導電線や導電接合材に部分的に重なり合わせ、電気的な接続状態の安定化を図る
事例があるが、導電接合材のサイズ、織り密度のムラ、織り構造のバラツキ、伸長や圧縮等の
変形応力等を起因して、隣接する半導体素子付き機能糸同士の重なり具合が変化して電気的な
接続状態が部分的に解除されてし。が、特に、繊維構造体に織り込まれる半導体素子付き機能
糸の数が多量である場合が多く、隣接する機能糸同士の非接触箇所も増加、繊維構造体の出力
が不安定になり、半導体素子付き繊維構造体の利点を有効に活用できなくなる。

このため、上図に示すように、半導体素子付き繊維構造体1は、設定数の半導体素子付き機能
糸6を、導電方向を揃えて平面状に平行に配置し、導電方向に隣接する機能糸6同士を導電線
8や導電接合材9を介し、電気的に接続した機能構造部4と、機能構造部4の導電方向の一端
側で、機能糸6に電気的に接続されまた、機能糸6の導電方向の幅より短い幅に形成された1
または、複数の導電糸21からなる導電部5とを備え、複数組の機能構造部4と導電部5を繰
り返すように平面的に配置し、導電方向に隣接する機能構造部4と導電部5とを電気的に接続
した構成、構造をとることにより、フレキシブル性や伸長特性を損なわず、簡単な構造で隣接
する機能糸同士の電気的な接続状態を維持して出力特性の安定を図った半導体素子付き繊維構
造体が提案されている。

 

     

 ● 又吉直樹 著 『火花』21  

  神谷さんは久し振りに会ったからか、楽しそうに捲し立てているけれど、なぜか落ち着
 かない。

 「でもな、その後な借金取りと仲良くなってな、一緒にパチンコ行くくらいの関係になっ
 てん,でもな、今度はパチンコ屋で友達として金借りてもうてな、それ返さんか
ったら、
 お前やっぱ糞やなとか言われて、今もちょっと追われてんねん」

  なぜ、この人は折角持って生まれた自分の才能を生かさないのだろう。この期に及んで、
 なにを楽しそうに話しているのだろう。

  その時、僕は違和感の正体に気づいてしまった。それは神谷さんという人物が、どのよ
 うな男だったかを再確認させるような大きな事件だった。もちろん、世界からす
れば取る
 に足らない填末な笑い話だったかもしれない。

  もう何年も忘れていた絶望という感情が両手を広げて僕に近づいてきた。古い友人と再
 会したかのように懐かしく思った。
  おもむろにセーターを脱いだ神谷さんの、両胸が大きく膨らんでいたのだ。
  左右に巨乳と呼んで差し支えない程の乳房が揺れていたのだ。

 「なんですか、それ」

  僕は瞬きすることも忘れ、その不思議な物体を見つめていた。

 「Fカップです」と神谷さんは、両手で胸を支えるようにして、確かにそう言った。

 
「なにしてんねん」

  こいつは何を考えているのだろう,

 「どうせなら、大きい方が面白いと思って。シリコンめっちゃ入れてん」

  この人は狂っているのだろうか。


 「あんな、俺、ずっとキャラクターというものを否定してたけどな、それも違うと思
って
 ん,キャラクターに負けるような面白いことは、全然面白いことじゃないねん」

  嬉しそうに話す神谷さんを見て、僕は恐怖と悔しさが入り混じった感情で、束の間、世
 界を本気で呪った。

 「無理や。胸にしか眼行かへんもん」

  僕の言葉には突き放すような冷酷な響きがあった。この人が、上手く生きて行けないこ
 となど初めからわかっていた。だけど、僕は、愚直なまでに屈折しているこの人
に、余計
 なお匯話かもしれないけれど、平凡な言い方が許されるならば、ただ幸せに
なって貰いた
 いのだ。

 「それで、誰が笑うねん」 「なんでやねん。面白いやんけ」

 「全然、面白くないわ。そんなんキャラクターでも、なんでもないねん。ただの変な奴や
 んけ。あんた面白いんちゃうんか」

  誰にも理解を得られない、この人の存在が悔しい。笑ってあげればよかっただろうか。

 「これで、テレビ出れると思ってん」

  濁りけのない目で僕を見ている。

 「出れるわけないやろ。三十代の巨乳のおっさん誰が笑えんねん」

  この人は愚か者だ。畢生のあほんだらだ。

 「お乳入れた時な、自分めっちゃ面白くてな、一人でずっと笑っててん。でもな、唯一仲
 良かった社員に会いに行ってな、これでテレビ出たいって言うたら、めっちゃ引いててな、
 ほんで俺も急に怖くなって来て」

  神谷さんは、味の上で拳を握りしめて俯いている。

 「なにしてんねん」

  言葉が尖った。

 「どえらいことしてもうたと思って、怖くなって、ほんで、徳永やったら笑ってくれると
 思って」

 「笑うか」

  僕はこの人に会って、本当に泣き虫になったと思う。

 「徳永、どないしよう? テレビ無理やんな?」

  神谷さんは、窺うように僕の顔を覗き込んだ。僕は顔を上げて大きく息を吸い込んだ。

 「神谷さん、あのね、神谷さんはね、何も悪気ないと思います。ずっと一緒にいたから僕
 はそれを知ってます。紬‥谷さんは、おっさんが巨乳やったら面白いくらいの感覚やった
 と思うんです。でもね、邑の中にはね、性の問題とか社会の中でのジェンダーの問題で悩
 んでる人が沢山いてはるんです。そういう人が、その状態の神谷さん見たらどう思います
 ?」

  僕は自分の口から出た、真っ当すぎる言葉に自分で驚いた。

  頬に垂れる涙を最早僕は試わなかった

  「不愉快な気持ちになる」

  神谷さんも眼を真っ赤にして、肩を震わせている。

 「そうですよね。神谷さんには一切そんなつもりがなくても、そういう問題を抱えている
 本人とか、家族とか、友人が存在していることを、僕達は知ってるでしょう。全員、神谷
 さんみたいな人ばかりやったら、もしかしたら何の問題もないかもしれません。あるいは、
 神谷さんが純粋な気持ちで女性になりたいのであれば何の問題もないです。でも、そうじ
 やないでしょう。そういう人を馬鹿にする変な人がいるってことを僕達は、世間の人達は
 知ってるんですよ。神谷さんのことを知らない人は神谷さんを、そういう人と思うかもし
 れませんよ。神谷さんを知る方法が他にないんですから。判断基準の最初に、その行為が
 来るんやから。神谷さんに悪気がないのはわかってます。でも僕達は世間を完全に無視す
 ることは出来ないんです。世間を無視することは、人に優しくないことなんです。それは、
 ほとんど面白くないことと同義なんです」

  周りの客のことなど、気にならなかった。

 「徳永、もう言わんといてくれ」

 「神谷さんを責めてるんじやないんです,もしかしたら、神谷さんは悪くないのかもしれ
 ません」

  この人が悪いとはどうしても思えなかった。

 「いや、俺が悪い。ほんまに、あほや。どないしよう」

  神谷さんは、胸を揺らさないように気をつけながら泣いている。

 「神谷さんに差別的な意識が一切ないのはわかってます。男が巨乳やったら面白いという
 発想と、性別を馬鹿にすることとは全然迫うんです。そんなんわかってます。でも、一緒
 やと思われますよ。もしくは同質の不快感を与えてしまうんです。僕達が情報として持っ
 ているのか、潜在的な嫌悪があるのかわからへんけど、そういう僕達の中の微妙な差別意
 識と結びついて、神谷さんの行為は許されへんもんになるんです」

  苦しんでいる神谷さんに追い打ちをかけるようなことはしたくなかった。

 「すまん。俺な、もう何年も徳永以外の人に面白いって言われてないねん。だからな、そ
 いつらにも、面白いって言われたかってん。徳永が言うてくれたから、諦めんとこうと思
 ってん。自分が面白いと思うとこでやめんとな、その質を落とさずに皆に伝わるやり方を
 自分なりに模索しててん。その、やり方がわからへんかってん。ほんで、いつの問にか俺、
 巨乳になっててん。今では、ほんまに後悔してる。ほんま、ごめん」

  僕達の他には、若い男女が行儀よく、静かに蕎麦を食べていた。その二人の佇まいは心
 中ものを連想させた,一番大きなテーブルでは会社員風の団体が賑やかに呑んでいて、店
 員達はそこにつきっ切りだった。忙しない厨房の喧騒は紛れもなく人間達の切実な生活の
 音だった。相変わらず風景に溶け込めない神谷さんに引き摺られ、僕達はその場から切り
 取られた空間の中で、そこにある乳房を憂い、十年を越える季節を思い、ぼやけた焦点の
 定まらない視界のまま、一瞬とも永遠とも思える問、周囲を憚らずに咽び泣いていた。

  東京駅から熱海に向かう新幹線こだまに揺られていた。神谷さんは、分厚いセーターの
 上から、大きなサイズのパーカーを着込んで、胸の膨らみを隠していた,正月休みをゆっ
 くり過ごしたいと思い、ちょうど神谷さんの誕生日が近かったので、お祝いとして温泉旅
 行を持ちかけたのだ。欲を言えば、暖かい南の島まで行きたかったけれど、現実的ではな
 いので熱海にした。
  神谷さんは浮かれてしまって、乗車時間は一時間もないと説明しているのに、おつまみ
 を拡げて焼酎を呑み、無理やり旅行の雰囲気を満喫しようとしていた。

 「徳永、一緒に風呂入られへんけどすまんな」と神谷さんが言い、「やかましいわ」と僕
 が答えた。
 「というか、俺どっちの風呂入ったらいいの?」神谷さんが不安気な表情で囁いた。
 「男風呂に決まってるでしょ」
 「お客さんバニックになるんちやうんか。俺、人に迷惑かけるの嫌いやねん」と神谷さん
 は切実に訴えてくる。
  誰が誰に言っているのだろうか。

 「人に迷惑掛ける天才でしょう」

  事前に風呂のことは調べて、それなりに高くついたが客室内に源泉掛け流しの露天風呂
 がついている部屋を予約した。他の大きな露天風呂も時間帯によって貸し切りに出来ると
 電話で説明を受けた。熱海駅のホームに新幹線が滑り込んだ時、神谷さんは慌ててあたり
 めを口に放り込んだため、旅館に着いても未だ奥歯で噛んでいた。
  花火が打ち上がる度に拍手と歓声が響き渡る。場内アナウンスで、大手のスポンサ1名
 が読み上げられ、素晴らしく壮大な花火が冬の夜空に開く。海岸に降りて観ていた僕達は
 大いに楽しんだ。熱海では夏場に限らず、一年を通して何度か花火大会があるらしい。次
 々と企業の名前が告げられ大きな花火が上がる。一際壮大な花火が打ち上がり歓声が巻き
 起こったあと、しばらく間があり、観客達は夜空から白い煙が垂れてくるのを、ぼんやり
 と眺めていた。すると、スポンサー名を読み上げる時よりも、少しだけ明るい声の場内ア
 ナウンスが、「ちえちゃん、いつもありがとう。結婚しよう」とメッセージを告げた。誰
 もが息を飲んだ。

  次の瞬間、夜空に打ち上げられた花火は御世辞にも派手とは言えず、とても地味な印象
 だった。その余りにも露骨な企業と個人の資金力の差を目の当たりにして、思わず僕は笑
 ってしまった。馬鹿にした訳ではない。支払った代価に「想い」が反映されないという、
 世界の圧倒的な無情さに対して笑ったのだ。しかし、次の瞬間、僕達の耳に聞こえてきた
 のは、今までとは比較にならないほどの万雷の拍手と歓声だった。
  それは、花火の音を凌駕する程のものだった。群衆が二人を祝福するため、恥をかかせ
 ないために力を結集させたのだ。神谷さんも僕も冷えた手の平が真っ赤になるまで、激し
 く拍手をした。

 「これが、人間やで」と神谷さんはつぷやいた。

  花火を見物したあと、二人で初めて一緒に行った居酒屋を十年振りに訪れた。神谷さん
 が、女性店員を懐かしそうに見て、「全然変わってませんね。僕等、十年前にも来たんで
 す。覚えてはりますか?」と言うと、女性店員は「私、先月からなんです」と笑顔で答え
 た,

  旅館に戻ってからも、神谷さんは上機嫌だった。

 「おい徳永、CDの貸出しあるみたいやで。なんか借りようぜ一と拍‥谷さんは受付に再
 び戻ったが、受付の女性が思いのほか若かったことに戸惑ったのか、「セックスピストル
 ズかクラッシュありますか?」と枠読みで尋ねていた。

 「そんなん、普段聴きませんやん」と僕が言うと、「あほか、最近めっちやパンク聴くっ
 ちゆうねん」と必死の形相で訴えた。
  結局、ほとんどのCDは貸し出し中だったので、残り物を何枚か適当に見繕って貸して
 貰った。神谷さんは、「今夜は俺の他にも、パンク好きが宿泊しているとみた」と一人で
 嘯いた。
  部屋で料理と酒をいただいて拍‥谷さんは上機嫌だった。翌日に素人参加型の「熱海お
 笑い大会」があるというポスターを見つけた神谷さんが、どうしても出たいと言いだした。
 応募の締め切りが過ぎているから無理だと言っても聞かなかった。優勝すると賞金が十万
 円も出るらしい。

 Bob Marley|Feb.6,1945 – May 11,1981
   
  神谷さんは、「漫才作る」と言って、焼酎を片手に露天風呂に浸かっている。この人は.
 一生漫才師であり続けるのだろう。僕は、いつものように神谷ノートを開き今日の出来事
 を書き込んでいる。
  神谷さんが、「なんで、ライブバージョンやねん!」と湯に浸かりながら叫んだ。これ
 は、受付で借りたボブ・マーリーに対しての言葉だろう。
  神谷さんの頭上には泰然と三日月がある。その美しさは平凡な奇跡だ。ただ神谷さんは
 ここにいる。存在している。心臓は動いていて、呼吸をしていて、ここにいる。
  神谷さんはやかましいほどに全身全霊で生きている。生きている限り、バッドエンドは
 ない。僕達はまだ途中だ。これから続きをやるのだ。
  神谷さんの言葉を無脱して、ジャマイカの英雄はエピシンゴノビーオーライ(Everything's
  gonna be all right
.)と世界に向かって唄い続けている,神谷さんは、窓の外から僕に向かっ
 て、「おい、とんでもない漫才思いついたぞ」と言って、全裸のまま垂直に何度も飛び跳
 ね美しい乳房を揺らし続けている。


継ぎ接ぎのように読んできて最終まで漕ぎ着ける。私小説の三大要素「貧・女・狂」の揃い踏
み。調べは太宰治(読み込んでいる)。テーマは隣人愛。また、こんなことも考えた。「火花」
の続編を最低数本書いて欲しい気もする。できれば、翻訳出版して貰えれば、二十年後にはノ
ーベル賞を受賞しているかもしれない。その才能はあると思った。熱心に読めたわけではない
がふとそんなことを感じた。


 

                                    この項了

 

 

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