アメージング アマデウス

天才少年ウルフィは成長するにつれ、加速度的に能力を開発させて行きました。死後もなお驚異の進化は続いています。

あいものがたり Ⅱ

2016-12-07 12:04:12 | 物語
 舞台袖に駆け込んだ河太郎が桶の水を頭から被った。
「これで生き返ったぜ! 小雪姐さん」と、傍らの年増の美女を見下ろして声を掛けた。
「どうです? 入りは」
「ご覧の通りさ」
 幕間から客席を覗いた河太郎、散々の入りに溜息をついた。
「今日は八幡様の祭礼ですからね。みんな深川に行ったんでしょ」
「だろうね」
 色白の頬を微かに桃色に染め、大きく溜息を付く小雪。真っ赤な襦袢に雪の結晶が鏤められた萌葱の浴衣が心に染みいるほど鮮やかだ。その白い息とともに寒気が拡がって行く。小雪は雪女だった。
「だけど、来寝麻呂目当ての芸者衆がぼちぼち集まってるよ」

「来寝様ーッ!」
 最前列の手古舞姿の深川芸子が黄色い声を上げていた。
「来寝麻呂!」「来寝様ーッ!」
 深川衆を取り囲むようにして、浅草の芸者達も負けずに黄色い声を上げている。
「生娘みたいな声出すんじゃ無いよ。来寝様はあたしら浅草ッ娘のものさ」
「白塗りの化け物みたいな顔で騒ぐんじゃない」
 負けずにやり返す深川衆。

「あんな優男のどこが良いのかねえ?」と、小雪。
「姐さんにはね来寝様の素晴らしさが分からないの! 女にしたい程良い男つてのは来寝のことさ」
 いつの間にか鎌鼬のかまおが小雪と河太郎の傍ら佇んでいた。
「来寝様」と、息も絶え絶えに呟くかまお。胸の大きく開いたシースルーのワンピース、裾が膝から十センチは上がっていた。
「さてと、あたし達も一回りして客を集めて来ようかね」
 屈み込んだ小雪が、子犬のシロの耳元で囁いた。
「座長、良いですか。用意して下さいな」
 シロが小太鼓を首から提げて小雪を一睨み。
「駄目駄目、そんな可愛らしい姿じゃ」
 今度は、吽とばかりに口を真一文字に結んで、前足を力一杯に強ばらせると、身の丈七尺は超えようかの偉丈夫に姿をかえた。道中姿に白塗り、首から大きなチンドン太鼓をぶら下げていた。
 チンチンドンドコ、座長のチンドン太鼓を合図に座員が集まって来て、それぞれに用意を調えた。
 小雪はクラリネット、むさ火とけち火が三味線、おまんばあさんがアコーディオン、さこひめが龍笛、ピンクの忍衣装で身を固めているお軽が指笛、という具合に。
「おい、かまお! 何をぐずぐずしてるんだ」
 河太郎の叱責にも澄まし顔で受け流すかまお。
「あたいは行かないよ。もうすぐ来寝様の出番じゃないか」
「お前は何時でも見れるじゃ無いか」
 かまおの頭をドつく河太郎、腰に蹴りを入れる。
 よろけるかまお、恨めしそうに河太郎を睨む。
「お前が主役だ、かまお!」
「わかました・・・ョ!」
 渋面を強ばらせながらもねバイオリンを小脇に抱えるかまお、一同の後に付いていく。

 チンチンドンドコ。ジヤンジャンジャラジャラ、ピーピーピーひゃら。
 チンドン太鼓を先頭に小屋から出て来るチンドン楽隊。バイオリンのかまおが座長と小雪の間に割り込んで楽隊が完成した。バイオリンを弾きながら、かまおが見事なカストラートで歌い出した。


♪ 空にさえずる 鳥の声 峰より落つる 滝の音 大波小波 とうとうと
響き絶やせぬ 海の音 聞けや人々 面白き この一座の 出し物を
調べ自在に 弾きたもう 語るも自在に 演じたもう 我らが御手の尊しや
2016年12月7日   Gorou
ジャンル:
小説
コメント   この記事についてブログを書く
この記事をはてなブックマークに追加
« 三つのライブ、トスカ、椿姫... | トップ | あいものがたり Ⅲ »

コメントを投稿

物語」カテゴリの最新記事