小説『雪花』全章

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小説『雪花』第三章-9節

2017-06-16 06:08:44 | Weblog
        九
  病室は、とても清潔だった。南側は大きなガラス窓で、太陽が満遍なく射し込んでいた
『人民医院』の緊急室で採血検査を受けた凡花は、話す余裕もなく、ベッドに横たわった。
 父は黙って凡花の傍に居続けた。父の背中には、かつて感じた温もりが再び宿っているように見えた。
 凡雪の眼前に冬の楊(ヤン)柳樹(リュウスオ)の糸が風に靡いていた。凡雪はそっと、吐き出した息でガラスの表面を曇らせた。息が太陽にぶつかったように、すぐに消えた。
 真冬でも、鳥たちが地面擦れ擦れを掠めて、自由に飛び回っていた。光りの袂(たもと)に、春の兆しを、すでに感じたようだ。
 突然、中年の女医師が室に入ってきた。結果が出たようだ。
 医師は自然な表情で「凡花さんは、A型急性肝炎ですね」と父に診断を伝えた。
 父は深々と息を吐いて「そうなんですか」と小さな声を上げた。
 次に医師は、凡花の様子を見ながら、はっきりと伝えた。
「飲料水や食を介した、経口感染のようです」 
 途端に凡雪は、憑かれたように、はっと、溧阳病院の不衛生の食堂の光景を思い出した。
 ――ぽさぽさした、錆びっぽい飯だった。
 一瞬にして、複雑な感情が空腹の胃液に絡みながら、流し込まれた気がした。
 凡雪は医師を見つめ「私たち家族、毎日、同じ食事を摂っていますけど」と伝えた。
 すると医師は、理知的な目をきらりと光らせて、淡々と説明した。
「そうですね。感染しない場合もありますから。しかし、体が弱っている場合は、つまり、免疫力が低下した方は、感染する可能性が高いんです」
 その後、凡花は、すぐに『専区感染病院』に移された。改めて血液の検査をして、同じ病名と診断された。同時に、一ヶ月の入院加療が必要と宣告された。
 凡花は、すぐに個室に移されて、ベッドで点滴を施された。父と凡雪は診療室で、医師の今後の話を待っていた。やがて、白衣姿の男性医師がやって来た。
 医師は眼鏡の奥で安らぎを誘うように微笑み掛けて、「担当医の崔(ツウイ)です」と自己紹介をし、次に、カルテを見ながら父に告げた。
「娘さんは、一ヶ月程度で完治するでしょう。安心してください」
 父は「そうですか」と安堵の色を見せて頷いた。
 最後に、凡雪は医師の配慮で、五分だけの許可を貰った。専用の感染予防着に着替えて凡花の室に入った。凡花は頭を少し上げて、にこりと笑って「姉(ジエ)、あまり、近づかないほうがいいよ」と声を上げた。
 凡花の靄(もや)の視界は、まだ黄色に濁っていた。それでも、頬は先と違っており、少し赤みが見えてきた。凡雪は口許を緩めて「分かったわ」と短く返事した。
 その時、父も傍に立っていた。凡花は「私は、いっぱい寝たいから、二人とも、帰っていいわよ」と静かに笑って、白い布団を顔に被せた。
 病室は、白くて静かで、ほんの少し消毒の匂いがあった。
 窓からすぐ間近に見える柳は、細長く枝垂れていた。細く小さく反った葉が、風で擦れ合いながら、微かに揺れていた。調和の取れた風景に見えた。
 凡雪は「じゃあ、沢山寝てね」と言葉を返して、病室から出た。

 つづく
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