一寸の虫に五寸釘

だから一言余計なんだって・・・

M&Aアドバイザリーって何よ?

2008-12-24 | あきなひ

toshiさんのブログ経由の記事

損害:M&A算定で神戸の元会社社長ら 三井住友銀提訴へ
(2008年12月20日 22時09分 毎日新聞)

M&A(企業の合併・買収)で会社を売却する際、価格算定が不適当だったため不当に低い価格で売るはめになったとして、神戸市の元会社社長の男性(60)ら元株主15人が、売却を仲介した三井住友銀行(本店・東京都)に、約1億4700万円の損害賠償を求める訴訟を近く大阪地裁に起こす。過去に工場を移転した際、新工場の帳簿上の価格(簿価)を時価より低く設定したが、転売時には時価が適用されることを見過ごしたと指摘している。M&Aを巡り仲介の銀行の責任が問われるケースは珍しい。  

訴状などによると、元社長は、筆頭株主で社長を務める精密部品製造会社(神戸市)を売却しようと07年6月、売却額算定や売却先のあっせんなどを依頼する「アドバイザリー業務契約」を同銀行と締結した。

toshiさんのエントリで「仲介」と「業務委託」のところを後で修正されているのですが、元の方が実際に近いように思います。
実際はごっちゃになっている、というより、実質仲介を「M&Aアドバイザリー契約」という名目で契約しているのがほとんどだと思います。

というのは、上場会社同士のガチンコの提携・合併交渉とかなら別でしょうが、自社の企業規模に比べて小さい会社や事業の一部を買う(売る)という場合は案件を買主が見つけてきて会計事務所とか弁護士にDDを依頼する以外に更に「アドバイザー」を雇うケースはほとんどなく、「M&Aアドバイザー」なる業者が案件(なり買い手)を持ち込んできて、その会社と「アドバイザリー契約」を結ぶ、というのがほとんどではないかと。
そして報酬も売買金額に応じた成功報酬が多い。
つまり実質は仲介業者なので、アドバイザーといいながら成約する方向にインセンティブが働くわけです。

なので依頼するほうも仲介業者と割り切って、うまくいったら報酬は払うから余計なことは言わないでくれ=「専門的なアドバイス能力」に(もしあったとしても)期待するのでなく、手間のかかる資料整理とか言いにくい事を相手に伝える役目でせっかくなら汗をかいてもらおう、という使い方をすることが多いのでは。


ではなんで仲介としないかというと、「有価証券の売買の媒介」は金融商品取引業になるので、登録業者しか扱えないことになりますし、法に沿った各種の行為規制に服することになりますが、世の中の「M&Aアドバイザリー」業務をやっている会社は金商業者登録をしていない会社が多い(今回の三井住友銀行も金融商品取引業としては行っていないと思います)ので、契約上は「業務委託」とせざるを得ないという事情があるようです。

このへん、脱法行為なんじゃないか、とも思えますが、「アドバイザリー業務」の全体をみて実質的に「有価証券の売買の媒介」にはあたらない、というあたりを言い訳にしているのではないかと(でも、案件持込みが先にあるというのはけっこうグレーなんじゃないかと思うんですが・・・)。
ただこの点について金融庁が摘発した事例は(多分)ありません。
M&A市場の発展については経産省が昔(金商法の前の証取法の頃)から積極的に後押ししていた部分もあり、ここを突っ込むと金融庁と経産省のガチのケンカにならざるを得ないのであまり突っ込まないという事情もあるのではないかと思います。
また、大手ローファームなどはM&Aアドバイザーは案件を顧客つきで紹介してくれる上得意なのでそんな無粋な突っ込みはしてこなかったのではないかと思います。


今回の訴訟ですが、大体こういう契約はアメリカあたりの契約の孫引きなのか知りませんが重過失でも(場合によっては何が起こっても)免責というような契約条項になっていることが多く、本件も評価の間違い程度では契約条項上は免責になってしまうと思うので、原告の会社側は「実質は仲介契約だった」とか適合性の原則などを持ち出して「免責条項は無効だ」などと争うことになるのではないかと思います。


本件も「大人の事情」を知っている同士の取引なら「アドバイザーの言うことを真に受けたほうが阿呆」で済む話だったと思うのですが、手数料獲得をあせるあまり「素人を大銀行が騙した」という形になってしまい、その結果いろいろ寝た子が起きることになってしまったのだと思います。

せっかくここまで来たのなら「M&Aアドバイザリー業務とはなにか」をガチンコで争ってほしいものです。



あと最近、弁護士や会計士・税理士・コンサルタントがグループをつくって「ワンストップサービス」を提供するというのも見られますが、これも下手をするとそれぞれの専門化から余計なアドバイスをされたあげくに事業譲渡とかM&Aとか民事再生とかのディールに誘導されて報酬だけ取られてしまうという「竹の子剥ぎ」にあってしまう可能性もあるので、(そんなに悪い人ばかりではないとは思いますが)利用する側も注意したほうがいいと思います。



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2 コメント

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おはようございます (toshi)
2008-12-24 10:50:06
どうも、いろいろと教えていただき、ありがとうございます。

最後の「ワンストップ」の件ですが、私自身も会計士さん方との業務上のグループを形成しておりますが、弁護士法との関係で微妙な問題を含んでおります。(法律業務を弁護士以外の者が処理しているのではないか?という弁護士法27条、同72条に関する問題)
報酬の取り方については、非常に神経質になっているところです。
遅くなりまして (go2c)
2008-12-25 00:00:02
toshiさん、早速のコメントありがとうございます。

ちょっとツッコミ気味に書いてみましたので異論のある方もいらっしゃるとは思います。

「ワンストップ」の件は、例によって貸し渋りがきっかけではあるのですが「何でここが?」というようなところが倒産し、いきなり申立代理人のグループのコンサルがスポンサー探しのFAになって入札を仕切るというような話がありまして、入札にするのなら民事再生の前に支援先を探すなど他にやりようがあったんじゃないかと思いつつ、焼畑農業的な商売のやり方に疑問を持ったりしたので蛇足を付け加えた次第です。


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