ガラスの御伽噺 リョウ 香 の パロ

ガラスの仮面、シティ-ハンタ-(RK専門)のパロ 小説
・・・時代考証はゼロ

原作等とは一切関係ございません

雨の日はそばにいて/ 斎藤ハルカ編

2017-06-19 13:45:05 | ガラスの仮面

※ブラック気味です。気になる方はスルーでお願い致します(_ _;)

 

大河ドラマ弓姫の撮影現場は何時も活気と緊張感に満ち溢れている。

歴代視聴率トップすら大きく凌駕する視聴率を叩き出し、役者も脚本も演出も評判は上々。かかわるスタッフの気合は嫌がおうも日に日に高まっていった。

『シーン14行きます!』

数台のカメラが二人の女優を追い詰める。

照明は幻想的な月光を作り出し、おぼろげに眩い光が北島マヤ演じる弓姫と、斎藤ハルカ演じる姫君を浮かび上がらせた。

業界でこの二人の関係性は噂の的で、ネットでも騒がれているので、ある意味スポンサーから見ればドル箱シーンである。

マヤは、そういったものに無頓着だが、斎藤ハルカは敏感で。マヤと絡めば絡むほど、自分の出番が増えるのを良く知っていた。

“斎藤ハルカが北島マヤを買物に誘ったらしいよ”

“魂胆丸見えだけど、よくやるよ”

“流石に北島マヤに女の武器は使えないからなあ”

自分の業界での噂も評判も分かっている。寧ろ、そんな話も立たなくなった時は、女優として捨てられるときだ。

だから、悪い噂もされるだけマシ。

斎藤ハルカはそう考えている。

ーーーーーーーーーーーーーーー

『明日、お立ちになられると…』

斎藤ハルカがスタジオで視線を浴びる中、セリフを口にする。美しい姫が、抑揚の無い声で語るセリフは当たり役で皮肉にも演技の評判は良い。

斎藤ハルカのセリフは少なめだ。役どころは、武将である兄に順じゅうではあるが、人を見下したような冷徹な姫君。マヤのマネージャーが、“セリフが少ない上に地で演れてうってつけね”、と先日のパーティーの帰りの車中にマヤに零すのをマヤは苦笑いして聞いていた。

『はい。あの方は西へ行かれ、私は東へ兵を率いて参ります。』

北島マヤ演じる弓姫がセリフを吐くと、棒読みの様な斎藤ハルカの演技すら引き立つ。凛とした姿勢で、姫君を見つめ話す姿は、今から恋人と正反対の方向へ兵を指揮して移動しなければならない弓姫の切ない心情が、抑えた演技で余すところ無く表現されていた。

こうも抑えた演技が来れば、自然と斎藤ハルカ演じる姫君の次のセリフに注目が集まる。当然、スタッフはシナリオを読んでいるが、緊張感は最高潮に高まっていく。

『私、あなたはお兄様と一緒に征くのだと存じておりました。』

斎藤ハルカはセットの小枝を手折ると、小枝を口元に添え、北島マヤに顔は向けず視線だけ流し,セリフを続ける。

斎藤ハルカの流し目は狂気が交じる。演技というより、マヤのマネージャーの言を借りるなら、“地”でいく演技だ。

『西の敵は強大です。でも、きっとあの方は収められるでしょう。…ですが、…兵が少なすぎます。まともに当たっては被害は甚大でしょう。…ですから、私は東へ参ります。敵の目を欺き、時を稼ぐために…。』

囮になる事を決心した弓姫のセリフ。ここで、このシーンはカットされた。

ーーーーーーーーーーーー

『ハルカさん、お疲れ様です!』

大都芸能が斎藤ハルカに専任でつけた男性マネージャーが撮影を終え、着替えも済んだ控室で声をかけて来た。

専任のマネージャーが着くなど少し前なら考えられなかった。

でも…。

北島マヤが高校生の時に、速水真澄の最側近である水城が専任でマネージャーに着いたと聞いている。それに比べて。今のマネージャーは悪くないが、今ひとつキレがない。先日のパーティーでも頼りにならないのでマネージャーはホテルで控室として取った部屋に待機させ、自分で売り込みをした。

『撮影、遅くなりましたね。直接、マンションに帰りますか?』

斎藤ハルカがマネージャーに対して無口なのは日常なので、彼女の男性マネージャーは気にも止めることなく自身の職務を果たしていく。

愛想はいい男で、スタッフなど斎藤ハルカが目にもかけない面々にマメに挨拶してはフォローした。

斎藤ハルカは気づいていなかったが、斎藤ハルカと男性マネージャーのセッティングは大都芸能の綿密な計算の上にある。

いまだ続く梅雨。

マネージャーが運転するワゴン車の中から車窓に打ち付ける都会の雨を睨みつけた。

雨は、斎藤ハルカに過去を思い起こさせる。 

初めて体を売り物にした日。あの日も、梅雨だった。

 ーーーーーーーーー

デビューして7年。最初は際どい水着のグラビアで、それなりに紙面を飾ったりしたが、十代のタレントに仕事は奪われていった。

取り立てた話題の無いタレントなんて年を取ればお払い箱で。弱小事務所に所属する斎藤春香は銀座の小さなクラブで働きながら生きていた。

当時、トーク下手で今ひとつ客の付きの悪い斎藤春香には、一人だけ大金持ちの中年固定客がいた。

『やあ、春香ちゃん。

非上場だが大企業の役員をするその男は、客の付かない春香を何故かやたらと贔屓に、必ず指名していた。

中太りに白髪の交じる天然パーマ。左手のリングは既婚者の証をわざと見せつけている様に、やたらと太いプラチナリングをはめていた。

春香が隣に座ると、クラブのママの死角になる場所で太ももを撫で始める。

『今日で、ボク、春香ちゃんの指名何度目だっけ?』

男は無粋な質問を投げてきた。

『そろそろアフター、いいかい? 実は、話したいことがあってね。』

『お話、ここではなくて?』

水割りとチエーサーを置きながら、今夜、初めて春香はこの客に口を開いた。

太ももを撫でていた客が、ドレスのスリットから手を入れると、つけ根に近い場所を直に肌に触れながら顔は正面を見据えたままグラスを口に付けた。体の向きも正面を向いているから、傍目には客とホステスが並んで座っているに過ぎない。

『昔、グラビアとってたでしょ? 中々いいけど…。今の人気ある子、顎がシャープで、丸顔より、卵型だよね。それに、芸能界って、強い事務所に入らないと年取ったら終わりだよ?

春香は無言で客に目線だけ向ける。男の手は下着の脇に指を突っ込んで、下着を下ろそうとしているようだった。

『少し、整形してみる? ウチの会社スポンサーしてるし…。口聞いてあげようか?』

こんな話は泣き寝入りの元だと春香は思う。

でも…。

結局、その夜、春香は男と関係を持った。

雨の中、男の待つホテルの一室に向かいながら裏切りを覚悟したあの夜。駄目なら、これが最後の足掻きと、芸能界にサヨナラを告げようと。

だが、男は、少なからず春香に好意があったのだろうか。

整形外科医を紹介し、春香に大都芸能への道筋を与えた。

ーーーーーーーーー

『銀座に回して。』斎藤ハルカは運転するマネージャーにようやく返答した。

大都芸能から再デビューを果たし、芸名を斎藤ハルカと改め、今、存在する。車中から、あの夜を思い起こさせる雨を見ながら、今夜はまだ帰れないと思う。

ワゴン車に備えてあるビニールの透明な傘を広げると歩き慣れた銀座ヘ一人消えていく。

安物の傘に、雨で濡れた足元。

こんな姿を見て誰があの“女優斎藤ハルカ”と思うだろう。

だけど、こんな自分は等身大と分かっている。

“春香”はもういない。

いるのは、作り上げられた“斎藤ハルカ”なのだから。

 

                   《完》

 

 

 

 

 

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