小説『雪花』全章

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小説『雪花』第三章-10節

2017-06-18 06:17:25 | Weblog
      
      十

 凡雪と父が病院から出た時には、街は、天空の緋色に染まっていた。
 時折ひゅうと吹く風が細かな砂を連れて、凡雪の頬を擽った。すると、ずっと緊張していた顔がふわっと、緩まるような感じを覚えた。
 凡雪が顔を空に向けると、遠くから放鞭(ベン)炮(パオ)(縄状の連発式の爆竹)の声が聴こえてきた。
「もう、すぐ春節だね」と凡雪は呟き、ゆっくりと息を漏らした。
 その時、傍の父が、凡雪をちらっと見て「雪、二人で、美味しい物でも食べようか」と話し掛けてきたので「そうね」と返事して、足を少し早めた。
 足元でさらさら波打つ木漏れ陽が、街にずっと消えずに流れていた。 
 五分ほど歩いて、右の小橋を渡ると、河を挟んで両側に飲食店が見えた。
 凡雪と父は、反対側の河沿いを、また歩いた。
 流れる流水の波紋は、小さく肯っているように見えた。
『朱(ツウオ)鸿(ホン)興(シン)羊肉店』の店に着くと、すぐに香ばしい匂いが漂ってきた。凡雪の鼻孔にすーと入ると、腹(おなか)が、またぐーと鳴った。
 店は広くて、開放的な雰囲気があった。窓の上では、目が眩みそうな陽ざしがあったが、窓際の席では、日が当たらない工夫が凝らされていた。
 客たちは賑々しく食べていた。凡雪は窓際の席を選んだ。
 父は椅子に腰掛けてから、店員を呼び、まず羊(ヤン)湯(タン)(羊肉のスープ)を注文した。
「朱鸿興の羊肉は旨いからな。雪、大好物だろう。たくさん食べよう。羊肉は体を温める」
 父は、凡雪に向かって喋り出した。父の目には、凜とした輝きがあった。顔はかつての優しい表情だった。
 微かな緊張感と、心地よさが、凡雪の胸の奥底から醸し出てきた。凡雪は大きく頷いた。
 つづく
 
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