シャボン玉の詩

残り少ない道のりになりましたが、
気持ちをこめて!
ありのままを!

老人と犬(12)(彰ノ介日記)

2016-11-19 09:21:18 | Weblog

十数年ぶりの贅沢な夕食である。
爺さんはマグロの刺身と豚のロース肉、それからお酒をコップ二杯である。
モーモはたっぷりのロース肉と御飯を混ぜ合わしたもの、それと牛乳である。
肉を焼くだけの台所仕事であるから準備は簡単、早速二人だけのお祝い会が始まる。

――人生、何が起こるか知れたものではない。細々と一人寂しくここでお陀仏、と決め込んでいたのに、こんなことになろうとはね。呆れたね。生きていてよかったよ、本当に。神は我を見捨てず……か。「モーモ」有難うさんよ。

爺さんは、ほろほろと酔ってくる自分にすっかりご満悦で、モーモに話しかけ、ちびりちびりと杯を傾けている。モーモは知ってか知らずか最早食べ終わり、「伏せ」の格好をしてちらちらとじいさんの動きを観察している。
そのうちに何を思ったのかさっと立ちあがり、部屋の敷居の処へ来て両手を掛けた。
そして、今にも泣き出しそうな声で「クン、クン」となきはじめる。
明らかにこの部屋に上がりたいという合図である。
両手をいっぱいに伸ばして、畳を引っ掻き、それは延々と続く。
いくら「ダメだ」と言い聞かせてもそれは全く通じない。

爺さんはとうとう根負けしてモーモを抱き上げた。
「困った奴だな」と言いながら、ふろ場へ向かう。足と体を洗うためである。
首輪を押さえ、そろそろとシャワーをかけ始めたのであるが、いやがったモーモは逃げ惑う。
初めてのことで爺さんは仰天した。まさか、である。
余程足の裏が苦手なのであろう。それから爺さんとモーモの鬼ごっこが始まる。
立ち止まってはぶるっと体を震わせるものだから、そこらじゅうに水滴が飛び散る。
ようやく捕まえて「あのな、ここへ上がる時はこうして体を洗うんだよ。よく覚えておくんだぞ」と何度も諭して体を拭く。
モーモは素知らぬ顔して、ただひたすらに嬉しく、爺さんの周りを走り回る。

やがてモーモは爺さんの傍で丸くなって眠りに就く。

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