「それはできない相談だ」
「!?」
突然届いた声に、私は弾かれたように視線を向けた。
魔法使いもどきの向こう側から、まるでカーテンが引かれたかのように一人の青年が現れた。
げ。
たぶん、結界か何かに隠れて見ていたんだろう。
違ったとしても今は問題じゃない。
問題なのは、出てきた人物だ。
う、わー、偉そう。
挙げるべき特徴はたくさんある。
さらさらと指通りが良さそうな長くて綺麗な金髪とか、宝石のような碧の瞳とか、やたら整った容貌とか――一言で説明すれば、『王子様』だ。
だが、そんな外見より放つ気迫というか雰囲気が、完全に上回っている。
……ヤダな、何だか嫌な予感する。
私は引きつりそうになる顔を必死に堪えた。
こういう時は視線を逸らしちゃダメなんだって、何か本で読んだ。
「どういう意味かな、それ」
ちょっと声が硬かったのは仕方ない。
だって、突き刺さるような視線――しかも、超がつきそうな美青年からの冷酷なヤツだよ!?――に、平常心でいられるほど無神経じゃないもの、私は。
「へ、陛下になんて口の聞き方を……!」
へーか。
陛下ね、陛下。
王子様じゃなくて、王様でしたか。
道理で偉そうだ。
いや、全くもって、納得だ。
「お前は帰る事はできない」
「誘拐? 拉致? 犯罪者ですか、王サマのくせに」
「言葉を慎め、小娘」
「あいにく、名乗りもしない相手に払う礼儀なんて持っていないので」
ニッコリと精一杯笑顔で言ってやった。
王サマの双眸が剣呑に細められたが、怯んでやるものか。
私は売られた喧嘩は買う主義だ、これでも。
…………いえ、すみません、ごめんなさい。
嘘です、嘘吐きました。いや、ちょっとだけ嘘じゃないけれど、それでも初対面の人間と喧嘩するほど好戦的じゃない。
ええ、さっきから色々と突っ込んでいるけど、私、充分混乱しているんだって!
だから、他の事で気を紛らわそうとしているというか、うん、たぶん。
「へ、陛下! 落ち着いて下さい~」
「私は冷静だ。それよりも、アディファ、コレが本当に『鍵』なのか。界渡りの扉の構築に誤りがあったのではないだろうな」
界渡り? ……ん?
王サマが言っている言葉がすぐに私の脳裏で漢字変換されていた。
勝手に翻訳でもされているんだろうか。
「いいえ、完璧です!」
それまでオドオドしていた魔法使いもどきが、この時だけ、はっきり断言した。
「確かに古代秘術ですが、現存する魔儀の中では、これが最も確実な手法です。現に、ほら! 彼女、五体満足傷一つないですよ!」
ちょっと待て。
誇らしげに言っていますがね、お兄サン?
それは何か、逆に言えば、何らかの危険性があったということではないのでしょーか。
「『鍵』としての役目を果たすならば良い」
そして、王サマは私を見た。
「娘」
「一応、私には上月 沙里という親からもらった名前があるんですけどね、王サマ?」
とたんに、魔法使いもどきが青褪める。
「ああ、またっ」
「……」
しばし、睨み合う私と王サマ。
さあ、次はどう来るかと思っていると、王サマは私の前まで歩いてくると、おもむろにコート――しかも肩から留め金で掛けるファンタジーにありがちなデザインだ――の裾を払って跪いた。
「!?」
正直に言って、この偉そうな王サマが素直に名乗るとは思っていなかったし、何を言われても怯まないように心の準備はしていた。
少なくとも、表情には出すものかって。
でも、まさか、あんな変化球で来るとは……!
「名乗りもしないで失礼致しました。異世界より招きし『鍵』の姫よ。わたくしは、この根源世界『ヴェスタル』の王、ライオディルと申します。どうぞ、お見知り置きを」
王サマは、それはもう、文句の付けようのない華やかで気品に満ちた、非常に神々しい微笑みで、優雅に名乗ってくれたのだ。
これが初対面であったなら、好感度抜群だ。
多少、好みで分かれるとしても、大多数の世間のお嬢様の心を射止めるんじゃないかと思う。
……この人、絶対、自分の顔分かっててやってる。嫌なヤツだ。
かく言う私も、別に、曲がった美意識を持っている訳でもないので、一瞬くらりと来た。
すぐに、その意図を理解したけれど。
私の反応は王サマ――名乗られたけれど、癪なのでしばらく名前を呼ぶつもりはない。っていうか、あっちもないと見える。だって、私、先に名乗ったし!――に気付かれた。
碧の瞳が意味ありげに細められたのを私は見た。
ああ、悔しい。
せめて一矢報いたい。
何か、何か。
そして。
「心が籠もっていないので、却下。やり直し」
王サマの微笑みが見事が凍りついた。
「!?」
突然届いた声に、私は弾かれたように視線を向けた。
魔法使いもどきの向こう側から、まるでカーテンが引かれたかのように一人の青年が現れた。
げ。
たぶん、結界か何かに隠れて見ていたんだろう。
違ったとしても今は問題じゃない。
問題なのは、出てきた人物だ。
う、わー、偉そう。
挙げるべき特徴はたくさんある。
さらさらと指通りが良さそうな長くて綺麗な金髪とか、宝石のような碧の瞳とか、やたら整った容貌とか――一言で説明すれば、『王子様』だ。
だが、そんな外見より放つ気迫というか雰囲気が、完全に上回っている。
……ヤダな、何だか嫌な予感する。
私は引きつりそうになる顔を必死に堪えた。
こういう時は視線を逸らしちゃダメなんだって、何か本で読んだ。
「どういう意味かな、それ」
ちょっと声が硬かったのは仕方ない。
だって、突き刺さるような視線――しかも、超がつきそうな美青年からの冷酷なヤツだよ!?――に、平常心でいられるほど無神経じゃないもの、私は。
「へ、陛下になんて口の聞き方を……!」
へーか。
陛下ね、陛下。
王子様じゃなくて、王様でしたか。
道理で偉そうだ。
いや、全くもって、納得だ。
「お前は帰る事はできない」
「誘拐? 拉致? 犯罪者ですか、王サマのくせに」
「言葉を慎め、小娘」
「あいにく、名乗りもしない相手に払う礼儀なんて持っていないので」
ニッコリと精一杯笑顔で言ってやった。
王サマの双眸が剣呑に細められたが、怯んでやるものか。
私は売られた喧嘩は買う主義だ、これでも。
…………いえ、すみません、ごめんなさい。
嘘です、嘘吐きました。いや、ちょっとだけ嘘じゃないけれど、それでも初対面の人間と喧嘩するほど好戦的じゃない。
ええ、さっきから色々と突っ込んでいるけど、私、充分混乱しているんだって!
だから、他の事で気を紛らわそうとしているというか、うん、たぶん。
「へ、陛下! 落ち着いて下さい~」
「私は冷静だ。それよりも、アディファ、コレが本当に『鍵』なのか。界渡りの扉の構築に誤りがあったのではないだろうな」
界渡り? ……ん?
王サマが言っている言葉がすぐに私の脳裏で漢字変換されていた。
勝手に翻訳でもされているんだろうか。
「いいえ、完璧です!」
それまでオドオドしていた魔法使いもどきが、この時だけ、はっきり断言した。
「確かに古代秘術ですが、現存する魔儀の中では、これが最も確実な手法です。現に、ほら! 彼女、五体満足傷一つないですよ!」
ちょっと待て。
誇らしげに言っていますがね、お兄サン?
それは何か、逆に言えば、何らかの危険性があったということではないのでしょーか。
「『鍵』としての役目を果たすならば良い」
そして、王サマは私を見た。
「娘」
「一応、私には上月 沙里という親からもらった名前があるんですけどね、王サマ?」
とたんに、魔法使いもどきが青褪める。
「ああ、またっ」
「……」
しばし、睨み合う私と王サマ。
さあ、次はどう来るかと思っていると、王サマは私の前まで歩いてくると、おもむろにコート――しかも肩から留め金で掛けるファンタジーにありがちなデザインだ――の裾を払って跪いた。
「!?」
正直に言って、この偉そうな王サマが素直に名乗るとは思っていなかったし、何を言われても怯まないように心の準備はしていた。
少なくとも、表情には出すものかって。
でも、まさか、あんな変化球で来るとは……!
「名乗りもしないで失礼致しました。異世界より招きし『鍵』の姫よ。わたくしは、この根源世界『ヴェスタル』の王、ライオディルと申します。どうぞ、お見知り置きを」
王サマは、それはもう、文句の付けようのない華やかで気品に満ちた、非常に神々しい微笑みで、優雅に名乗ってくれたのだ。
これが初対面であったなら、好感度抜群だ。
多少、好みで分かれるとしても、大多数の世間のお嬢様の心を射止めるんじゃないかと思う。
……この人、絶対、自分の顔分かっててやってる。嫌なヤツだ。
かく言う私も、別に、曲がった美意識を持っている訳でもないので、一瞬くらりと来た。
すぐに、その意図を理解したけれど。
私の反応は王サマ――名乗られたけれど、癪なのでしばらく名前を呼ぶつもりはない。っていうか、あっちもないと見える。だって、私、先に名乗ったし!――に気付かれた。
碧の瞳が意味ありげに細められたのを私は見た。
ああ、悔しい。
せめて一矢報いたい。
何か、何か。
そして。
「心が籠もっていないので、却下。やり直し」
王サマの微笑みが見事が凍りついた。
ちなみに、タイトルは未定です。
先行き、決まっていないので、しばらく未定のままで。
しかし、何故に主人公と王様はここまで喧嘩腰なのか。
答え:主人公が混乱中だからです
……ホントに?汗