ガラスの御伽噺 リョウ 香 の パロ

ガラスの仮面、シティ-ハンタ-(RK専門)、AHの小説
・・・時代考証はゼロ

原作等とは一切関係ございません

雨の日はそばにいて / «番外編»

2017-06-13 14:56:15 | ガラスの仮面

寝室の窓ガラスに、風にあおられた雨が強くぶつかってくる。

梅雨とはいえ、外界をシャットアウトするような雨だ。

マヤは電気もつけずにベッドの中から窓を見つめている。霧状に飛散する雨水は都会の明かりを反射し、ボンヤリと外を明るく演出する。

つい先ほど、ホテルの一室で和装からの着替えを済ませ、普段着になったマヤはマネージャーの車で帰宅した所だ。

今日は、少しだけ真澄と肩を並べて歩いた。そして、少しだけ会話して。一緒に、姫川歌子の挨拶に行った。

それだけ。

でも。

ちゃんと感じた。

---私は、あの人に守られている---

マヤは目を閉じ、安らかに眠りについた。

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この日、歌舞伎界の大御所が人間国宝を授与されたという事で、都内の大きなホテルで大規模なパーティー開催された。演劇界のみならず政治・経済界からも来賓が訪れ、大都芸能からもトップクラスの役者・タレントたちが場に華やぎを添えるために参加を指示されていた。

大都側の参加者リストには姫川歌子など、懐かしい面々もいる。桜小路優は海外ロケで不在だったが、マネージャーがマヤのそばでサポートに徹してくれるという事で安心して会場に向かったのだ。

マヤは白地に細やかな紅梅がたっぷりとあしらわれた着物に、鶯色の帯とといった清楚な和服姿で会場に入り、苦手ながらも挨拶に回っていた。大御所の歌舞伎役者とは互いに舞台を見たという程度の面識だが、紅天女の後継者として、また大都芸能の看板役者として外せない仕事なのである。

『マヤちゃん、帯きつくない? 大丈夫かしら?』

マヤの女性マネージャーが公の場で、ついふさぎ込みがちになるマヤに気遣い声をかける。

『はい。最近、着物なれてきたし、平気です。』

マヤはそんなマネージャーの気遣いが分かるのでニッコリと笑みを返す。紅天女の後継者として、超高視聴率をたたき出したドラマのヒロインとして、マヤは一世を風靡する女優だが、中身はいつも昔のままの“北島マヤ”だ。

素朴さをいつまでも失わないマヤは、無防備で。彼女にたかってくる妙な輩を排除するのは大変だが、この女優のフォローができるのは幸いな事だとマネージャーはいつも思っている。

『中村様、この度は受賞おめでとうございます。』

やっと、本日の主人公とマヤのご対面である。相手は中村九衛門。この名を名乗るのは12代目という歌舞伎界でも歴史ある一門だ

『おお、マヤさん。やっとお会いできましたね。紅天女の舞台、真澄くんにチケットを頼んでね、二度拝見しましたよ。』

御年76歳の中村九衛門は、育ちの良さからくるのか生来の懐っこさでマヤに笑顔で答える。若い頃は相当なプレイボーイで、“女遊びは芸の肥やし”を地でいっていたらしいが、今は長年連れ添って、更に長年苦労を掛けた妻と寄り添って会場を回っていた。

“真澄”の名前が出てきて、マヤの心臓は飛び跳ねそうになるが、必死でこらえる。実は、会場で真澄の姿を見つけ、そわそわしていたのだ。

『ありがとうございます、中村様。私も来月御出演の演目、観劇させていただきたくて、チケット用意したんです。』

マネージャーが用意したトークは順調にマヤの口からでてくる。舞台を降りると途端にマヤは大根役者になってしまうので、こういう場に来るときは理論武装が欠かせない。

本来、この二人が対峙するならCEOの速水も同席するのが筋だが、中村九衛門の方からマヤ達の方に来たので、マネージャーは速水の不在を詫びてフォローした。

あまりに参加人数が多く、中村九衛門はさっさと次の客の挨拶に回っている。

あまり見てはいけないと思いつつ、マヤが真澄の姿を追うと、数人の初老の男性に囲まれて談笑中だった。若い真澄が、恐らくは政治や経済の世界の重鎮であろう紳士達と対等、且つ堂々と話す姿は、トキメキもあるが自分との距離も感じてしまう。

『さあ、マヤちゃん、私たちも頑張って挨拶にいきましょう!』

マネージャーは、大物ばかりのこのパーティーで女優北島マヤを売り込む事に余念がない。引きずられる様に、マヤは挨拶周りに徹していった。

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 マヤ達が不器用ながらも会場で挨拶周りをしていると、一人の女優が近づいてきた。

『マヤさん!』

美しく微笑み、長身でスレンダーな体を露出度の高いイブニングで包んでいる。マヤの体形コンプレックスをくすぐるタイプの女優の登場に、隣に控える女性マネージャーは眉をひそめる。彼女はあまり良い噂もく、“マヤに近づけたくない輩”リストの一人、斉藤ハルカだ。

正直、こんなパーティーに出てくる事すら忌々しいが、芸能界というのは作り上げたイメージが先行するので、実際なんて関係ない。この斉藤ハルカは世間的には、“理想のお嫁さん№1”“OLが選ぶ理想の女先輩№1”とか。なんだかよく分からないようなランキングの常連だ。確かに美しく、オンエア中の化粧品のCMも好評ではある。

『あ、・・ハルカさん。』

今出ている大河ドラマ弓姫で、斉藤ハルカは里見茂演じるマヤの相手役の美貌の妹役として登場している。最近、撮影が一緒になることが多い。

29歳で美貌の女優は、正直演技力は今一つだが、やたらマメでマヤを見つけるたびに勝手に近寄ってくる。それはマヤを取り巻く、人脈や利権に近づく為の事で。マネージャーは薄々気づいて二人が親密になりすぎないよう注意していた。

『紅天女が舞い降りたような御着物ね。とても可憐だわ。』

大きく開いた胸を誇るようなドレスの斉藤ハルカに、マヤは目のやり場が困る。いくら同性でも、長身の斉藤ハルカは高いヒールを履いており、草履の小柄なマヤの前に立たれるとやたら豊満な胸ばかりが目にはいるのだ。

『ありがとうございます。ハルカさんも、とても素敵。そんなドレス、私に合わないから・・・。』

マヤは本当に無防備だ。

目の前の美しい女の皮をかぶった魔女に、簡単に付け入る隙を与えていく。

斉藤ハルカは明らかにマヤを懐柔する事を狙っており、まるで物分りの良い姉のように接してくる。

とはいえ、大都芸能の看板女優であることに変わりはない。マヤの隣で成り行きを見ているマネージャーは、この二人の距離を作る為、斉藤ハルカの天敵になりそうな人間を会場内で探し始めた。

“姫川歌子さんがいいんだけど、まだ来てないのよね〜”

場の雰囲気に合わせ顔には笑みを浮かべているが、斉藤ハルカにぶつけられそうな女優が他に見当たらない。マネージャーは心の中で盛大にため息をつく。

『そんな事ないわ!マヤさん、バランスのとれたプロポーションよ。ねえ、今度一緒にドレスを探しにいかない?いつもパーティーに和装ではないでしょう?』

“げ!!”

マネージャーの顔がひきつる。

“絶対マヤちゃんのイメージをぶっ壊すドレスを選ぶんでしょ!お願いだから誘わないで!!”

いくら心で唱えても、ニコニコしながらマヤに忍び寄る斉藤ハルカには隙がなくマヤのフォローが難しい。流石に、この世界で渡っていくだけの事はある。

『やあ、君たち。』

この様子を遠くからチラチラ観察していた人物がやっと来た。斉藤ハルカをマヤに近づけたくない同盟、そのⅡである。

『速水さん!』 『社長!』

マヤと斉藤ハルカの声が同時にあがる。

『大河女優が二人もとは豪華すぎる顔ぶれだな。』

アルマーニの三つ揃えのスーツを完璧に着こなした速水は、穏やかな笑顔を振りまきながら近づいてきた。

『マヤさんはともかく、私は御来賓の方々の豪華さに飲み込まれてしまいそうですわ。』

さらりと斉藤ハルカは真澄に話しかけていく。マヤといえば、おもいが通じあっていても鷹宮家や世間体を慮り、真澄とは意識的に会話を控えている。はっきり言って、この場では傍観者だ。更には、マヤの表情が徐々に曇っていく。

両想いのはずでも、現実、こうした場で美しく背の高い女性が真澄のそばにいると、何もかも夢のような気さえしてくるのだ。

まるで対をなすような、美しい女優と、男の色気にあふれた青年実業家。なんとなくマヤの心情が伝わってくるので、隣に控えるマネージャーも顔色はイマイチだ。

“水城君が選んだ、このマヤ選任のマネージャー、マヤを安心して託せそうだな・・・。”

真澄は斉藤ハルカと会話を重ねながら、しっかりマヤとマヤのマネージャーの様子を伺っている。この二人の表情がシンクロしているトコを見ると、ちょっと噴出して笑いそうにもなるが、そこは必死でこらえる。

『歌子さんがきたな。』

真澄が涼しい笑顔で見る方向は、会場の入り口。一際に華やかな女優が入ってきた所へ、人垣ができていた。

勿論、斉藤ハルカの顔が一瞬曇ったのも見逃さない。どんなに下手にでて擦り寄っても、自分の意図を見透かすような姫川歌子は、斉藤ハルカにとって一番苦手な女だ。

『歌子さんは、いつも本当にお綺麗ですね、憧れますわ。』

斉藤ハルカはうまく自分の心を隠すとさらりと言ってのける。マヤとは正反対で、彼女は舞台を降りると名優になる。

優雅に会釈し軽く挨拶すると、斉藤ハルカは次の獲物を目指して優雅に装い会場を回遊しにいった。

真澄とマネージャーは、マヤからその女優を離した事に安堵する。高校生の時のように、妙な人物の為にマヤが傷つく事があってはならないのだ。

『マヤ、一緒に歌子さんへ挨拶へ行こう。』

真澄の声掛けで、三人は姫川歌子の方へ歩いていく。

それは、ほんの束の間のマヤと真澄の逢瀬だ。真澄とマヤは肩をならベ、マヤのマネージャーは二人の後ろにさり気なく付き歩いている。

もしかして、感の良い歌子は自分とマヤの関係に何かしら気づいているかも、と思いながら真澄は歌子の取り巻きの輪にマヤをそっと入れた。

真澄は、早めにこの会場を出て社に戻り、米国の子会社と連絡を取らないといけない。斉藤ハルカは気になるが、取りあえず今夜は姫川歌子のフォローが期待できるだろうと考えている。斉藤ハルカのようなタイプは姫川歌子を苦手とするであろうことは易々予想できる事だった。

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『お疲れ様、マヤちゃん!帯、ほどいて楽なのに着替えましょう?』

控え室にするために抑えたホテルの一室で、やっと今夜の仕事から解放されたマヤは緊張でかいた汗で湿ったタオルを外しながら着物を脱いでいた。

時間にしたら一時間程度のものだが、舞台とは違う疲労で、体形を整える為に着物の中に忍ばせていたタオルは思いのほか水分を含んでいる。

『なんだか、すごい雨ね。』

マネージャーは無言のマヤに気を留める事なく、マヤに冷えたミネラルウオーターを渡すと、てきぱき帰り支度を進めていく。

雨はどんどん強くなり、ホテルの部屋の窓は滝のような水がが流れた。

マヤは雨を見ながら想う。

雨はいつも真澄との思い出につながる。

・・・正直あまり良い思い出は少ないけれど。

今日は少しだけ、真澄と話せた。

それだけで、今、とても落ち着く。

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マネージャーが衣装係の大都のスタッフに着物を大都の衣装部に運ぶよう指示を出し、自らのバックを取ると窓を見てるマヤを見つめた。

静かに流れる雨を見つめる横顔は、凛として美しい。さっきの女優とはちがい、作り物ではない美しさがある。・・・本人にいっても信じないから言わないけど・・・。

『さあ、マヤちゃん、帰りましょう。マンションに送るわ。』

多分、この様子では帰宅してからもぼんやり雨を見てるんだろうと思いつつ、マヤを促す。

マヤはようやく振り向くいた

『はい。』

たった一言だけど、表情は自然な笑みが浮かんでいる。それは、何とも心が引き付けられそうな表情で。

---きっと、こういう人物が本物の大人物になっていくんだろう---

マネージャーとして、欲の目もあるかのかもと思いつつルームキーを取り、マヤを部屋から出した。

先ほどの斉藤ハルカの登場で、少しおどおどしていたマヤが心配だったけど、今はすっきりした佇まいになっている。

きっかけは良く分からないけど、少し頼もしさを覚えた。

 

--雨足は益々強くなっている。

--誰もいなくなった部屋の窓は、雨水が打ち続けている。

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