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浅田次郎 わが心のジェニファー

2016-10-16 18:46:11 | BOOK/COMICS
浅田次郎という作家は天才だ。
外国人から見た日本の不思議、日本人の不可解な言動を書いた本はごまんとある。
本当に外国人が書いてるのか怪しいものから、日本に住んでる外国人のエッセイなどまで多々ある。
そのほとんどが日本人からしてみれば「当たり前」だったり「大袈裟」だったりする内容。どれも不満足。
また逆に日本人の目から見た日本の素敵さ、日本の特異さをいくら描いてもこれまた当たり前すぎて面白くない。

しかし、浅田次郎の【わが心のジェニファー】は面白い。
アメリカ人の目から見た日本を、日本の作家が書けれるんだぁって感心してしまう。
旅行記ではないが単純に旅行記として読んでも面白い。

ストーリーはかいつまんで書くと、主人公ラリーはN.Y.に住む投資会社勤務のアメリカ人。
ラリーがまだ幼い頃に両親が離婚し、祖父と祖母に育てられた。太平洋戦争で活躍した海軍提督(アドミラル)の祖父の口癖は「日本人は油断のならない奴ら」。
恋人のジェニファーは逆に日本びいき。彼女に指輪を買ってプロポーズしようとしたら「プロポーズの前に日本に旅行してきてくれ。一人で。ゆっくりと。」と言われる。
そしてメールではなく手紙を旅先から出してくれと。ラリーは言われた通りPCも携帯など便利な電子機器を持たず日本を旅する。

まぁ、それで日本を旅するわけだけど、書き方が上手いのだ。

プロポーズの指輪はティファニーで買ったんだろうか。ライトブルーのラッピングとしか書いてないが。
飛行機はJAL(全日空)だろうね。ロゴマークが白地に赤い鳥、レッドクラウンドクライン=丹頂鶴と表現されてるから。
ホテルにしても旅館にしろ店にしろ、そういった具体的な表現を比喩でぼかす手法がとられてるから、読み手側の想像力が膨らむ。

彼が思う、言う言葉には英語(またはスラング)のカタカナルビがふってある。訳せるものは訳し、そのままでいいものはそのままで。
例えば彼がプロポーズしようとしたN.Y.ソーホーのZENという蕎麦屋でのワンシーン。
【僕はオシボリで口を押さえながらZENの店内を見渡した。意外なことに日本人の客が少ない。リバーカフェと同じ程度のソーシャライツなゲストばかりだった】
日本の空港に降り立った時の
【ボーディングブリッジからエアポートに入ると、湿気も臭気もいよいよメーターをあげたように思えた】
などの書き方をされてる。だから違和感なくアメリカ人の日本旅行記として入ってくる。巷に出回ってる外人の書いた日本見物記は訳しすぎか、訳さなすぎのどちらか。

【ジェニーがバースデーに贈ってくれたセイコーのクォーツは、彼女が自慢した通り何ヶ月経とうと一秒の誤差もない。】
という文も
【彼女が誕生日にくれたSEIKOの腕時計は、彼女が自慢した通り何ヶ月経とうと一秒の誤差もない。】
じゃ味気ない。
しかもこのさりげない一文で、日本の技術の精巧さ、信頼性を表し、そして時間厳守、正確に無駄なく行動する日本人を表現してる。

航空機のマークや日本人のパスポートのマークを家紋(ファミリー・クレスト)だと書かれてる小節がある。
ヨーロッパで家紋がある家なんて王族か貴族くらいなものだ。アメリカではほとんど見ない。その紋章を日本人は一般家庭でも持ってる。先祖がサムライでなくてもね。着物の羽織や墓にまで彫ってるらしい。そして由緒正しき天皇(エンペラー)の家紋の入ったパスポートで旅をする。
こういった日本人なら気にもしない当たり前と思ってることでも、外国人からしてみれば、戸惑いがあったり、文化の違いを感じるってことが見事に描かれてる。

時間の正確さ、団体行動での規律、病的に清潔な施設、至れり尽くせりの設備、物価の高さ、
ウォシュレットに驚き、ピカピカの窓に驚き、整備された道路に驚く。車の綺麗さに不思議がり、新宿の夜の明るさに戸惑い、コンビニエンスストアの商品の充実に感嘆し、食べ物のうまさと安全性に感激する。ビジネスホテルの狭さには辟易しても高級ホテルと変わらぬ接客、サービスに感動する。路線図の複雑さに諦め、電車の正確な時刻発車に不思議がる。

360ページあるこの本の、六分の1(約670ページ)でこれだけのカルチャーショックがふんだんに描かれてる。まだ東京に着いただけだ。
この後京都、大阪、別府、そして北海道へ彼は行く。そして行く先々でまた驚き、感心し、納得する。

最初に「単純にアメリカ人の旅行記として読んでも面白い。」と書いたが、これは旅行記ではない。
今風に言うと、自分探しの旅をするアメリカ人が、自分に出会い、自分を見つける本だ。
これ以上書くとどんどんネタバレしてしまうから書かない。
是非、読んで欲しい本だ。


浅田次郎は不思議な人だ。
一時期【浅田次郎三人説】という噂があった。
一人の小説家がこれだけ色々なジャンルの小説、しかも傑作を書けるのか?ってことで言われた噂だ。

俺が浅田次郎を知ったのは、きんぴか。
これはピカレスクロマンと言われるアウトローもの。

極道放浪記などの初期エッセイを読むと、この人がろくな人生を歩いてきてないことがわかる。

いいところのお坊ちゃんで、アウトローの世界に片足を突っ込み、自衛隊にまで入隊した人だ。

鉄道員で直木賞を取るまで、映画化されてヒットするまで一般的に知名度が低かったから、当時「面白いよ」って人に勧めても『誰それ?』って言われた。
きんぴかシリーズ以外の本も読んでみたいなって探してもほとんど見つからない状態。あの膨大な本を扱っている梅田の紀伊国屋でも置いてなかった。
店員さんに聞いても
「えっ赤川次郎ですか?」
って言われたこと多数。結構マイナーな本も扱ってる旭屋書店の店員でも言われたくらいだ。
売れるまで「BOOWY」って言っても「えっデビットボウイ?」って言われてたのと一緒だ。

今なら本屋になくてもネットでちょい検索すれば色々な本がズラッと出てきて、ワンクリックで買えるのだが、当時はまだamazonとか一般的ではなかったからね。
まぁ、アマゾンがあったとしても結果は同じだったがね。だって、当時はまだ飛天出版ってとこから出てたエッセイの極道放浪記(全2冊)とか、ワニブックスから出てたきんぴかシリーズ(全3冊)とかしかなかったからね。そしてどちらもアウトローものだ。
この後、アウトローものの傑作にプリズンホテルシリーズ(全4冊)や天切り松 闇がたりシリーズ(現5冊)が出る。
 

その後、鉄道員(ぽっぽや)で直木賞受賞した。映画化もされ高倉健の名演が光る人情ものだ。

月のしずく、見知らぬ妻へ、薔薇盗人、活動写真の女などの短編集や、天国までの百マイル、地下鉄(メトロ に乗ってなど人情ものでもヒット作、傑作多数。
 

そして勇気凛々ルリの色シリーズのようなエッセイもの。

カッシーノ!、歩兵の本領などエッセイも多数書いてる。つい最近も日本の「運命」について語ろうってエッセイが出た。

これだけじゃない、
憑神、赤猫異聞、一路、黒書院の六兵衛、壬生義士伝、輪違屋糸里、一刀斎夢録など時代小説。
 
日輪の遺産、シェエラザード、王妃の館、終わらざる夏、蒼穹の昴シリーズなどの戦争を舞台にした小説。
 
沙高樓綺譚、椿山課長の七日間、ハッピー・リタイアメントなどの娯楽小説。
長編、短編、どれもが同一人物が描いたのと思えないくらい作風が違う。
しかし、そのそれぞれが面白いから困ったもんだ。

その浅田次郎の傑作「わが心のジェニファー」是非。
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