ゴエモンのつぶやき

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牛丼1杯が豪華な食事、就労後も貧困を抜け出せない障害者の日常

2016年11月12日 02時54分12秒 | 障害者の自立

2013年1月に決定された生活保護基準引き下げ(2013年8月より実施)は、就労支援の促進と並行して行われている。生活保護基準を引き下げ、就労モチベーションを高めれば、働かない人々が働くようになるのだろうか。

生活保護費削減の一方で 「稼げば収入が増える」は本当か?

 2013年1月に決定された生活保護基準引き下げ(2013年8月より実施)は、就労支援の促進とセットになっていた。もしも「生活保護があるから甘えてしまい、働ける人まで働かなくなる」という俗説が事実ならば、生活保護基準の引き下げは、そのまま就労につながることになる。 2013年12月、生活保護法改正とともに成立した生活困窮者自立支援法によって、就労促進の制度化も行われている。

 では、生活保護基準引き下げは、本当に就労を促進しているのだろうか。今回は、「働ける・働けない・働く・働かない」の差が紙一重になりがちな精神障害者の就労を中心に、変化の様子を見てみたい。

 はじめに、下の表を見ていただきたい。一連の生活保護基準引き下げの直前にあたる2012年と、生活費・家賃補助・暖房費・その他細かな引き下げが行われた後の2016年で、単身者に対する生活保護での生活費がどのように変化したかを示している。

 地域は「2級地-1」だ。生活保護制度では、自治体は生活コストに応じて6区分されており、「2級地-1」は高い方から3番目にあたる。栃木県宇都宮市・富山県富山市・愛媛県松山市など、県庁所在市(政令指定都市を除く)の相当数が該当する区分だ。年齢は、金額が最多となる20~40歳とした。

 健常者または障害者(障害等級3級)に対しては中心の「生活費合計(障害者加算なし)」が、障害者(障害等級1・2級)に対しては右側の「生活費合計(障害者加算あり)」の金額となる。

 2012年から2016年にかけ、障害者加算がない場合、月々の生活費は4650円減少した。障害者加算がある場合も、5150円の減少となっている。「100万円が99万5000円になった」という場合とは次元の違う節約、または次元の違う収入増加が必要になるはずの場面だ。

 厚労省は、生活保護基準削減と同時に、「働いたらトク」という仕組みも設けた。2012年度まで、生活保護で暮らす人が就労収入を得た場合、「働いたら収入が増える」と言えるのは収入(最低限の必要経費を除く)が8000円までの場合だった。それ以上の収入を得た場合、「収入認定」という仕組みがあり、可処分所得は就労収入より低められる。しかし2013年、引き下げと同時に、収入認定されない金額が1万5000円まで引き上げられた。むろん政府の目論見は、就労促進によって障害者福祉を不要にしていくことにある。

 就労は、実際に促進されているのであろうか。

 答えをひとことで言えば、「Yes」。ただし、「だから、保護費削減は就労促進につながる」と言えるわけではない。愛媛県松山市で障害者作業所を運営する佐野卓志さん(62)に、状況を詳しく聞かせていただいた。

稼ぐなら「内職」 今どきの障害者作業所の仕事

 精神障害者を主対象とした障害者作業所「NPO法人ぴあ ルーテル作業センター・ムゲン」(以下「ムゲン」)」を運営している佐野さんは、自身も20代で統合失調症を発症。病気と折り合いをつけて生きていくための悪戦苦闘を経て、障害者のための居場所であり就労もできる場の必要性を痛感し、紆余曲折の末、障害者作業所を設立した。

 ちなみに障害者作業所には、居場所機能が中心の「B型」、就労が中心の「A型」、一般就労への道筋である「就労移行支援」の3タイプがある。「ムゲン」はB型だ。

 「ムゲンのような、就労施設でもある作業所に来ている人たちは、生活保護でも就労している人たちが多いので、稼いだ分だけ手取りの増える上限額が8000円から1万5000円になったことについては、おおむね歓迎という感じです。8000円を超えて1万5000円近くまで稼ぐ人が増えました。1万5000円以上稼ぐ人もいます」(佐野さん)

 やや意外なのは、月々の就労と収入が増えた理由は、「保護費が減らされたから、その埋め合わせに」ではなさそうなことだ。もしも減らされた保護費の埋め合わせのために就労時間を増やすのであれば、月々の就労収入は、8000円に5000円を加えた13000円あたりで頭打ちになるだろう。

 「ムゲン」設立当初、作業所の仕事は、古い和服を解いて古布にしたり、素材にして小物や織物をつくったりすることが中心だった。誰も着なくなった和服のリサイクルである。しかし現在、もう古い和服の受け入れは行っていない。いつ売れるか売れないかわからない作品づくりでは、確実な収入源にはならないからだ。確実な収入源であることは、利用者である障害者たちの希望でもある。では、今の仕事の中心は何だろうか。

 「ホテルなどで使われるアメニティの袋詰めの内職です。時給は300円です」(佐野さん)

 ホテルにとって、一定のアメニティの備蓄は必要だが、多すぎるのも少なすぎるのも問題だ。もちろん、機械化が困難な作業ではない。人件費をダンピングしやすい海外の国々でなら、日本国内の作業所より安くつくれるかもしれない。とはいえ、機械化や海外発注では規模が大きくなりすぎる。その難しさを、国内の障害者作業所が吸収している感である。

 ちなみに障害者作業所は、最低賃金の適用を受けない。したがって「ムゲン」の「時給300円」は、最低賃金法違反とはならない。最低賃金以下の労働でも暮らしていけるのは、生活保護があるからだ。

早寝早起き・規則的  精神障害者たちの日常

 では、「ムゲン」の利用者である障害者たちの生活ぶり・就労ぶりは、どのようなものなのだろうか?

 「うち、『ムゲン』がオープンしている時間帯は、平日週5日、午前9時から午後2時までです。午前中に15分の休みがあって、12時から午後1時まで昼食と昼休みです」(佐野さん)

 その時間帯、休み時間以外は就労していたとすると、1日あたり3.75時間。1ヵ月に20日就労するとすれば、75時間だ。しかし短時間、毎月75時間とはいえ、精神障害者にはコンスタントな就労は困難なことが多い。とはいえ、「怠けている」というイメージが当てはまるわけでもない。

 「多いパターンは、毎日午前9時までに来て、午前中の15分休みと昼休みを挟んで、午後2時まで内職をして帰る、というものです。朝7時に来て、9時のオープンまで待っている方もいます」(佐野さん)

 行きたい場所があり、仲間がいて、ともにできる何かがある。自分に適した日課は、たいていそれだけで組み立てられる。

「その、けっこう規則的な生活は、病気には良い影響のある場合が多いです。もちろん、調子の波はありますが。この他、土日のバザーなどの仕事に出て来てくれる方もいます」(佐野さん)

 とはいえ、その時間、ガッツリ就労を続けられる利用者ばかりではない。

 「居場所としての利用が中心の方もいます。毎日来て、仕事時間中、屋内の無線LANにiPadを接続して音楽を聴き、気が向くと昼食の準備の手伝いをしたり、内職を手伝ったり。午前中はぶらぶらして、午後から何か仕事に参加するパターンもあります」(佐野さん)

 精神障害者は、病気と折り合う・病気と付き合うだけで、すでにかなり労力を使っているものだ。このことは見た目ではわからないので、容易に忘れられがちなのだが、「ムゲン」では、互いに互いのペースを尊重している。

 「もっと働きたい」「もっと稼ぎたい」という人はいるのだろうか。

 「時給が『ムゲン』の300円よりも多い施設外就労や、時給の良いバイトの話をいただくこともあるのですが、希望者が少ないので、お断りすることが多いです。『ムゲン』の作業時間は決まっていて、休み時間があって、お昼休みと昼食があって、終わりは午後2時。それでパターンができている方々が多いので、違うパターンの仕事には、皆さん、時給が良くても、あまり積極的になれる感じではないです」(佐野さん)

 障害加算もなくしたら、障害者はもっと働くのではないか、という見方はどうか。

 「今、障害加算があるから働く・働かないという違いは、見ていてもわかりません」(佐野さん)

 そうだろうなあ、と私も思う。「働かなくても暮らせる」は、必ずしも「働かない」の理由にはならない。健常者であれ障害者であれ、そこに大きな違いはないのではないだろうか。

無理な一般就労で 大きなダメージを受ける場合も

 では、厚労省が「可能なら目指してほしい」という意欲でいっぱいの一般就労については、どうだろうか。何か条件が整えば、多くの障害者にとって可能になるものなのだろうか。たとえば、障害者に向いた仕事というものがあるのならば、それはどんなものか。

 「障害者向きの仕事……一概に言えませんね。障害の中身や個性はバラバラなので、障害者に向いた仕事というのは決められないと思います」(佐野さん)

 それでも、一般就労にチャレンジする障害者もいる。

 「統合失調症の人は難しいですけど、アルコール依存症の方は、けっこうチャレンジしています。統合失調症の人にも、一般就労のために就労支援施設に行く人が出てきています」(佐野さん)

 無事に職場に定着でき、就労が継続でき、本人も勤務先も満足でき、生活保護が不要になるのなら、悪くないのではないかという気もする。

 「でも、一般就労できても、半年くらいで戻って来ることが多いです。今も1人、一般就労している人がいますが、ちょっとハラハラしています」(佐野さん)

 精神障害者の就労は、どうすればより容易になるのだろうか。精神障害者だけを問題にしていても、解決しそうにない。

 「知っている統合失調症の方が、就労支援施設に行ったのですが、そこは『働け』という圧力が非常に強いのだそうです。昼休みも外出禁止とか、厳しく鍛える主義のような施設が多いです。その方は、3ヵ所の就労支援施設に行ったのですが、そういう施設ばかりで、今長期欠勤しています」(佐野さん)

 健常者でも、そんな環境では働きたくないだろう。

無理をして病気をこじらせ 作業所に行けなくなったら同じこと

 「精神障害者の就労支援施設では、生活保護を利用しながら、月に1万5000円程度の収入まで働くというのが、一番よいスタイルのようです」(佐野さん)

 無理をして病気をこじらせ、作業所にも行けない期間が月単位・年単位で発生したら、また入院することになったら、どうするのか。生活保護費の生活費とは比べものにならない医療費が必要になる。ここは「本人たちならではのバランスの取り方こそが最適解なのでは?」という視点が必要なところではないだろうか。

 いわゆる「半福祉半就労」モデルは、もっと追求されてよい。その延長上には、健常者の「ワークシェア」もあるかもしれない。

選挙の運動員に牛丼1杯で買収され――。生活保護受給者の状況改善に近道はない

 佐野さんには、大きな気がかりが1つある。

 「精神障害者たちに『選挙に行こうよ』と話をしても、あまり政治に関心を持たないんですよね。障害者同士で政治の話をしていても、床屋談義レベルを脱却できないことが多い感じです。それで選挙になると、運動員のような人に、牛丼チェーン店の牛丼一杯で簡単に買収されてしまうんです。『生卵も付けてもらった』と大喜びで話していて……。今みたいな政治状況が続くと、福祉の締め付けがさらに強くなって『福祉の冬』になるでしょう。『ムゲン』のように小さくて、障害者のペースを大切にできるところは、存続の危機に陥るのではないかと怖れています。今、すでに障害者作業所には、医療などの大手が続々と参入していますから」(佐野さん)

 佐野さんの話を聞く限り、また若干でも就労している周囲の障害者の話を聞く限り、「生活保護費が削減された」ことは、「それなら就労しなくては」という動きには必ずしも結びついていないようだ。もしもそうなら、毎月の保護費が5000円減ったとき、5000円だけ就労収入が増えているはずだ。「そうだ」と言えるデータは、今のところ目にしていない。

 ただし、「働いたら働いただけ手取りが増える」ことの上限が8000円から1万5000円になったことは、障害者たちの就労意欲を向上させ、実際に就労時間・就労収入を増やしている。これは「働いたら損」の収入範囲が、「働いたらトク」に変わったことの効果と見るべきだろう。

 とはいえ、「もっと働いたら、もっとトク」となるだろうか。健常者と同じ仕事を、健常者以上のガンバリズムのもとで強いられたら、健常者でも障害者でも参ってしまうだろう。「障害者がもっと働けば、生活保護その他の現金給付は不要になる」ということは、おそらくは「ない」と言い切ってよさそうだ。

 次回も、生活保護と就労の「どちらかを減らせばどちらかが増える」とはいかない複雑な関係について踏み込む予定だ。

2016年11月11日   ダイヤモンド・オンライン

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