玄文社主人の書斎

玄文社主人日々の雑感もしくは読後ノート

長期入院と幻覚(5)

2016年10月15日 | 日記

④冷凍された少女達
 冷凍イカの夢の中で「冷凍された少女達」についても十分説明出来たと思う。冷凍少女の独立した夢は見ていないので、項目を立てる必要もなかったかも知れない。
 冷凍少女については、イカと同じように裸に剥かれ真っ白い肌を露出した裸の少女達が、整然と並べられ、冷気を発散させている様子を想像して頂ければいい。このいささか残酷で、悪趣味ではあるが、少なくともデルヴォーの絵のようには美しい情景がガラス貼りの冷凍庫の中に展開されているわけである。

⑤「鮮度抜群の居酒屋」
この夢でも、冷凍少女は冷凍イカと等しいものとして出現してくる。この「鮮度抜群の居酒屋」は長い夢で、ほかの夢ともリンクしているのだが、居酒屋部分だけでも十分長いので、そこだけとりあえず紹介する。
 まず、病院内の施設として居酒屋が紹介される。その居酒屋は待合室もかねていてカウンターで、順番を待ちながら呑んでいる人もいる。私はベッドごとこの待合室に担ぎ込まれている。視線は仰向けの筈なのに、なぜか夢の中の物事は普通の視線で見えてくる。
 院内に居酒屋がある等というあり得ない設定も、夢にとっては大きな障害ではない。しかもこの居酒屋が病院の敷地内にありながら、同時に新潟県外にあってそれもどこの県かわからないということになっていることも、夢を見る主体にとって不可能事ではない。
 夢は不可能を可能にするし、不条理な設定は日常的なのである。その居酒屋は抜群の鮮度を売り物にしている。店主はガラスケースに入った冷凍庫をいつでも見せてくれる。冷凍庫に入った魚のどこが鮮度がいいのだと言われるかもしれないが、確かに冷凍ケースの上のほうにはおいしそうな魚の切り身が並んでいる。
 ケースの下には言うまでもなく冷凍イカが並んでいて、それはいつでも冷凍少女達と代替可能である。私はそれを冷凍イカであると同時に冷凍少女であると思っている。エロチックな冷凍イカなのである。
 注文すると品物が出てくるが、店主は決して姿を見せることはない。カウンターの上が霞がかかったようになって、その霞が晴れるとそこに品物がおかれているのである。それがどうしてなのか、種明かしもなされる。
 冷凍庫にはエチルアルコールの匂いが充満していて、それが冷気と一緒になっていわゆる鮮度を保証しているように感じられる。店主が姿を見せないで注文された品物をカウンターに置いていくのも、この冷気とエチルアルコールの匂いに拠っている。店主は厨房とホールを区切る小さな隙間から姿を出すときにこの冷気とエチルアルコールを使うのだ。そうすると客からは何も見えないことになっている。
 店主の自慢はそれとメニューの抜群の鮮度である。仕入れ先が違うのだそうで、魚は日本各地の産地から取り寄せられている。本格的な居酒屋なのである。なぜ冷凍魚の切り身ばかりなのかは分からないが。
(この夢つづく)