シャボン玉の詩

前へ前へと進んできたつもりでしたが、
今では過去の思い出に浸る時間も大切にしなければ、
と思っています。

老人と犬(16)(彰ノ介日記)

2016-12-03 08:49:59 | Weblog

お昼近くになって、帰途に就く。
行き慣れたいつもの道であるのに微妙な違いがある。
道端の草木は刻一刻と変化し、肌で感じる風も、気温も、匂いも少しずつ異なる。
モーモはそれらの微妙な違いを五感全部を使って嗅ぎ分けながら歩いている。
出来るだけ爺さんの歩調に合わせてと思っているが、思わぬ変化に引き込まれたり、
偶には見慣れぬ動物に出会ったりするものだから、
あちこちと動き回り、途中で止まったりして爺さんを困らせる。
それでも何とか爺さんのスピードに合わせ、ちょろちょろと並んで歩く。
モーモはこのような自然の変化を観察する能力に長けている。だから当然屋外は大好きだ。それもそうだが、こうして爺さんと一緒の散歩はそのこと以上に嬉しくてたまらない。

我が家の入り口が見えてきた。
綱を外されたモーモは一目散に走って入口の硝子戸の前にお座りして爺さんを待つ。
土間に入って水を頂き、煎餅がそっと座布団の上の置かれる。いつものおやつである。
爺さんはさっさと部屋に上がり、昼食を食べ終えた後、テレビを見ながらお昼寝が始まる。
モーモはそれに合わせるかのように座布団の上で丸くなって爺さんの方を見ながら眠る。
天気の良い日は殆どこのパターンである。
それにしてもモーモは実に見事に、素直に行動する。
本当は、部屋に上がって爺さんと一緒に居たいのであるが、その欲望はもう消えている。
夕ご飯時にならないと部屋には上がれないことを理解しているのである。
当初はこの事が合点行かず、戸惑った。
昼間部屋に上がろうと敷居に手を掛け、ガリガリとやっていたら、
爺さんが低い声で「ダメだよ、上がるのは夕方だよ」何度も言い、悲しそうな表情を見せる。
ところがあたりが暗くなてき始めたころ、
「さあ、いいいよ」と言って両手で抱き上げてくれる時の爺さんのあの嬉しそうな声、表情がモーモにはやがて漸く分ったのである。


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