散歩から探検へ~個人・住民・市民

副題を「政治を動かすもの」から「個人・住民・市民」へと変更、地域住民/世界市民として複眼的思考で政治的事象を捉える。

成熟社会へ向けての諸問題~国家経済の課題

2014年11月07日 | 現代社会
「成熟社会」が政府の中で論じられたのは、三木内閣の時代からだ。経済学者・村上泰亮氏が中心になって起案した「生涯設計(ライフサイクル)計画」が中心概念として使われた。
 『村上泰亮「生涯設計計画」1975年140820』

そして、そのトリガーとなったのは、永井陽之助の論文『経済秩序における成熟時間』(1975/12)だ。当時、公害だけでなく、高度経済成長により、人口・資本・情報を中心にした社会生態系のバランスが崩れ、混乱に陥った時期であった。
 『高度経済成長による時間の稀少性20140701』

それから40年、グローバル化と少子超高齢化が到来する中で、GDPマイナス成長、貿易収支の赤字化、慢性財政赤字に日本は苦しんでいる状況だ。しかし、先進諸国の一員として日本は、先の「ライフサイクル」の概念を重視し、個人の生活が多様に展開していく道を準備する必要がある。それこそが成熟社会の基盤になるのだ。

但し、課題をデッサンし、全体における問題点の整理は十分になされているとは、言い難い。少し、メモ風になるが、思いついた時に書き残しておきたい。

先ずは経済問題だ。池田信夫氏の枠組を基盤に整理してみよう。

次の図のように貿易収支の黒字は1980年代より減っているが、2000年代から所得収支(海外子会社の配当や金利収入など)の黒字が貿易収支の赤字を上回っているためだ。日本は貿易で稼ぐ国から、成熟した債権国になったのだ。
 
  
  国際収支の推移(単位=兆円、貿易収支はサービスを含む)

このような変化は、国際経済学でよく知られている。途上国では貿易赤字を資本収支の黒字(流入超)でファイナンスするが、成長すると貿易収支が黒字になり、やがて経常収支(貿易収支+所得収支)も黒字になる。

成熟すると貿易赤字になり、所得収支の黒字で稼ぐようになるが、貿易赤字が拡大すると所得収支も減り、最後は資本収支も黒字(対外資産の取り崩し)になって衰退してゆく。
 
  
  途上国が成熟、衰退していくまでの発展段階

日本は戦後の60年余りで「1」から「4」まで駆け抜け、「5」成熟国の段階に入ろうとしている。問題は、欧米諸国が200-300年掛かって到達した資本主義の成熟を日本が短期間で実現し、経済構造が「輸出立国」の時代のままなのだ。今のまま「ものづくり」や輸出にこだわると、貿易収支だけでなく所得収支も赤字になり、一挙に「6」衰退国になるおそれが強い。

今後40年で労働人口は半減し、現役世代1人で引退世代1人を支える超高齢化社会が来る。資産の取り崩しによって金融資産が減ると、財政赤字が支えられなくなる。先進国が成熟しそこねると、欧州の問題国家(PIIGS)のように財政が破綻し、将来世代の負担が急増する。

これによって経済が破壊されると、老化して活力を失った日本経済が立ち直ることは難しい。今のうちに輸出立国から、資本輸出と製品輸入で資産を有効利用する経済構造に転換しなければならないのだ。

以上が素描であり、経済を成熟化させた社会が成熟国の基盤になる。