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生前退位をめぐる男系論者の主張を朝日新聞で読んで

2016-09-19 13:37:45 | 天皇・皇室
 9月10日と11日の土日連続で朝日新聞は、天皇の生前退位をめぐる男系維持論者の主張を政治面に載せた。

 10日の記事は、男系の皇統維持論者の多くは生前退位に反対の立場だが、一部に容認論も見られるというもの(以下、引用文中の太字は引用者による)。 

生前退位、困惑する男系維持派 「パンドラの箱があく」
2016年9月10日05時05分

 天皇陛下が生前退位の思いを強くにじませたお気持ちを表明したことに、男系の皇統維持を求めてきた人たちが困惑している。「日本会議」や「神道政治連盟(神政連)」の関係者が多く、安倍政権の支持層とも重なる。本来は退位に反対の立場だが、政権が特別措置法の検討に入るなか、容認論も出始めた。

 「例外というのは、いったん認めれば、なし崩しになるものだ」

 男系派の重鎮で、日本会議と神政連の政策委員を務める大原康男・国学院大名誉教授は、退位の前例を作れば皇位継承の安定性が失われると懸念。「国の根幹に関わる天皇の基本的地位について、時限立法によって例外を設けるのは、立法形式としても重大な問題がある」と特措法にも反対する。

 退位の意向が報じられたのは、参院選で改憲勢力が憲法改正の国会発議に必要な3分の2を確保した直後だった。憲法改正運動を進める日本会議の幹部は「いよいよという時に水を差された」と感じたという。「宮内庁内の護憲派が、陛下のご意向を政治利用したのではないか」と語る。

 8月にお気持ちが表明されると、衝撃が広がった。退位への思いが強く表れ、男系派が代替案として提案していた摂政を事実上否定する内容だったからだ。

 日本会議代表委員の一人で外交評論家の加瀬英明氏は「畏(おそ)れ多くも、陛下はご存在自体が尊いというお役目を理解されていないのではないか」と話し、こうクギを刺す。「天皇が『個人』の思いを国民に直接呼びかけ、法律が変わることは、あってはならない

 いずれも皇室典範1条が定める「男系男子による皇位継承」を「万世一系」として絶対視し、歴代政権が検討した「女系天皇」「女性宮家」に反対してきた人々だ。これまでの安倍晋三首相の立場とも重なる。

 男系の皇統を維持すべきか女系天皇を認めるべきかの問題は、一見、退位とは関係ない。しかし、実は、男系派が退位に抱く危機感と密接に結びついている。

 神政連政策委員で、安倍首相に近い八木秀次・麗沢大教授は「天皇の自由意思による退位は、いずれ必ず即位を拒む権利につながる。男系男子の皇位継承者が次々と即位を辞退したら、男系による万世一系の天皇制度は崩壊する」と解説。「退位を認めれば『パンドラの箱』があく」と強い危惧を表明する。

 男系派にとって、歴史的に男系でつながれてきた「万世一系の皇統」は、日本の根幹に関わる問題だ。

 ジャーナリストの桜井よしこ氏は2月、憲法改正を求める集会で「日本人ってなんだろう。日本の国柄ってなんだろう」と問いかけ、こう述べた。「天照大神の子孫の神々様から始まり、神武天皇が即位なさって、神話が国になったのが日本だ。その中で皇室は重要な役割を果たしてきた」

■「例外なら」容認論も

 一方、例外として退位を容認する声も出てきた。

 百地章・日大教授はお気持ち表明前、退位に反対し摂政を主張していた。今は「制度設計が可能なら」という留保つきだが、①まずは皇室典範に根拠規定を置いたうえで特措法で対応する②例外的な退位を定める典範改正は時間をかけて議論する――という2段階論が現実的ではないかとの立場だ。「超高齢化時代の天皇について、陛下の問題提起を重く受け止めるべきだ」と語る。

 安倍首相のブレーンの一人とされる伊藤哲夫・日本政策研究センター代表も、機関紙「明日への選択」9月号で、「天皇制度そのものの否定」につながる懸念を示しつつ、こう書いた。「ここは当然ご譲位はあってしかるべし、というのがとるべき道なのか」

 ただ、退位反対論は根強い。男系派の一人は言う。「首相を説得してでも特措法を封じたい。安倍さんも『天皇制度の終わりの始まりをつくった首相』の汚名は嫌でしょう」(二階堂友紀)

     ◇

■生前退位をめぐる識者の反応

〈小堀桂一郎・東大名誉教授〉 天皇の生前御退位を可とする如(ごと)き前例を今敢(あ)えて作る事は、事実上の国体の破壊に繫(つな)がるのではないかとの危惧は深刻である。(略)摂政の冊立(さくりつ)を以(もっ)て切り抜けるのが最善だ(「産経新聞」7月16日付朝刊)

〈渡部昇一・上智大名誉教授〉 もっとも重視しなければならないことは、これまで男系で続いてきた万世一系の皇統を守ることだということです。今の天皇陛下が大変、休息を欲してらっしゃるということが明らかなのであれば、すみやかに摂政を設ければいい(「正論」9月号)

〈加地伸行・阪大名誉教授〉 両陛下は、可能なかぎり、皇居奥深くにおられることを第一とし、国民の前にお出ましになられないことである。(略)<開かれた皇室>という<怪しげな民主主義>に寄られることなく<閉ざされた皇室>としてましましていただきたいのである。そうすれば、おそらく御負担は本質的に激減することであろう(「WiLL」9月号)

※いずれもお気持ち表明前

     ◇

 〈女性・女系天皇〉 女性皇族が皇位に就く「女性天皇」は過去にも10代8人いたが、いずれも父方に天皇の血筋を引く「男系」だった。しかし、女性天皇が皇族以外の男性と結婚し、生まれた子どもが即位する「女系天皇」は例がないとされる。小泉政権は女性・女系天皇容認に向けて議論したが、実現には至らなかった。


 11日には、論者の代表格として、八木秀次・麗沢大教授とジャーナリストの櫻井よしこ氏の2人に対するインタビューを載せた。

生前退位、男系維持派は 八木氏・桜井氏に聞く
2016年9月11日05時10分

 天皇陛下が生前退位への思いを強くにじませるお気持ちを表明し、政府は一代に限って退位を可能とする特別措置法を検討している。安倍晋三首相に近く、男系の皇統維持を求めている人たちは、どう受け止めているのか。麗沢(れいたく)大教授の八木秀次(ひでつぐ)氏と、ジャーナリストの桜井よしこ氏に聞いた。(聞き手・二階堂友紀)

■「臨時代行で対応を」麗沢大教授・八木秀次氏

 ――お気持ち表明をどう受け止めていますか。

 「随分踏み込まれたという印象だ。天皇はご存在自体に尊さがあるが、お務めをしてこそ天皇だとおっしゃった。それが本質だろうかという疑問を持った

 「ご存在の尊さは、男系男子による皇位継承という『血統原理』に立脚する。そこに『能力原理』を持ち込むと、能力のある者が位に就くべきだという議論になる。結果として、陛下ご自身が天皇制度の存立基盤を揺るがすご発言をなさったことになってしまう」

 ――なぜ、退位にそこまで反対するのですか。

 「退位は明治の皇室典範制定以来、封印されてきた『パンドラの箱』だ。たとえ一回でも退位の前例を作れば、日本の国柄の根幹を成す天皇制度の終わりの始まりになってしまう。陛下のお気持ちへの配慮とともに、制度をいかに維持するかという視点が必要だ。そのために、心苦しいが、憎まれ役を買って出ている」

 ――朝日新聞の全国世論調査(8月6、7日)では84%が退位に賛成です。

 「陛下が具体的な制度の可否について言及され、それを国民が支持し、政府が検討を始めている。『天皇は国政に関する権能を有しない』と定めた憲法に触れる恐れがある。陛下のご意向だということで一気に進めるのは問題だ

 「天皇といえども生身の人間であり、ご自身のお考えをお持ちだ。しかし、それが公になれば政争に巻き込まれ、尊厳を汚される。憲法が政治的発言を禁じているのは、天皇をお守りするためでもある。宮内庁のマネジメント能力に問題があると言わざるを得ない」

 ――それでは、どう対応すべきだと考えますか。

 「『開かれた皇室』によって、昭和天皇の時代よりご公務が何倍にも増えた。陛下は、それら全てが全身全霊でできて初めて天皇たり得ると非常にストイックな自己規定をされているが、縮小したり肩代わりしてもらったりすればいい」

 「摂政を置くのは天皇がお務めをできなくなった場合なので、天皇は全く活動できなくなる。陛下は、そのような状況をお望みではないだろう。病気療養時や外国ご訪問時に限られている現在の運用を緩和し、国事行為の臨時代行で対応するのが最善ではないか」

     ◇

 専門は憲法学。「新しい歴史教科書をつくる会」から分かれた「日本教育再生機構」理事長。神道政治連盟の政策委員も務める。

■「特措法も一つの選択肢」ジャーナリスト・桜井よしこ氏

 ――男系維持派の多くの識者が退位に否定的です。なぜなのでしょうか。

 「私が皇室について抱く危機感は、お言葉ゆえではない。戦後、憲法など日本の国としての規範は連合国軍総司令部(GHQ)が作った。戦後のあり方を全否定する気はないが、多くの問題がある。その一つが皇室のあり方だ」

 「国家と国民の安寧のために祈ってくださるのが皇室だ。しかし、本来のお役割である祭祀(さいし)が私的行為とされている。祭祀を横に置いて、『ご公務』の議論ができるのか疑問だ」

 ――お気持ちには、祈りとともに、「日本の各地、とりわけ遠隔の地や島々への旅も大切なものと感じてきました」とありました。

 「それぞれの天皇はお気持ちや価値観によって、ご自分なりの天皇像をつくっていかれる。今上陛下と皇后陛下は遠方まで行幸啓(ぎょうこうけい)なさり国民に寄り添われてきた。そのお姿に国民は感動し、勇気づけられてきた」

 「祭祀をなさりつつ、お出かけ先で国民に寄り添われる。双方合わさったのが象徴天皇のあり方だとお考えだが、高齢化で、それがつらくなったとおっしゃっている。何とかして差し上げるべきだが、国家の基本は何百年先のことまで考えて作らなければならない

 ――政府は退位について特措法を検討しています。

 「陛下の思いを尊重しつつ、どのように日本国の伝統を守るか。双方を両立させる工夫としては、特措法も一つの選択肢だ

 ――講演では神武天皇にも言及されますが、実在しないと言われています。

 「大切なのは実在したかどうかではない。神話とは、その民族が大切にしたい価値観を凝縮させて作った『民族生成の物語』だ。そこには日本の国柄のエッセンスが込められている。日本の穏やかな文明を体現してきたのが皇室だ」

 ――神話や「万世一系」を強調しすぎると、日本を特別視するかのような思想につながりませんか。

 「敗戦の結果、否定されがちだが、皇室も神話も日本の長い歴史の中で育まれた。戦前の一時期に限定して見るのでなく、その穏やかな本質を見るべきだ。日本人としての誇りを持つことが、他民族より人種的に優れていると考えることには必ずしもつながらない」

     ◇

 元記者、ニュースキャスター。「美しい日本の憲法をつくる国民の会」では、日本会議の田久保忠衛会長らと共同代表を務める。


 朝日がこの問題における彼らの主張をこのように大きく取りあげたのは、非常に良かった。

 彼らの主張は、産経新聞や『正論』『WiLL』といった保守系オピニオン誌に目を通していれば、ことさら珍しいものではない。
 しかし、今回の天皇陛下のメッセージを受けて各社が行った世論調査では、生前退位に賛成する意見が圧倒的多数を占めている。

 朝日新聞社がメッセージ公表直前の8月の6日と7日に行った調査では、「「生前退位」をできるようにすること」に賛成が84%、反対が5%。

 また、9月の10日と11日に行った調査では、「今の天皇陛下の生前退位」に賛成が91%、反対が4%。賛成と回答した人のうち「今の天皇陛下だけが退位できるようにするのがよい」が17%、「今後のすべての天皇も退位できるようにするのがよい」が76%。

 日本経済新聞社とテレビ東京が8月9~11日に行った調査では、「生前退位を認めるべき」が89%、「認めるべきでない」が4%。「認めるべき」と回答した人のうち、「今の天皇陛下に限って」が18%、「今後の天皇すべてに」が76%。
 
 読売新聞社が8月9日と10日に行った調査では、「生前退位ができるように、制度を改正すべき」が81%、「改正する必要はない」が10%。「改正すべき」と回答した人のうち、「今の天皇陛下だけに認めるのがよい」が14%、「今後のすべての天皇陛下に認めるのがよい」が80%。

 そうした世論と比べて、彼ら男系論者の生前退位についての主張が極めて異質なものであることは明らかだ。
 彼らの内輪ではそうした主張がまかり通っているが、その外部ではよく知られていない。
 そもそもそのような主張があることを知らない国民も多いだろう。
 それを、朝日のようなリベラル系の全国紙が広く知らしめた意義は大きい。

 政治的なことにはまるで興味がなく、「右」「左」の意味もわからない私の妻も、この記事を読んであきれていた。
 例えば、上記の10日の記事で引用されていた加瀬英明氏の発言や加地伸行氏の主張について、この人たちは、現在の生きている人間としての天皇陛下を守りたいのではなく、この人の頭の中にある天皇制を守りたいだけなのだろうと言っていた。
 時代錯誤もはなはだしいと。
 そのとおりである。

 だが、上記の記事にある
「陛下はご存在自体が尊い」
「天皇が『個人』の思いを国民に直接呼びかけ、法律が変わることは、あってはならない」
「天皇の自由意思による退位は、いずれ必ず即位を拒む権利につながる」
「ご存在の尊さは、男系男子による皇位継承という『血統原理』に立脚する。そこに『能力原理』を持ち込むと、能力のある者が位に就くべきだという議論になる。結果として、陛下ご自身が天皇制度の存立基盤を揺るがすご発言をなさったことになってしまう」
「陛下が具体的な制度の可否について言及され、それを国民が支持し、政府が検討を始めている。『天皇は国政に関する権能を有しない』と定めた憲法に触れる恐れがある。陛下のご意向だということで一気に進めるのは問題だ」
といった彼らの主張は、明治以降の天皇制のこれまでの運用に照らすと、必ずしもおかしなことを言っているわけではない。
 天皇には退位の権利も即位を拒む権利もなく、意志表示すらまともに許されず、ただ「存在」することだけを要求されてきた。
 生物学的人間を社会的人間と認めない。明治以降の天皇制の本質とはもともとそういうものなのである。

 身分制度があり、基本的人権などという概念がなかった時代なら、それでもよかっただろう。
 明治時代にわが国が中央集権国家に生まれ変わり欧米列強に伍するためには、このような国民を統合する存在も必要だったのかもしれない。
 だが、こんにちのわが国になお、こんな人身御供のような制度が必要なのだろうか。

 そもそも生前退位が歴史上決して珍しくなかったことは、少しでも日本史の知識があれば明らかだろう。
 そしてまた、わが国の天皇や皇室のありようが時代によって変遷してきたことも言うまでもない。
 明治以降だけが天皇の、わが国の歴史の全てではない。
 今後も天皇制を維持したいのなら、それは時代に合わせて変わっていかざるを得ない。
 生前退位に好意的な大多数の国民は、それを理解しているのだろう。

 男系論者は、明治以降の、わが国の歴史のうちのごく一部を取り出して勝手に理想化し、それに固執しているだけではないのか。
 今回の朝日の記事は、そうした彼らの本質を事実をもって語らせる良質なものだった。


(以下2016.9.23追記)
 この記事のアップ後、朝日新聞デジタルに次のような訂正記事があるのを見た。

訂正して、おわびします
2016年9月17日05時00分
▼10日付総合4面にある天皇陛下の生前退位をめぐる記事で、表のタイトルが「男系維持を求めてきた識者の反応」とあるのを、「生前退位をめぐる識者の反応」と訂正します。掲載した識者のうち、加地伸行・阪大名誉教授には男系維持の工夫に関する論考はありますが、加地氏から、男系・女系天皇をめぐる問題については慎重な態度をとっている、との指摘がありました。
 

 上で引用した記事は表のタイトルを訂正した後のものだが、それでも内容的には加地伸行氏も男系維持論者だとの印象を受ける。加地氏本人からこのような指摘があったとのことなので、読者におかれては留意されたい。
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2 コメント

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Unknown (やまだ)
2016-09-21 07:58:29
こんにちは。久々のコメントです。
八木氏は、「前例」を以って女系天皇はいないとか血筋の離れた皇族の即位の例があるとか、皇籍離脱した人間が即位した例があると言っているのに、譲位に関しては前例を認めないのですね。
彼らは「明治以降の神道の教祖」としての天皇制を守りたいのであって、明仁氏や徳仁氏(失礼な表現お許しください)を守りたいのではありませんから。
やまださんへ (深沢明人)
2016-09-22 23:40:37
お久しぶりです。

八木氏らについては、おっしゃるとおりだと思います。
私は以前、彼らが何故これほど男系に固執するのか理解に苦しんでいましたが、最近は、同意はできないまでも理解はできるような気がしてきました。

生きている人間としての天皇や皇族ではなく、観念としての天皇制を崇拝するというのは、何やら戦前の皇道派や機関説排撃を想起させます。

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