小説『雪花』全章

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小説『雪花』第五章-6節

2017-07-12 14:31:56 | Weblog
   六

  中は一目瞭然の純和風で、シックな内装が高級感を醸(かも)し出している。外資関係の人たちや官僚などが利用する、日本の料理店のようだ。
 すぐに一人のぽっちゃりとした、店の男の人が寄って来て、日本語で挨拶をした。
 仁は歩み寄って、日本語で店の人に話し掛けた。
 店には、微かに漂う風の中で、潮の匂いがした。遠い彼方から吹いてくる海と塩の匂いだった。凡雪は眉を上げ、店内を見回した。テーブルは長形で、側に提灯が飾ってあった。外資関係の日本人や、外国人の家族たちが見えた。
 程なく凡雪と仁は、店の人から案内され、店の窓際にある二人掛けの席に座った。
 ぼんやりと淡い光の中で、正面に座った仁は、静かに凡雪を眺めた。
 ゆっくりと視線を逸らした凡雪は、話を探した。
「ね、中国語は、何処(どこ)で習ったんですか?」
 即座に仁は真剣な表情になり、不満げに答えた。
「名前は、〝ね〟ではないよ。仁です」
 一瞬、和(なご)むような空気になり、凡雪はふふっと、笑い声が零れた。
 その時、店の人がお茶を持ってきた。
 仁はお茶を一口啜って、「雪さんは、日本の緑茶、飲まれますか?」と訊いた。
 凡雪もお茶を一口含んだ。喉元に流していくと、何故か、口に微精(あじの)味(もと)の味を感じて、
「不思議な味ですね」と仁に感想を伝えた。
 眉根を開いた仁は、お茶を一口啜って、「なるほど」と首肯(しゅこう)して、視線を凡雪に向けた。
「日本の緑茶は、発酵してないから、生(なま)の味が、微精(あじの)味(もと)の様に感じられたかもしれないね」
 その時、僅かの風でお茶の香が漂ってきて、凡雪の鼻を擽(くすぐ)った。
 もう一度お茶を含んで試してみた凡雪は、今度は、お茶に溜まった朝露でも啜ったような甘味を感じて、「何のお茶ですか?」と仁に訊ねた。
「玉露です。直射に日光を当てないから、甘味が強く感じられるんですね」と仁は爽やかな笑顔で答えた。
 剥ぎ出して笑う歯の白さばかりが目に留まった凡雪は、仁を眺めた。
 目つきは堅実そうで、大人びた雰囲気に溢れていた。それとは対照的に、子供のような無邪気な笑みも見えた。
 突然、仁は「雪さん、何を考えているんですか?」と、困ったような表情に変わった。
 まるで異国に唐突に放り出された子供のような可愛らしさを見せた。
 凡雪は微笑み交じりの声で「当ててみて」と話し掛けた。
 すると、仁は思い出し笑いのような表情で「さっきの、質問だな。僕は、《北京外国学院》に留学したんだ。でも、中国語を最初に習ったのは祖父から」と楽しそうに答えた。
 仁の瞳には柔らかい光が見えた。瞳の奥に希望という文字が隠れているように感じた。
 その時、店の人が料理を運んできた。小さな器に空豆と海老が盛り付けてあった。前菜(さきずけ)のようだ。
 箸を持ち上げた凡雪は、突然、仁の祖父の事情が気になり、「もしかして、お祖父(じい)様は、中国の方?」と呟いた。すると、仁はぷっと笑い、俯き加減に一口食べながら「違うよ、日本人です」と小声で返事した。
「それは、そうよね。だけど」
 再び呟いた凡雪は、仁を見詰めた。仁は笑って凡雪を覗き込むように見ていた。
 

つづく
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