俳句 兼題なし（冬）

　今日一日こともなく過ぎ羽布団

　花舗にいて緋の色が好きシクラメン

　着ぶくれて誰に気兼ねもなき独り

　おでんさえあれば留守して不平なし

　枯蔦や白壁のカフェ閉店す

　無農薬人参カリッと噛んでみる

　冬の帯白くして砕け散る

俳句 クリスマス

　　　電飾のカウントダウンクリスマス

　　　クリスマス洋菓子店の自動ドア

　　　教会で聖夜の子らにギター弾く

俳句 炬燵

　寡婦となり炬燵の上を一人占め

　古典読む睡魔すぐ来る昼炬燵

　戦禍の子炬燵の中で観る痛み

　炬燵にて佐藤愛子を読む至福

俳句 落葉

旅行記に栞代わりの落葉挿す

遠く来てメープル街道落葉踏む

スキップの女児（めこ）一人なり落葉道

葉脈を残し虫食ふ落葉かな

落葉降るトレモロの音軽き音

 

俳句 山茶花

　　山茶花の固き蕾に紅仄か

　　山茶花は慎ましく咲き艶に散る

俳句 大根

　子と二人大根おろし朝の卓

　大根で献立決まる即売所

俳句 初時雨

　病む友の窓をも打つか初時雨

　ケアマネは自転車合羽初時雨

　軒下に猫の寄り来る初時雨

俳句 秋惜しむ

　　　　　五十年住みなれし街秋惜しむ

　　　　　法事後はそれぞれの帰路秋惜しむ

　　　　　セパリーグ悲喜こもごもに秋惜しむ

　　　　　植木屋に一服のとき秋惜しむ

　　　　　夜の更けてあと一頁秋惜しむ

俳句 秋の暮

　　　　　一病を一喜一憂秋の暮

　　　　　ポストには待つ便りなく秋の暮

　　　　　子の留守は雨戸早めに秋の暮　

　　　　　秋の暮着信音はメヌエット

　　　　　秋の暮たどたどしくもギター弾く

俳句 葡萄

　　　　塀越しに一房とどく葡萄棚

　　　　翡翠似のこの色が好きマスカット