散歩から探検へ~個人・住民・市民

副題を「政治を動かすもの」から「個人・住民・市民」へと変更、地域住民/世界市民として複眼的思考で政治的事象を捉える。

消費税に逆進性はない?~専門家の常識的を疑う

2014年06月23日 | 経済
昨日に続いて“?”が付く表題になった。今日も続けて森信茂樹氏の論考を取り上げる。先ず森信氏の問題提起は「消費税議論で、最大の課題の一つは、所得の低い人の負担割合が多くなる「逆進性」をどうするのか」だ。

ところが続いて、「専門家では、この逆進性は、特定時期の家計の負担状況を見たもので、生涯では大幅に解消か、ほとんど存在しない、という見解がコンセンサスだ。つまり、個人レベルでは、生涯所得は生涯消費に等しいので、消費税の負担は、生涯を通して見ると逆進的ではなく比例的になる」。

えっ!本当?と一瞬考えた処に、
「しかし、政治的には、低所得者への対策は極めて重要な課題となる。これまでも消費税導入時、あるいは引き上げ時には、歳出・歳入両面にわたり、相当手厚い低所得者対策(社会保障給付)が行われてきた。」
これは昨日の記事と実は同じ論理構成の話になる。
 「軽減税率で富裕層は得をする?140622」

即ち、逆進性はないのであれば、消費税の最大の欠点というのも可笑しい。尤も、比例的になれば良いという議論も何を基準にしているのか、不明だからだ。ところが、森信氏は、政治的には低所得者対策は重要な課題だと云う。

これは「経済的には不要であるが…」を省略している物言いであろう。はからずも、経済的合理性が政治的非合理性に浸食されたかのような説明だ。これでは、社会福祉は非合理的対策になってしまう。

おそらくポイントは「個人レベルでは、生涯所得は生涯消費に等しい」ということの説明であろう。これについては何も説明されていないので、論じることはできない。但し、これは経済学的には真実であったとしても、世間一般の常識的考え方からは、必ずしも首肯されるとは限らない様に思える。

では、軽減税率と給付付き税額控除を比較するとどうなるか。これは森信氏の論考に示されている。カナダ、シンガポール、ニュージーランドなどでは、給付付き税額控除を導入して逆進性対策を行っている。

給付付き税額控除とは、一言でいえば「消費税負担分を低所得者に還付する制度」だ。還付という言葉は、納税義務者の税金を返すことだが、消費税の場合、納税義務者は事業者で、消費者は負担者である。そこで還付という言葉は正確な表現ではないのだが、この方がわかりやすい。



「所得別に消費税額の負担割合を示す。紺色ラインは消費税負担割合を示す。所得の多いほど消費税負担割合が低い。これが逆進性である。」

「ピンク色ラインは、消費税率を10%に引き上げた場合で、逆進性はさらにきつくなる。黄緑色は、食料品に5%の軽減税率を適用した場合の負担割合、逆進性というトレンドは依然残る。高所得者層も軽減税率の恩恵を受けており、食料支出絶対額が多いので、軽減税率に伴う恩恵は多いともいえる。」

「そこで、「所得300万円以下の家庭に10万円(定額)を給付する、削減率5%(年収500万円まで5%の比率で逓減)」という給付付き税額控除を導入する。赤紫色ラインとなる。所得500万円以下で逆進性がなくなる。」

しかし、最大の課題は個人の番号制度が必要なことだ。本来、税の公平な徴収のためには、必要な制度と筆者は認識しているが、これは非常に大きな枠組であるが故に、単なる低所得者対策に一つとして実施するものではなく、もちろん、それでは国民的合意に至るのは至難の道だ。結局、学者の構想はどこか非現実的なことを確認するだけに終わってしまいそうだ。