一寸の虫に五寸釘

だから一言余計なんだって・・・

楽天のTBS株式取得

2005-10-15 | M&A

これも遅ればせながら楽天のTBS株式取得について。

TBSの対応、特に敵対的防衛策を発動する(できる)、というところに関心が集まっていますが、isologさんがさまざまな論点を詳しく分析されているので詳細をご覧になりたい方はそちらをご参照いただくとして、素人が大雑把に整理すると、TBSの防衛策は、

当社の事前対応を経ることなく突如として下記「検討開始事由」に該当する行為を行う場合、または事前対応の結果等により濫用的買収者であると判断される者が当該行為を行う場合等、当社の企業価値の毀損・減殺防止の必要性がある場合には、当社取締役会は、当社の企業価値の毀損・減殺防止のため必要かつ相当と認められる範囲において、下記新株予約権プランの発動を決定することができます。

 ・ 当社が発行者である株券等(証券取引法第27条の2第1項に定義される)について公開買付けにかかる公開買付開始公告がなされた場合。
・ 公開買付けの手続によることなく、特定の者(本件新株予約権を保有する者を除く)またはそのグループ(当社の株券等(同法第27条の23第1項に定義される。以下同じ)の保有者(同法第27条の23第1項に規定する者をいい、同条第3項により保有者とみなされる者を含む)およびその共同保有者(同条第5項に規定する共同保有者をいい、同条第6項により共同保有者とみなされる者を含む)をいう)による当社の株券等にかかる株券等保有割合(同条第4項に規定する株券等保有割合をいう)が20%を超えたことにつき、公表された場合または当社が知った場合。

と「共同保有者」を証券取引法上の定義によっているので、村上ファンドの7%強と足せば20%は超えるものの、両者に共同保有の合意があることを立証しないと現時点では発動できないことになります。
また、このメカニズムだと「阿吽の呼吸」というようなグレーゾーンでなくても、思惑買いで5%ルールぎりぎりまで投機目的の投資家が数名買い進んだあとに市場外取引をされると、突如20%未満ぎりぎりの大株主が2,3名登場することは防げない、ということもありうるわけです。
その辺は今後の買収対抗策のトリガーの設計の参考にはなりますね。


ではTBSはどうするか、ですが、防衛策発動のガイドラインとして

当社取締役会は、事前対応、各プラン発動の是非等の検討の過程で買収提案者が下記3.に定める濫用的買収者に該当するか否か、および代替案を検討するに際しては、①買収提案者の属性、②買収提案者が提案する事業計画・経営方針の内容、②買収提案者による株式取得の目的および想定する株式取得方法、③対価の算定根拠および買付資金の裏付け、④買収提案者に対する資金の供与者の属性、⑤従前の交渉状況、⑥当該買収または買収提案者が提案する事業計画等が当社および当社株式に与える影響、⑦買収提案者の有する放送局としての公共性についての考え方(放送法第1条、第3条、第3条の2等に定める事項に関する考え方を含むが、これらに限られない)、⑧従業員の処遇等を含む各観点から検討を行うものとする。

当社取締役会が、上記検討を行うに際しては、特別委員会への諮問および同委員会からの勧告を経なければならない。

と定めています。

このガイドラインは買収者の属性の判断だけでなく業務提携の申し出に対する判断基準としても立派に使えると思うので、楽天からの共同持株会社設立提案の協議の中で十分に聴取すればいいと思うのますが、TBS側の発言を見ると

「筆頭株主からの提案として新たな提案として受け止めた」
「我々が考えていた業務提携からすると大掛かりなもので、一朝一夕に決められるものではない。真摯に検討して回答したい」
「(楽天と)協議を行なうことについて合意したわけではない」
「協議をするということは、お互いにおおまかな合意があって、そちらの方向に向かうということ。協議のスタートだとは思っていないが、提案については真摯に検討する」
「敵対的買収であるかどうかの判断については、企業価値評価特別委員会という社外諮問機関を儲けている。取締役などが勝手に敵対的だと言うべきではないと考えている」

と、やはり急なことに対する右往左往ぶりが垣間見えてしまいます。

せっかく買収防衛策をとったのであれば、もう少し堂々としていたほうが交渉上も得策なんですけどね。

さらに、協議が決裂して楽天が買い増しやTOBを仕掛けてきた場合も、防衛策を発動するためには企業価値評価特別委員会が楽天を敵対的買収者だと判断できるような根拠が必要になるでしょうし、防衛策が発動された場合に楽天や村上ファンドが有利発行性を法廷で争ってきた場合も考えると、十分に協議をして楽天とTBSの意見の根拠や相違点を明らかにする必要があります。


ところで、楽天側は提案の趣旨として

楽天との統合により、インターネット広告とテレビ広告の連動による高付加価値化、TBSの既存コンテンツなどを利用したブロードバンド配信などのシナジー効果が見込める。

 楽天にとっての意義としては、マスメディアの圧倒的なパワーとの融合を図ることによりインターネットビジネスが強化できるとして、「ナンバーワンポータルへの布石」「ブロードバンドコンテンツの強化」「デジタルストリーミングの実現」「テレビショッピングとインターネットショッピングの融合」といった効果が期待できる。

と言ってますが、これって(ホリエモンがフジテレビ株取得のときに言っていた「ネットとメディアの融合」というのと大して変わらないじゃないか、というツッコミはさておき)楽天側のメリットの方が大きいといっているようなものですね。

また、そもそもTBSは放送免許という希少性のある経営資源を持っているわけで、統合の相手方の選択肢は楽天よりTBSの方が多いわけです。

となると、TBSは統合比率(株式移転比率)の交渉では有利なはずです。

おそらく楽天側は株式の時価総額(TBS720,066百万円、楽天1,039,039百万円)をベースに交渉してくると思われますが(※)、TBSの経営陣はそれに乗らずに逆に場合によっては楽天を飲み込んでしまうくらいの気概で協議に臨んでほしいものです。


M&Aについては、村上ファンドの登場やホリエモンvsフジテレビ以後、「攻める新興IT企業・投資ファンド対守勢一方の従来型企業」という構図が定着していて、攻める側が改革者なのか金の亡者なのかという郵政民営化の時に見られたような感情論と、新会社法制定もにらんでの買収防衛策の技術論に議論が二極分化しているように思います。


(細かい問題点はあるものの)買収防衛策を備え、しかもホリエモンvsフジテレビのときと異なりまだ15%までしか取得されていない、という交渉上は有利な立場にあるはずのTBSが自らの株主の利益のために楽天と丁々発止の激論を戦わすようになってはじめてM&A新時代の到来、と言えると思います。

でも考えてみると、それが取締役の本来の職務なんですよね・・・



※ 直感的には、収益構造≒株価形成のロジックが異なる両社において時価総額ベースで株式移転比率を決めるのは、かえってフェアではないと思うのですが、そのへんの考察は後日)

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