活断層の調査では、過去の活動履歴を調べるために、トレンチ調査が行われます。細長い溝をほって、地層の年代を特定できる試料を採取したり、地層のずれ、断層の有無などを確認する調査です。これによって、活断層が過去繰り返し活動してきたことを証明できるわけです。
今回山口県の土石流災害では、過去の土石流堆積物に対する天然のトレンチ調査が行われたようなものでした。過去の土石流の堆砂断面が現われていたのです。年代決定試料は得られていませんが、現在の渓流から10n程度高い平坦面を作っている古い段丘堆積物も同じような土石流堆積物で構成されていることがわかりました。すなわち、最終氷期から同じような土石流が繰り返されて形成されてきた土地であるということができます。このあたりに住む方にとっては、”こんな災害はじめて”だったのかも知れませんが、土石流は繰り返し発生します。
また、今回の災害に関する報道で、老人ホーム、いわゆる災害弱者施設があったのだから、優先的に砂防ダムを整備すべきであったという意見もありました。しかし、それはいたちごっこです。そこに老人ホームを建設するという計画を立てた時点で、周辺の環境を調査して、砂防だけでなく必要な防災対策を老人ホームの建設と同時に行うのが筋だったのではないでしょうか。これも縦割りの弊害のひとつです。
今回の土石流災害では、国が直轄事業として砂防に乗り出すようです。国の直轄砂防事業地域とそうでない地域の砂防ダムには、その高規格さにおいて歴然たる差があります。ところが、土石流が繰り返し発生するといっても数十年に一度のことです。過去に大きな災害を契機として直轄砂防事業化された地域は何箇所もありますが、その後何十年も災害が起こらずだらだらと惰性的に事業費を垂れ流しているところがなんと多いことか。
崩壊したところ、土石流の発生したところは、いわゆる抜け殻なんです。そこに今後災害の予備物質となる土砂がたまるには、また数十年~数百年の時間がかかります。このようなことを考えれば、防災に関わる投資バランスは自ずと見えてこようというものですが、、、、
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各地の豪雨による土石流の発生現場の報道写真を見ていると、多くの場所で人工林の杉がなぎ倒されて土砂と一緒に流れているようです。しかし、これについて、その意味を理解して報道しているところは見当たりません。
常々不思議に思っているのですが、治山ダムや砂防ダムは土砂で満杯にすることが建設の目的なのでしょうか。ダムに溜まった土砂が本体と一緒に崩壊して土石流を強化すること(熊本などで実際に起こっています)は想定外なのでしょうか。
治山ダムは谷止工といって、実は土砂で満杯にすることが目的なんです。なぜかといえば、土砂で満杯にし、勾配が緩やかな場所・堆積地をつくって、斜面の裾を安定させ植生を回復しやすくする、、、建前はそうなっています。
砂防ダムは、もっと満杯にすることを主目的にしたものが多く、河川の勾配を緩やかにして、土石流を下流まで到達しににくするといった目的です。
でも、これはあくまでパンフレット的な説明です。杉に表土層の保全効果は小さく、土砂と混然一体となって流下し被害を拡大させることを理解していないのは報道だけではありません。上に書いた机上の空論に近い砂防ダム・治山ダムの効果を単純に信じ込んだ担当者、若い技術者も多いのです。
別のみかたをすれば、砂防ダムは砂防課、森林の育成は森林整備課などど、縦割りの弊害ともいえます。
beachmolluscさんのブログも拝見しました。多くの文献を調べられ、きちんとした見解を述べておられると思います。
林業の活性化を御旗に”とりあえずのスギ植林”が、いまの山地の荒廃を招いたのは間違いありません。また、砂防ダムさえ造っとけばいいか、土建業者を繁栄させればいいか、程度の発想で、地形形成史や土砂の流れ方から考えて疑問視せざるを得ない場所に造成された砂防ダムもいっぱいあります。
砂防ダムや治山ダムの効果をまったく認めないわけではありませんが、ハンノキなどの保水効果、浅層の地下水を大量に吸い上げて葉から蒸発散させるので地下水排除工のような効果を持つ広葉樹を増やすなどの対策が、日本の失われた景観を取り戻す意味でもよいですね。
だからこそ、このブログはLet's Design with Natureといっているわけです。beachmolluscさんのブログから、私が学ぶことも多いと思うので、今後ともよろしくお願いいたします。
大学教員をやっていたので、自然について、特に生物を中心にして自然を見る、生態を理解することを教えていました。日本の教育の特徴は直接役に立たない(金にならない)ことを切り捨てる傾向があり、自然を理解することは飯の種にならないで、自然を食いつぶす方向に税金が投入され続けているようです。また、受験で切り捨てになる地球科学の学校教育での軽視はひどい状態です。