アメージング アマデウス

天才少年ウルフィは成長するにつれ、加速度的に能力を開発させて行きました。死後もなお驚異の進化は続いています。

三界の夢 そのⅠ 兄弟の願い

2017-01-30 21:24:47 | 物語
「兄さん、寒かろう」
「お前も、寒かろう」
 真冬の観音堂で、いたいけな兄弟は、単衣一枚でお互いを励まし、温め合っ
ていました。
「兄さん、寒かろう」
「お前も、寒かろう」
 町外れの観音堂の外は一面の銀世界でした。

 ほんの数ヶ月前までは、この兄弟は父母と幼い妹と、五人で仲睦まじく暮ら
していました。家族の悩みは幼い娘が生まれつき眼が見えなかった事だけでし
た。
 それでも、この家族には何時も笑顔が絶えません。貧しいながら本当に倖せ
でした。

 不幸は突然襲ってきました。
 父親が急病で亡くなったのです。残された四人は生計をたてようも無く。家
財道具や衣装などを売りさばいて凌いでおりました。
 秋が過ぎ冬が訪れた頃には、たった一枚の布団しか残って居ません。
 家賃も滞っています。

 ある夜、鬼のような大家が女衒を連れて長屋にやってきて、美しい母親と幼い
娘を滞っている家賃の代わりに売り払ってしまいました。

 次の夜、大家はまたやってきて、たった一つの布団も取り上げ、兄弟を表に
放り出しました。鬼畜にも劣る所行です。

 単衣だけで大雪の中に放りだされた兄弟は、やっとのことで町外れの観音堂
に辿り着きました。
「兄さん、寒かろう」
「お前も、寒かろう」
 二人は抱き合って、互いを温め合いました。
「兄さん、寒かろう」
「お前も、寒かろう」
 二人の健気な言葉に、観音菩薩が眼を見開いて大きく溜息を付きました。
 その溜息は東風となり、忽ち春を呼んできました。
 そして、観音菩薩はその大きな眼からポロポロと涙を零しました。
 菩薩の涙で、野山の動物たちが冬眠から目覚め、薪を観音堂の中に持ち込み
ました。
 二匹の大蛇がとぐろをを巻いて囲炉裏を造り、二匹の熊は互いの額をぶつけ
合って火花をおこし、蛙たちが囲炉裏の中に持ち込んだ薪に火がつきました。

 忽ち炎の布団にくるまれる兄弟ですが、気を失ったままでした。

 兄弟が気が付いた時にはもう動物たちの姿は無く、囲炉裏の薪が炎を上げて
いるだけでした。
「兄さん、なんだか熱いね」
「ああ、外は随分明るいようだ」
 兄弟は立ち上がって観音堂を出ると、・・・春爛漫の野山が拡がっているでは
ありませんか。
「兄さん、もう春になっている」
 満開の桜並木が吹雪のような桜花を兄弟の上に降り注ぎました。
「綺麗だね、又桜の花を見られるとは想いもしなかった」
 兄弟は真っ白な桜吹雪の中を歩き、池の畔にやってきて、その水をたっぷり
と飲みました。
 そこに沢山のリスが現れ、兄弟の前に木の実をを山のように積み上げまし
た。
 兄弟は貪るように木の実を食べました。
 観音堂の扉が開いて菩薩が現れました。
 眼を細めて、悲しそうな様子で兄弟を見やりました。が、菩薩の眼には桜で
は無く、吹雪が二人の上に降り注ぎ、今にも覆い尽くさんとしています。
 兄弟の前に佇む菩薩。
 菩薩を不思議そうに仰ぐ兄弟。
「なんといたいけな! お前達に一つずつ願いを叶えて上げましょう。さあ言
ってご覧」
「僕の眼を可愛そうな妹に上げて下さい」と、兄が言いました。
 眼を細め、満面に微笑みを浮かべた菩薩は、こう言いました。
「なんと細やかな願いじゃな。決意は固いのか?」
「はい」と、兄は確りとした眼で菩薩を仰ぎました。
「その願い叶えて上げましょう」
 菩薩の言葉が終わらぬ内に兄の姿は、その場から掻き消えてしまいました。
「弟よ、お前の願いは?」
「僕たちをこんな目にあわせた世の中に復讐がしたいです」
「世の中? 鬼のような大家と卑しい女衒達にでは無いのか?」
「いいえ、世の中が悪いから僕たちがこんな酷い目にあったのです。だから、
・・・世の中の全ての人間に復讐がしたい。お願いです」
「復讐とな?」
 菩薩の顔が憤怒で真っ赤に燃え上がり、その姿が阿修羅へと変わって行
き、千もの手が様々な武器を持って弟に迫って行きます。
 それでも弟は少しも怯みません。
 阿修羅の千手観音は弟の顔に息が噴きかかるほど近づいて、今度はこう言い
ました。
「その願い叶えてつかわす! 覚悟は良いか?!」
「はい」、瞬きもせずに弟は言い放ちました。
 大きな翼を持った悪魔が空から舞い降り、弟を背中に乗せて飛び立ちまし
た。
 弟は悪魔の背中にしがみつきながらも、家のあった町を振り返ってみると、
大家の家が炎上していました。
 眼下を流れる河で小舟が風と波に弄ばれています。
 あっという間に小舟に近づく悪魔と弟。
 小舟では母が妹を抱きしめて泣きわめいています。
 二人を取り巻いて卑猥な嘲笑を浮かべている四人の女衒。
 弟は確かに見ました。妹の眼が開いているのを。
 悪魔が四本の長槍を女衒たちに投げ放つと、忽ちの内に女衒達の身体を貫
き、皆河の中に姿を消しました。
 風と波に弄ばれながら、小舟と母と娘は日本海へと誘われて行きました。
  2017年1月30日   Goeo



ジャンル:
小説
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