ゴエモンのつぶやき

日頃思ったこと、世の中の矛盾を語ろう(*^_^*)

イソップ物語に学ぶ、大事なことを「伝える力」の磨き方

2017年06月02日 01時43分01秒 | 障害者の自立

大事なことが伝わらない。いや、大事なことほど、なぜか伝わらない──。誰もが、そんなもどかしい思いに身をよじらせたことが、一度や二度はあるのではないでしょうか。

最近でいえば、国が大号令をかけている『働き方改革』。社内に向けて「残業をしないで早く帰ろう!」と必死で音頭をとっているのになかなか浸透しない(どこの会社とは言いませんが、多くの職場でありそうですね)。

あるいは、『人材育成』。マネージャーが「若い人材のやる気に火をつけよう!」と気勢をあげているその会議中から、どんどんシラケて無表情になっていく若者たち(これもどことは言いませんが、多くの企業の管理職が悩む場面だと思います)。

おかしいな、なぜだろうな。誰もが大事だと認めることなのに、どれだけ気持ちを込めて伝えてもぜんぜん伝わらない──。

ちなみに僕はNHKで働き始めてから今までの10数年間、ずっとこの「大事なことが伝わらない」問題に悩まされ、身をよじらせ続けてきた、いわばこの分野のベテランです。

救急医療、保育、児童虐待、派遣労働、インフラの老朽化……様々な社会問題を取材し、番組にしてきましたが、どうにもこうにも手ごたえがない。時には「世の中のリアクション薄すぎ…」と世間に責任転嫁をしはじめる始末です。そんな僕は、番組の放送前後で何かが変わった、という実感をまるで持てないまま、ただただ身をよじっているばかりでした。

もちろんたった1本の番組を作ったくらいで、何かが変わるほど世の中はおめでたいわけではありませんし、僕自身の番組制作能力の問題がおおいに関係していたのは間違いありません。でも、僕としてはもどかしくて仕方がないんです。だって、ものすごい量の取材をして、時には世間の多くの人がまだ気づいていない大問題を、誰よりも早くキャッチしていることだってあるわけです。どうにかして多くの人にその問題に気づいて欲しいじゃないですか。

なのに、僕の番組ときたらなかなか見てもらえない、そして世の中に大きな関心を喚起することができない。自分の力のなさに情けなくって本当に泣けてきます。取材を受けてくださった方たちにも申し訳なくって仕方がありません。

でも、大人ですし、ずっと泣いているわけにもいかないので、僕は真剣に考えました。どうしたら「大事なことを伝えられる」のだろうと。そしてこの1、2年、様々な試行錯誤を積み重ねて、ようやく、ほんのちょびっとだけではありますが、突破口が見えてきたのです。

キーワードは、「北風より、太陽」です。イソップ物語の「北風と太陽」の話は有名ですよね。僕はもちろんずっと「北風」だったわけです。この問題は大事だぞ〜、大事だぞ〜と言っているばかりで、リビングでテレビを見ている人の気持ちをまるで考えていなかった。視聴者も、深刻な問題をただ深刻に伝えられても、「いや、それ大事なのわかったから…」って、ちょっと引いちゃってたのかもしれませんよね。

ですから大切なのは伝え方です。北風方式ではなく、太陽方式で伝えることがポイントです。でも、太陽方式って具体的に何をどうやったらいいんでしょうか? そこで、去年11月、僕は1つの実験をしてみました。

やったのは「みんながみんな主役Night」。武道館を舞台に、アーティストのAIさんと障害のあるパフォーマーやアーティストが、一夜限りの”夢のセッション”をするというイベントです。僕は企画を担当するディレクターとして、AIさんや電通のプランナーさんたちと一緒に企画を練り上げていきました。

チャレンジしたかったのは、「障害」という言葉を使わずに、もっと言えばそのニュアンスすらも排除した上で、「障害のあるアーティストやパフォーマーの存在を、広く知ってもらうこと」です。

去年話題になった「感動ポルノ」という言葉が象徴的ですが、どうしても「障害」という言葉には典型的なイメージがつきがちです(大部分はわれわれメディアの責任ですが)。たとえば、「障害があるのにすごい」とか「障害があるのに頑張っている」とか。でも、本当は障害のあるなしは関係なく、いいものはいいし、すばらしいものはすばらしいわけです。

だから、イベントタイトルは「みんながみんな主役Night」にしました。電通のプランナーさんが雑談中にぽっと言ったこのタイトル。AIさんの大ヒット曲「みんながみんな英雄」をモジったものですが、イベントを通してみんなに伝えたかったこと、みんなでシェアしたかった感情を包み込んでいて、自分たちで言うのもなんですが、すてきなタイトルになったと思います。

アーティストやパフォーマーの出演交渉は、AIさんが一人一人にオファーしてくれました。AIさんは、去年からNHKの福祉番組「ハートネットTV」でMCを務めているのですが、その中で知り、出会い、その生き方をリスペクトする人たちに直筆の招待状を送りました。

リオパラリンピックの閉会式のハンドオーバー(引継式)にも出演した、義足のダンサー大前光市さんと車いすダンサーのかんばらけんたさん。難病ジストニアにより3本の指が動かなくなったピアニストの西川悟平さん。ダウン症や自閉症などの障害者を含む総勢20人のバリアフリーバンドのサルサガムテープさん。圧倒的に女性が不利とされるブレイクダンスの世界で10回も世界チャンピオンに輝いたブレイクダンサーのNarumiさん。

みなさん世界の第一線で活躍されているアーティストとパフォーマー達ですので超多忙です。全員の出演は正直難しいかなと思っていましたが、「武道館で、AIさんとセッションできるなら!」とノリノリで快諾してくださいました。

そして迎えた当日。イベントはむちゃくちゃ盛り上がりました。多くの人が見たことがなかったであろう、義足のダンサーの力強い舞いや車いすを使った妖艶とも思えるダンス。7本指のピアニストとAIさんの「STORY」の共演に涙腺崩壊する人続出、バリアフリーバンドの打ち鳴らすロックに会場が総立ちになりました。本当に、総立ちになったんです!

僕はその様子を会場の後ろから眺めていました。で、こういうやり方ってあるんだって改めて思ったんです。障害とか多様性とかわざわざそんなこと言わなくたって、しっかり伝わるんだなぁって。

太陽方式には様々なやり方があると思います。僕は、その一つの切り口としてエンターテインメントというのはすごくありだなと感じています。最近、増えてきましたよね。くまモンをはじめ、地方自治体が実施する地方振興策にエンターテインメント要素はもはや必須なんじゃないかと思うほどです。

僕は自戒を込めて思うのですが、大切なテーマで、大事な問題で、それを伝えたいと思うのであれば、やはり伝え方をもっと真剣に考えなければいけないんですよね。「大事な問題だから、きっとみんな聞いてくれるはずだ」というのは伝える側の思考停止だし、おごりだったんだと最近になって気づきました。

僕の好きなYouTube動画に、鹿児島実業高校の男子新体操部の動画っていうのがあります。インターハイ常連の名門校ですが、とにかく演技がエンターテインメントなんです。その年に流行った曲を使って、笑いと新体操の技を融合させている。彼らの動画は何百万回も再生されています。

その鹿児島実業高校の男子新体操部が大事にしていることが「全力でふざける」なんだそうです。確かに。全力でふざける方が伝わることもあるのだと思います。

と、ここまで書いてふと思ったのですが。この原稿は、きちんと太陽方式で書けているのでしょうか。相変わらずの北風方式になっていないか…みなさん、季節はもうすっかり春です。コートを脱いで頂けていれば幸いです。

 

Forbes JAPAN   5月31日

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