大峰正楓の小説・日々の出来事・日々の恐怖

☆奇妙な恐怖小説群
☆ghanayama童話
☆写真絵画鑑賞
☆日々の出来事
☆不条理日記

日々の恐怖 6月18日 狐憑き

2016-06-18 20:17:46 | B,日々の恐怖



   日々の恐怖 6月18日 狐憑き



 昔働いていた病院での話です。
神経内科もある内科病棟だったんだけど、髄膜炎という名目で一人の女性が入った。
でも、検査では病気を示す値はほとんどでなかった。
 目は完全にいっちゃってて、ずっとうなり続けていて言葉が通じない、たまにしゃべると意味不明、点滴を引きちぎる、拘束の紐も引きちぎる、医者にも看護婦にも家族にも噛みつく、夜中に遠吠えする、いきなり誰も追いつけないようなスピードで廊下を走り出すと、もうむちゃくちゃ。
 スタッフ全員、はっきりと口には出さないけれど、

“ これはもう医者の領分ではないんじゃあ・・・。”

と感じていたそうだが、医局長だけが、

「 あれは髄膜炎だよ。」

と言い張り、坊さんも祈祷師も呼ばれることなく治療を続けた。
 それで、ある日突然、文字通り憑き物が落ちたように正気に戻り、あっという間に退院していった。
 後日、病院に挨拶に来たところを、ちょうど私も見かけたんだけど、着物着た上品そうな奥様で、かつてあったような気配は微塵もなかった。
もしかしたら本当に髄膜炎で、治療が功を奏してよくなったのかもしれない。
 でも、夜中にらんらんと光る目で、

「 お前の背後に狐がおるぞ!」

と言われてしまった先輩は、 挨拶されても、引きつった笑いしか返せなかった。











童話・恐怖小説・写真絵画MAINページに戻る。
 大峰正楓の童話・恐怖小説・写真絵画MAINページ



コメント    この記事についてブログを書く
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« しづめばこ 6月17日 P... | トップ | 日々の恐怖 6月19日 固... »
最新の画像もっと見る

B,日々の恐怖」カテゴリの最新記事