地形学とGIS / Geomorphology & GIS

ある研究者の活動と思考の記録

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英語がダメなことによる論文のリジェクト

2014-09-15 | 論文や雑誌

久しぶりに Geomorphlology 誌の編集の話。最近、改稿を経て受理できると思っていた論文を最終的にリジェクトするケースが二つあった。理由は英語をちゃんと直してくれないこと。

投稿論文の最初の査読では、英語のみを理由に論文を落とすことはないと考えて良い。内容が良ければ英語を改善することを条件に改稿の投稿を認めるのが、国際誌のあるべき姿だと思う。そうでないと native などの特定の国民や人種が有利になり、国際誌ではなくなる。

しかし掲載される論文の英語は良質でなければならない。僕はよく著者に、「信頼できる英語圏の研究者か英文校閲の業者に原稿を直してもらってから次は投稿してくれ、これが受理の条件だ」とメッセージを送る。するとほとんどの著者は対応してくれる。しかしときどき、対応してくれないことがある。

このような場合には、「ちゃんとこちらの指示に従ってくれ。次の投稿の際には、誰、もしくはどの業者が英文を直したかを明記してくれ。これらがなされていなければ、この段階であってもリジェクトするだろう」と書き、再投稿を促す。すると大半の著者は慌てて対応してくれる。しかしまれに、著者だけで英語をちょこちょこ直したような原稿を再度送ってくることがある。今回リジェクトした二つの論文は、共にこのケースだった。

著者の中には「日本人のお前が英語の質を評価するな、俺はちゃんと書けている」という思いがあるのかもしれない。一方で僕が「英語が悪い」と書く際には、明らかな文法の誤りのような具体例を記述し、「これは一例にすぎず他にも問題があるから英文の校閲が必須」と書く。感覚ではなくロジカルに判断したことを伝えている。

また、「著者自身で直してもばれないだろう。エディタは日本人だし」という思いもありそうだ。しかし英語力が弱い著者が引き続き原稿を直しても、真に改善されていないことは容易にわかると考えた方が良い。英語の質には執筆者による大きな差がある。

いずれにせよ、このような形で論文がリジェクトになるのは、それまで原稿を良くしようと努力してきた査読者や編集者にとっても非常に残念である。一方、著者がどう感じたのかは不明である。たまに「なぜ俺の論文をリジェクトしたんだ」というような挑発的なメールが僕に来ることがあるが、上記のような形でリジェクトした例で、その後に著者がコンタクトしてきたことはまだない。著者にとっても残念な話かと思うが、一方で「俺の英語を他人に直させるような雑誌には論文が載らなくて結構だ」と思っている可能性もある。

いろいろあるが、また処理すべき原稿がたまってきてしまったので、淡々と編集作業を続けたいと思う。

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ガザのニュース

2014-07-30 | つれづれ

毎日届くガザのニュースが実に重い。特にツイッターで得られる情報。

中東の調査を長年してきたので、シリアの状況が残念でならないのだが、ガザの状況もひどい。

僕の研究室の院生にはムスリムが二人いて、イスラエル人も一人いる。彼ら彼女らが日本で争ったりすることはないと思うが、心の中ではいろいろあるのかもと気になっている。

実は今年度、イラクのクルド人地区を調査する予定がある。少し前ならば、イラクとはいえ平和で訪問に問題がなかった場所。しかし状況が変わってきており、訪問は延期になるかも知れない。

社会情勢は時期により大きく変わるが、長い目で見れば、社会は前近代的な問題の多い状況から、徐々に理性的なものに進歩してきたと信じてきた。そして、その進歩にわずかでも貢献するような人生を送りたいと思ってきた。

しかし長年信じていたことに、疑いを持つようになってしまった。これは心に重い。

ベトナム戦争の最中に、ジョン・レノンとヨーコ・オノが世界の11都市に掲げた WAR IS OVER! のメッセージを思い出している。ベトナムが平和を取り戻したように、中東にもいつかそういう時が来ることを切に願っている。

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Rania Bou Kheir (1974-2014) / さよならラニア

2014-06-03 | できごと

友人のレバノンの女性地形学者 Rania Bou Kheir さんの訃報が届きました。僕より11歳も若い1974年生まれ。ロシアに出張中に心臓発作で倒れたとのこと。残念でたまりません。

ラニアとは彼女が Geomorphology に論文を投稿した際に知り合いました。中東ではイスラエルを除くと、国際的に活躍している地形学者があまりいません。しかしラニアが投稿した原稿の文献リストを見て、彼女はすでに国際誌に複数の論文を発表していることを知りました。僕はラニアの論文を二回ハンドリングし、いずれも出版されました。内容は地理情報システムを用いたレバノンの侵食地形の分析です。

僕はシリアで研究をしてきたので、隣国のレバノンに強い興味がありました。そこで2009年と2010年にベイルートに行き、ラニアを訪問しました。彼女は友人や家族の協力を得て、僕をフィールドに案内してくれました。彼女の家にも何度か招待されました。

そのような過程で、ラニアはフランスで学位をとり、フランス政府が若手の科学者に与える名誉ある賞を得ており、デンマークの大学の客員教授であり、レバノンでは首相官邸に招かれたこともあると知りました。一方で健康にかなりの問題を抱えており、野外調査や長期の旅行は難しく、レバノン国内の定職に就くのも避けているとのことでした。結婚も考えていないようでした。

僕は彼女を日本に招聘したかったのですが、日本までのフライトに体が耐えられそうもなく、断念しました。今回はロシアに頑張って行ったのでしょうが、体に無理がかかったのかもしれません。

彼女には Geomorphology の編集委員もお願いしました。2年間ほど頑張ってやってくれましたが、体力的に仕事を減らす必要があるということで、延長はしませんでした。

中東の実に貴重な研究者に、なぜ神様が普通の体を与えてくれなかったのかと思ってしまいました。優秀な研究者としての誇りや強さと、長年病気と闘ってきた人ならではの優しさの組み合わせが素晴らしい人でした。個人的な思い出になりますが、ラニアを訪問した際に撮影した写真を下に掲載します。

さよなら、ラニア。天国で会う日まで。

 

ラニアとお母さん。レバノンの海岸のレストランにて。美しく優しい親子でした(2010年11月)。

 

 

ラニアの家族。左から弟さん、妹さん、お父さん、お母さん、ラニア。クリスチャンの家族なので、中東料理とともに現地産のワインが出ています(2009年11月)。

 

 

僕も家族の一員として扱ってくれました。僕の背後の壁にかかっている文書は、ラニアがフランスで得た博士の学位の証明書です(2009年11月)。

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契約更新

2014-05-25 | 論文や雑誌

Geomorphology のエディターの契約を更新しました。3年間です。

日本の雑誌の編集委員長は2~4年くらいの任期が一般的です。同じ人は長くやらないのが美徳という感じがあるようです。しかし欧米の雑誌には違うものがあります。僕は2003年から担当してきたので、新契約で計14年間の担当になります。3人いるエディターのうち、米国の Marston 氏は1998年から担当し、英国の Plater 氏は2006年から担当です。いわば安定したチームになっています。

一方、4月から空間情報科学研究センターのセンター長にもなりました。こちらは2年間の任期で、再任があるかもしれません。会議への出席や事務関係のメールが急増しており、かなり混乱しています。具体的には書きませんが、家族の関係も増えています。

50台の前半の過ごし方が問われていますが、とりあえずは与えられた内容の達成を目指すしかありません。同時にやりたくてもできないことが最近増えたと感じています。しかし体は一つしかなく、若い頃のような体力はないので、できない状況になることは恵みだとも考えています。

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Your Paper, Your Way

2014-03-11 | 論文や雑誌

雑誌 Geomorphology の他のエディタおよびエルゼビア社と、Your Paper, Your Way (YPYW) という新システムを導入するかを議論しました。これは、雑誌に投稿する原稿のスタイルを、論文が出版されるときの形式に対応させなくても構わないというものです。たとえば文献リストでの記載は、Geomorphology では

Oguchi, T., 2014, A paper on Japan. Journal of Japan 35, 22-45.

のように書きますが、投稿原稿では

OGUCHI, Takashi (2014): 'A Paper on Japan'. Journal of Japan, Vol. 35, pp. 22-45.

となっていても、内容は同じなので構わないというものです。出版前のスタイルの変更と統一は、エルゼビアが責任を持って行います。

当初は僕を含むエディタは、YPYWの導入に消極的でした。理由は、形式が多様だと内容のチェックも難しくなる、それが査読者やエディタの負担を増やし、最終的な品質も下がるのではというものでした。しかし、すでにYPYWを導入した雑誌の投稿者、査読者、編集者にアンケートを行ったところ、問題点よりも利点の方が多いという結果が示されました。その結果を見たことと、導入しないことが投稿数の減少につながるような懸念もあったので、Geomorphology でも導入を決意しました。

従来は論文を投稿する際に、雑誌の形式に原稿を合わせることが大切な作法と考えられていましたが、もはや常識ではなくなったようです。思い返せば論文がオンラインの pdf で流通するようになったのも、比較的最近のことです。堅い感じがする学術出版においても、いろいろな変化が新たに生じています。

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