散歩から探検へ~政治を動かすもの

自己認識の学・永井陽之助の政治学を支柱に、自由人による主体的浮動層の形成を目指し、政治状況の認識・評価・態度を語ります。

実証研究は「陰謀説」を捉えられるか~東京都小平市住民投票を巡って (1)

2013年06月03日 | 政治理論
小平市の住民投票の結果を巡って、ツイッター上で「陰謀説」の問題を「大阪-大都市は国家を超えるか」(中公新書))の著者である砂原庸介・大阪市大准教授とやり取りをした。短い応答なので、互いに意を尽くせなかったが、現実の政治事象と学問における実証と関係で考えるべき課題を含むと感じた。

先ず、東京都初の住民直接請求に基づく住民投票(市内を走る都道計画見直しの是非)が小平市で実施された。投票が決まった後、投票率が50%未満で未成立の要件を市長提案で議会が可決、投票率が注目を集めたが、35%(約5万人)、投票は不成立となった。市は開票せず、廃棄する予定とのことだ。

なお、市議会3月議会定例会の審議、各会派の賛否等は、小平市において、議会への関心を高める目的で活動する市民団体『政治・知りたい、確かめ隊』のHPに詳しい経緯が掲載されている。ご参照を願いたい。
 
この件は、テレビも含めて投票前からマスメディアに報道され、地方自治他の分野では多くの人に情報が提供された。投票結果が判明したあともその政治過程に関する解釈論議が行われており、その中で、『【日刊SPA!】「小平住民投票不成立・開票なし」は仕組まれていた!? 哲学者・國分功一郎が語る』の一部に所謂「陰謀説みたいなもの」が掲載され、砂原氏がその内容に注目した。
 
國分功一郎は次のように述べる。
「おそらく初めからすべてが仕組まれていたということだと思います。どういうことかというと、住民投票条例案が可決された後、
(1)市は「50%成立要件」の修正案を密かに準備する。
(2)市長の再選後に不意打ちでそれを提出、議会で可決する。
(3)50%は超えないから開票しない。
(4)投票後に間髪を入れず東京都は事業認可申請する。
(5)小平市はそれを理由に情報開示しない。
 このようなシナリオが恐らく立てられていたんでしょうね。」

「おそらく」が2回使われ、それぞれ「すべてが仕組まれていた」と「シナリオ…が立てられていた」と密着する。具体的な根拠がなく、推測で“悪意”を実態と思わせる文体は、「陰謀説」と受け取られて当然だ。

これに対して、砂原氏は以下の様につぶやく。
「言いたくなっても陰謀論みたいなのは止めた方がいいと思うんだけど。」
これは良識のある発言で、政治問題が過熱し、対立が激化するのを抑える機能を果たす。当事者がこれを“傍観者の権威”と心掛ければ、政治的に成熟した態度である。

これ以降は投票の内容とは別れ、陰謀説に対する砂原氏と筆者のやり取りになる。
筆者「陰謀説は自らの枠組に嵌まらない結果が出たときに、良く出てきますね。松川事件での自民党幹部、上尾事件での労組幹部の発言を想い起こします。」
砂原「実証分析をやってますと、枠組みとデータが違えば枠組みの方が間違ってることになりますので…。「陰謀」の検証まであると、見え方もずいぶん違うように思いますが。」

言葉尻を捉える訳ではないが「間違ってる」に注目する。狭い実証的な意味では枠組とデータの関係は正否の解釈が可能かも知れない。しかし、政治事象は認識の正しさを競うものではない。特に争点となっている問題に関する説明は、認識だけでなく当事者の組織化にも使われるから、その意味で常に二重の意味と機能を有する。

多くの人を仲間にする、味方につける、説得する、宥める、などが必要で、これに対する有効性が、枠組尾の設定、データの利用の判断基準となるはずだ。その中で、尤もらしい(正しそうな)説明も機能するのだ。

筆者「なかなか出来ないでしょう。陰謀説の最大の難点は相手をあまりにも過大評価している処ですから。」
砂原「その通りだとは思いますが(苦笑)、厳しいですね…」

また、イソップの「酸っぱいぶどう」ではないが、陰謀説には自己の誤りを言い訳する機能も含まれる。そうなると、自らよりも極めて高い能力を相手は有することを自白することと同じになりがちである。現代的には、巨大な官僚制を従えた強力な権力者のイメージを敵に当てはめることが多い。

筆者「結局、実証に係らなくても組織内を収める、組織外にアピールする組織象徴としては意味がある、その辺りを冷徹に分析することが学者の仕事だと思うのですが…期待しています。」

政治学では、特に争点が重大になるほど、実証分析を超えた処にも視野を設定する必要がある。今、ホットな話題の橋下発言で励起した慰安婦問題も同じなのだ。

     

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