ピピのシネマな日々:吟遊旅人のつれづれ

歌って踊れる図書館司書の映画三昧の日々を綴ります。たまに読書日記も。2007年3月以前の映画日記はHPに掲載。

しゃべれども しゃべれども

2007年12月22日 | 映画レビュー
 話下手で他人とのコミュニケーションをうまく築けないことに悩んだ不器用な人々が織り成す、落語をネタにしたちょっといい話。

 いつまでも二つ目どまりの若手落語家今昔亭三つ葉が主人公。わたしは落語に明るくないので、彼の落語のどこが悪いのかよくわからない。まあ、聞いていて面白いとは思えないからやっぱり下手なんだろう。この三つ葉の師匠が今昔亭小三文。伊東四朗が飄々と演じていてとてもいい感じ。それにこの人の落語は面白いよ、やっぱりうまいもんです。

 三つ葉というのは幼い頃に両親と死に別れて、茶道教室を開いているおばあちゃんに育てられている。このおばあちゃん、下町の人なんだけど、八千草薫が演じるととても上品でよい。で、ひょんなことから「話し方教室」を始めることになった(といってもどうやらボランティアっぽいから授業料はとってないんだろうなと思わせる)三つ葉は、話し方なんて教えられないから生徒たちには落語を教えるという。この生徒がまた風変わりで、やたら口の聞き方が悪い若い女と、大阪から転校してきて大阪弁を級友にからかわれている男子小学生と、口下手な野球解説者という3人。この3人が話し方教室で落語を習うなんていうおよそ不自然な設定にリアリティを感じられるかどうかで映画の評価に影響しそう。わたしはギリギリなんとか納得できたっていう程度。まあ映画なんだからそんなことアリでもいいか。

 この生徒3人の個性が強烈だから完全に主役が食われている。特に子役の森永悠希くん、ものすごくよく舌が回る。よくぞ長い台詞(落語)を覚えたもんだよ、上手い! で、口悪い態度悪い女は見た目だけは美しいけど、すっごく陰険だから、いくらモデルの香里奈が演じていても印象がすこぶる悪い。ほんと、こういうの見ていると人は外見じゃなくて中身だと思うわ。というか、表情とかコミュニケーションの上手さがものを言うんだろう。この彼女だってほんとは悪い子じゃないんだろうけど、どういうわけか人とうまくコミュニケーションがとれなくてつっけんどんな態度をとり、しかも人の嫌がることばかりを言う。

 三つ葉が陰険女に「どうでもいいと思っていたらこんなに腹は立たない」と言った台詞は鋭い。相手のことを思ってとった行動をわかってもらえない、受けとめてもらえないと思ったときに本当に腹が立つものだ。相手に対する細やかな思いが強ければ強いほど苛立ちもつのる。

 本作はものすごくかっちりきっちり作られているところがいい点でもあり物足りない点でもある。予定調和をくずす面白さに欠けるのだ。何かが決定的に足りない、という居心地の悪さがある。それが何か、ちょっと今は表現できなくてもやもやしている。テンポか? 落語を通して口下手三人(小学生は口下手じゃないけど)が少しずつ変わっていく、そのオチの付け方にどこか間合いの悪さを感じるからか。不自然な人物設定が最後まで不自然だったかも。でも、悪くないです、下町の風景がよかったしね。古い路地やクーラーもない家というのは人の<手>の温もりを感じます。


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日本、2007年、上映時間 109分
監督: 平山秀幸、プロデューサー: 渡辺敦、原作: 佐藤多佳子 『しゃべれども しゃべれども』、脚本: 奥寺佐渡子、音楽: 安川午朗
出演: 国分太一、香里奈、森永悠希、松重豊、八千草薫、伊東四朗

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