ケルト音楽に興味を持たれた方に是非読んでいただきたいお薦めの一冊。総数400枚に及ぶディスク・レビューを始め、アーティストのバイオグラフィーやインタビュー、コラムなど非常にわかりやすく丁寧に書かれており、ケルト・ミュージックの入門書・手引書として入門者からコアなファンまで十分に楽しめる内容です。発刊が1997年なのでディスコグラフィーとしては若干古い部分もありますが、実用においてほとんど問題はないでしょう。正直これ一冊あれば僕がブログでケルト音楽を取り上げる必要はないですね(笑)。値段も2000円と手ごろです。
「アイルランド編」を中心にスコットランドやフランスのブルターニュからアメリカやカナダのような離散先のケルト圏のアーティストまで幅広く取り上げています。アーティスト単位での紹介としては、
Altan, The Chieftains, Clannad, Davy Spillane, De Dannan, Donal Lunny, Dolores Keane, Mary Black, Patrick Street, Paul Brady, Sharon Shannon, Arcady, Christy Moore, Deanta, Dervish, Frances Black, Maura O'Connell, Nightnoise, Capercaillie, Dick Gaughan, Alan Stivell, Dan Ar Braz, Milladoiro, Loreena McKennitt, Runrig, Sileas, Tannahill Weavers, Seamus Egan / Solas, etc...
といった面々! 大御所 CHIEFTAINS を押さえてのトップ紹介が Altan というあたり、彼らが名実ともにケルト・ミュージック界最高峰のバンドであることを伺わせますね。それぞれにミニ・バイオとお薦めアルバムのレビューが掲載されていてアーティスト・ガイドとしては最適です。ピックアップ・アーティスト以外は 300字ほどにまとめられたアルバム単位のレビューとなります。当時までの重要アルバムはほぼ網羅された充実度であり、発刊後ちょうど十年となる来年あたり、新たな十年分のアルバムを追加した補訂版が出ると嬉しいんだけどなぁ(笑)。
本書は複数名の執筆者による共同著書になっており、編者として山尾敦史氏がクレジットされています。あとがきで山尾氏は「本書の中で自分が聴いたことのあるアルバムは87枚だった」と明かしており、自分のことを「門前の小僧状態」と表現されています。僕もざっと数えたところ持っているのは三分の一くらいでしたから、そういう意味ではまだまだビギナーですね(笑)。まあディスコグラフィーの完全制覇が目的ではないですし、何でもかんでも聴けばいいというものではないですが、400枚というアルバムのレビューは聴きたいと思わせるアルバムの発見に事欠かないでしょう。今回、久しぶりに読み直してみて、また何十枚も聴きたいアルバムが出てきてしまいました(笑)。
わたくしごとになりますが、実はこの本に執筆者として参加されている茂木健氏、大島豊氏、白石和良氏のお三方には学生時代にお会いしたことがあるんです(人柄は異なると思いますがシーンへの貢献度を考えると HR/HM 界での伊藤正則氏や和田誠氏のような位置付けをされる方々だと思います)。またしても昔話になりますが、当時はまだインターネットなどは普及しておらず、ケルト・ミュージック関連のアルバムは主に「タムボリン」という通販ショップを利用していました。とある号のカタログに「トラッド新譜試聴会」なるものの開催が告知されていまして、これが僕の気を惹いたんですよね。当時住んでいた家から一時間半くらいで行ける距離だったこともあり、単身参加することを決意しました。どこか広い部屋でオーディオ・システムに囲まれ音楽を聴くようなスタイルを想像していた僕は八畳くらいの部屋にミニコンポ、エアコン無しのマイ団扇持参といったまるで友達の家に集まっているかのような光景にちょっぴり戸惑ってしまいました。しかも参加されている方は互いにお知り合いのようで、集まった十人くらいのうち、単独参戦していたのは僕を含めて二人だけでした。最初は慣れない環境の中「自分は場違いだったのか?」と不安にもなりましたが、会が進むに連れ、徐々にリラックスできるようになり、僕は流れる音楽とそれについて語られる会話に耳を傾けるようになりました。とにかく集まった方の知識の豊富さに感心しきりだったのですが、後から思えば参加者の顔触れが顔触れだけに当然ですよね(笑)。試聴会終了後は近くのファミレスで軽食を取って解散となり、実はそのときにお三方の素性も明らかになったというわけです。十年以上昔のことですし、三氏はもうこのことを覚えてらっしゃらないと思いますが、僕にとっては学生時代の忘れられない思い出の一つです(笑)。