ガラスの御伽噺 リョウ 香 の パロ

ガラスの仮面、シティ-ハンタ-(RK専門)、AHの小説
・・・時代考証はゼロ

原作等とは一切関係ございません

懐かしくて、その後 «番外編» 〜鬼才 黒沼龍三〜

2017-07-23 18:20:53 | ガラスの仮面

新宿ゴールデン街の小さな飲み屋。

その二人の男たちはいた。

一人は演劇界の鬼才、黒沼龍三。もう一人は、かつて大都芸能の社長を務め今や大都HD・CEOの速水真澄である。

この男たちはそれぞれのポジションでいかんなく能力を発揮し、相当の地位についている。本来なら、銀座の高級クラブなどへ足を運びそうなものだが・・・。

この店は黒沼龍三が学生の頃から営業しており、マスターは初老だが、かつては演劇関係者が演劇論をかわした事もある、いわば黒沼の古巣である。

真澄は、この黒沼龍三と忌憚ない話をするのが好きだ。

となりで既に酔っぱらっている不出の天才演出家は、頭の回転が恐ろしく早く、また人の心の機微に超絶敏感だ。そして、思った事はこちらが驚くほどヅケヅケと言う。普段、ごますりばかりで出世した面々に囲まれているせいか・・・。

真澄は、黒沼も、黒沼の好む行きつけの飲み屋も好きだった。

マスターは黒沼の為に、ゆるく燗をつけたとっくりの日本酒に、軽くあぶったスルメを置く。

そして、真澄へは。たくさんの氷が入ったグラスに冷凍庫から取り出したハーパーの原液を注ぎ、マスターがその手で荒く砕いた、大衆的な板チョコをツマミに置いた。ハーパーのボトルは冷えすぎて、回りにはあっというまに霜が張っている。

このマスター、一切オーダーは取って来ない。彼の判断で(彼の勝手で・・・。)客の好みにあいそうなものを提供するのが長年のスタイルだ。

『なあ、マスター。ウイッ・・。この若旦那はロックとチョコレートって感じかあ?』

黒沼はニヤニヤしながら赤ら顔で、馴染みのマスターに絡んだ。

『そうですね。なんか、仕事に厳しそうな感じだから、酒はキンキンに冷えたロックで・・・、でも、ツマミはサラミというよりは、チョコレートでしょう(笑)』

マスターは終始ニコニコしながら、よっぱらった黒沼に答えている。結構。楽しそうだ。

『ははは、チョコレートなんて久しぶりですよ。』

黒沼とマスターの気の置けないやり取りをツマミに真澄はハーパーに口をつけた。気取ったクラブではまず出てこない、強烈に冷やされたロックは妙にうまい。

連日の猛暑は、いくら空調の聞いた執務室にいる時間が長くても。やはり、暑いものは暑い。暑気払いするかのように、冷やされてパリパリになっているチョコレートに手を伸ばす。これも、妙にうまい。

『なあ、若旦那、不思議な店だろう? 安い酒も、安いあても、なんか旨いだろう・・・。』

黒沼は相変わらずニヤニヤしている。でも、黒沼の言う通りだ。

真澄は、こっそり心の中で、マンションのリビングの棚に陳列されている高級スコッチ達を夏場は冷凍庫に居場所を移そうと考えている。

この初老のマスター、ニコニコしているが流石この道のプロ。高級品でなくても、客が喜ぶ酒の提供方法を良くここ得ていた。

--パリッ--

真澄が、冷えすぎた板チョコの破片を口に放り込み咀嚼すると、いい音がした。すかさず、これまた冷えすぎたハーパーのロックを口に含む。

見るからに一流の男としてのオーラを放つ真澄が、酒とツマミを堪能しているのを、マスターは喜んだ。

『・・・いいオトコですね・・・。』

--ブーー!!--

マスターの突然の発言に、すっかり気を許していた真澄は意表をつかれ酒を噴出した。幸い、たいした量が口に入っていなかったので被害は少なかったが・・・。

『大丈夫ですか? オシボリです。』

マスターが新しいオシボリのビニール包装を破った。真澄は受け取ろうと手を伸ばすが・・・。

--・・・・。--

真澄の口元は、低いカウンターの向こうにいるマスターに直接、優しく、拭われる。

嫌な汗が流れ、真澄は黒沼の視線だけで睨む。

『ゲイなんだよ。なあ、マスター、あ、もう一本くれや。燗、さっきより熱めで。』

悪びれた素振りもなく、黒沼はスルメにマヨネーズをつけながらかじっている。真澄もだてにいろいろ経験しているわけではないので、このマスターが嫌に気がきくのに納得した。

これが若い美女なら、まちがい無く銀座のクラブでナンバーワンを張れるだろう・・・。元々真澄は切り替えが早いので、少しショックだったけど、また酒を楽しみ始めた。チョコレートの傍に、塩味のセサミクラッカーが追加されている。甘いものの次に、軽い塩分が心地いい。

気の置けない、黒沼との二人だけの男の飲み会は、なんだかんだ居心地が良かった。

『気が利く上に、恐ろしく口が堅い。ウイッ。・・・男にはなあ。』

黒沼はマスターをほめた。

真澄の前で褒められたマスターは妙に嬉しそうで。どうやら、真澄はちょっと惚れられたらしい。因みに、マスターは女が嫌いである。

今日の真澄は、相変わらず仕事の帰りでスーツ姿だ。

黒沼とのさし飲みという気安さで、上着もネクタイもカフスを外されている。

この酷暑のせいで、少し多めか・・・。三つほど、ワイシャツのボタンが外されている。その襟元からは、鍛えられた厚い胸元に続く皮膚が熱を放ち、時々アルコールが流し込まれ波打つように動く喉仏が男の色気を放つ。

マスターは小首を軽く傾げてニコニコしながら真澄を見ていた。

ノンケの真澄にはちょっと困りものだが、このマスターは無理にしなだれる事もなく、おとなしく仕事している。その姿勢に、“プロ”意識が見える。流石、黒沼の行きつけであった。

こうしていると、久しぶりにマヤの事が頭から離れる。いや、マヤが一緒にいる雰囲気に近くて、安心しているのか・・・。

連日、怒涛のような多忙ななか、あの“三角関係”は真澄の気がかりの種だ。せっかく、当の鷹宮紫織と円滑に話し合いができているのに、世論は全く異次元の方向にベクトルが向いている。

そんな真澄の心を察するように、黒沼はクイズを出してくる。

『なあ、若旦那、今日、北島なにしているか知っているか?』

この暑いのに熱燗をすする黒沼はちょっぴり、・・・暑苦しい。それは、彼の質問のせいか・・・?

『北島くんは、今日は強制オフのはずです。そろそろ、クランクアップですし。一層の役作りに余念がないという所でしょう。』

これは真澄の本音だ。

やたらスケジュールを詰めすぎるマヤの仕事ぶりが心配になり、マヤのスケジュールは本日のみだが完全に白紙である。でも、彼女の事だ・・・。マンションの部屋の中、残りの撮影の為にセリフ運びを模索しているであろうことが容易に想像できた。“休め!”といって、休憩するくらいなら強制オフなんてあり得ない。

しかし・・・。

『ワッハッハッハ!!!』

突然、黒沼が笑いだした。横っ腹が痛いらしく、背中を丸めている。そして、着ていたオヤジくさいポロシャツの胸ポケットからスマートフォンを取り出すと、ラインのアプリを起動させた。

『ヒーヒッヒ(笑)』

真澄は、笑い続ける黒沼をいぶかしげに見る。真澄の脳裏には、先日の歌舞伎役者のパーティーで紅梅柄の和装に身を包んだ清楚なマヤの姿が浮かぶ。

斉藤ハルカにちょっかいだされているのを、そっとかばい、そして・・・。後ろ髪をひかれる思いで彼女から再び離れたあの日。

自分と、マヤが互いに思い合っている事など、ちらとでもバレるわけにはいかない。今、真澄は、素直にマヤが恋しい。黒沼といると、マヤの気配が感じられ安心感はあるが、同時に実際はここにいない事実に打ちのめされる。

でも、熱燗ですっかり出来合上がった黒沼は、真澄の憂い表情を完全にスルーして、マスターと一緒にスマホを見ながらゲラゲラ笑っている。

マスターも、“ぷっ”と噴出しているようだ。

『どうしたんですか、黒沼さん?』

流石に真澄も気になる。何が、それほど面白いというのか・・・。思わず、黒沼の手元を覗き込んだ。

可愛いイチゴの写真は、マヤのプロフィール画像で・・・。そして、缶ビールのプロフィール画像は黒沼で。

・・・・。

真澄は絶句する。ラインは一度もしたことが無い。

(イチゴ)«先生、あついですね!»

                     (缶ビール)«お前は、どうせ涼しい部屋のなかだろう ずるいぞ!»

(いちご)«扇風機ですってば。温度計33度こえてます〜» 温度計の写メがコメントの下に添付されている。

                     (缶ビール)«仕事はどうした?»

(いちご)«休みなさい!言われました。あつ〜い〜。» 今度は、扇風機の写メがコメントの下に添付されている。

                     (缶ビール)«お前、白百合荘にいるな バカなヤツめ ワハハハ»

(いちご)«麗のハンバーグのためなら、へっちゃらでーす» またしても、写メが添付されているが・・・。タオルを首に巻きつけた汗だくのマヤが、麦茶のグラスを“カンパーイ♪” とでもいうように掲げている。どうやら、鏡を使って自撮しているらしい。

                      (缶ビール)«北島、オマエ そこで何してる?»

(いちご)«あつくて あつくて ふやけてます»

ここでやり取りは終わっている。いつの間にか、真澄は黒沼の手からスマホをもぎ取り凝視していた。

いったい、自分の悩みはなんだったのか・・・。脱力である。本当に、ちびちゃんには適わない。

世間は、マヤと里見、桜小路の切ない三角関係に夢中で、当のマヤも心を痛めていると水城経由で真澄は報告も受けていた。

でも、その本人は。

いつものように。

何があっても彼女は自らの力で立ち上がっていた。          

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マヤと自分。

今は、二人で肩を並べて歩く事もままならない。

でも、気が付けば周りには、心優しいお節介がたくさんいるようだ。

それは、まるで、二人が一緒にいるような気持ちになる。

君に届くまで、あと少し・・・。

今夜は、もう少し飲もう。

                           «完»

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