寂滅為楽

日々の雑記、日記、二次創作は雑食だけど専らシン・アスカ中心に書いていくブログです。尚、当サイトはリンクフリーです。

極彩の唄 その三十九

2010-02-27 | 極彩の唄




「シン、アンタ顔色最悪よ?何日寝てないわけ?」

考えこもうとする内に、頭から思考らしき形をもった言葉が姿を消し、代わりに漠然とした気分の悪さ。
やけに年上ぶった叱り付けるような声には心当たりは一人だけ。頭上から見下ろしてきたのはルナ。
仄かに香る匂いに、香水変えた?と聞けばはぐらかさないの、と額を小突かれる。

「まぁ、気付いただけ褒めてやらんでもないわよ?昔のアンタだったら香水どころか髪型にも気付かなかったわけだし」
「ルナの教育の賜物ってヤツだな。感謝してます」
「言葉でなくて態度で示して欲しいんだけど?具体的には明日の昼休み」
モニターの脇、開かれたハッチの横に腰掛けると、下から吹き上げる風がルナの髪をやわらかく舞い上げる。
濃くて、けれども決してくどいわけじゃないワイン色の髪が、照明の灯りを浴びて一層鮮やかさを増す。
灰色、白、黒、実に面白みの無いハンガーに、ルナの髪は唯一の彩りのように映える。

「正解だな。伸ばしてさぁルナは」
「何が?」
「髪。スッゲェ似合ってる。ショートのルナも身体中から生命力っていうかエネルギーが出てて、跳ね回る猫みたいで可愛くて好きだったけど、今の長い方が俺は好きかも」
「今更何言ってるのよ。昨日今日伸びたわけじゃないのに」
「悪いかよ。無性にルナの髪が綺麗だなった改めて思っただけなんだけど?」
「ふぅん。あのデリカシーの無さの塊だったアンタがね。誕生日プレゼントを本人に聞いてくるようなロマンティックの欠片も無かったアンタが。アンタが急にそういう事言うときって大抵なんかあるのよねぇ〜わかりやすいヤツ」

これ見よがしに吐いてみせる溜息に、苦笑しか浮かばない。
実際その通りなのだ。別にルナのご機嫌を伺う必要なんて無いのだけれど。
ただ昔からこういう時がある。こういう時というのは今みたいにルナをからかったり、褒めたり。大概は照れ隠しに怒ったり、口ごもったり、いきなり叩いてきたり、最近では何だか可愛げが無いのだが今みたいに呆れた顔をするようになってきている。そうして、俺は何故か妙に安心してしまうのだ。ルナの当たり前の反応に。ホッとするのだ。それによって何かを得られたり、それによって彼女を愛しいと思ったりするわけではないのだが。

「わるかったなぁ。大体誕生日プレゼントなんて、ハズレあげたら気まずいじゃん。だったら欲しいものあげた方が良いに決まってるだろ」
「そういう台詞を吐くようじゃ駄目ね。欲しいものをあげるのは当然、それを日頃の会話から推測して、サプライズを演出するのが男の甲斐性ってもんでしょ」

確かに、事実ルナマリアにもらったプレゼントはどれも思いもよらなかったもの、けれども、言われてみれば確かに欲しかったという絶妙なものが多い。
当然、事前にルナマリアから何が欲しいか等聞かれたことは記憶には無い。それでも絶妙であって、決して微妙にならないプレゼント。
到底自分にはまねできそうにも無い。人の感情の機微には鈍い、ましてやどのようなものが好まれるかを察するなど出来そうにない。

「さて、ヘタクソな誤魔化しはさておいて、何があったわけ?」
橙のリップを引いた唇は悪戯を企むように、不敵な笑みを浮かべている。しかし、口元とは相反するように、目尻が微かに釣り上がり、瞳が細められる。
ルナがイライラしている時にする表情。感情表現が豊かな彼女が、本気で苛立ちを覚えている際に浮かべる独特の凄みのある笑み。


「別に大騒ぎする程の事じゃないけど、久しぶりに眠れなくなった」


悲観も苛立ちも、不安も恐怖も、憤りも苦渋も。
シンの声には何も滲んではいなかった。感情を抑え切れているというわけではない。そんな器用な、心にベールを被せる真似の出来る男ではない。
良くも悪くも嘘がつけない。ポーカーフェイスだと評されるその無表情は、ルナマリアにとっては無愛想であって、無感情ではない。
そのルナが声に何の感情も含まれていないと感じた、それはすなわち本当にシンが何も感じていないという事だ。

「今更って感じもするんだけどさ。性懲りも無く夢を見るんだよ、ルナにも話した事あったろ?家族の死ぬ夢。まぁ、全く見なかったわけじゃないんだけどさ、ここんとこさっぱり音沙汰も無かったところでいきなり見るようになって昔と同じ、いや同じじゃないか、だんだん出演者は増えてきてるんだわこれがまた律儀なことに」
「レイとかステラとか……」

続いて口にする女の名前に、シンは苦笑を浮かべる。
二十歳そこそこの青年とは思えない、ルナマリアはその笑みを随分とやつれた、くたびれた老人のような笑みだと思った。



過去、幾度も幾度もシンが悪夢に眠れぬ日が続く事は決して少なからずあった。それが顕著だったのは大戦時。
精神的に不安定な時期であった事も要因だろうが、シンの情緒不安定さは何も大戦時における話のみではない。
アカデミー時代においても情緒不安定さと、刺々しさ、警戒心の強さから来る攻撃性によって起こした事件は両手の指では数え切れない。
それに比べれば随分と落ち着いたようにも見えた。しかし、情緒不安定さが少なくなるという事と、精神的に健やかに、穏やかにある事は必ずしも同じ意味とはならない。
戦場に出て、やるべき事 ――― 倒すべき敵と言い換えても良いが ――― を得、自分を肯定してくれる仲間を得て、そしてステラ、そして『彼女』を、守るべき存在を得たシンは確かに心に安定を取り戻した。
しかし、安定するという事は、何も地に深々と根を張る大樹の様を指すのみではない。
自転車やバイク、それらが最も安定する時というのはスピードが出ている瞬間。
真っ直ぐ前に向かって走っている瞬間である。スピードを緩めればふらつきバランスを崩し、バランスを崩してしまえば小さな段差であっても転げ落ちてしまう。
そして、徐々に止まろうとせずに、不意に減速をしてしまえば、スピードが出ていれば出ている程に転んだ時の怪我は深くなる。
もし、そのバイクにブレーキが無かったとしたら。ブレーキの存在に気付く事が出来なかったとしたら。
怪我をしない為には走り続けるしかないのだろう。スピードに乗れば乗るほど転んだ時の怪我が酷くなるとわかっていても、走るしかない。

そんな悲壮なものじゃないわね。
ルナマリアは覚めた表情でそっとシンの横顔に目を向ける。
シンは膝の上に広げた端末に目を落とす。光の反射でモニターは見えないが、恐らくは例の新型だろう。
最近シンがずっとかかりっきりになっている機体。気にかかるといえばこれも気にかかる事だ。
ふとルナマリアの中に疑問が過ぎる。新型の整備にアスカ隊の者が駆り出されたことが無いのだ。
それどころか、他所の部隊からも駆り出されている様子は無い。
ストライクフリーダム、インフィニットジャスティスを開発したクライン派が絡んでいるのかと思い、自分なりに調べてはみたがその様子も無い。
それが何を意味しているのか。シンは気付いているのだろうか。
悲壮なものじゃない。
当時のシンは何処か無邪気な部分があった。
元々大人びた冷たい価値観、割り切りと、無邪気な感情、純粋な感受性を持ち合せていた。
しかし、終戦間際にいたって、その無邪気さは時折ゾッとするものがあった。無邪気にクリスマスプレゼントを喜ぶようにデスティニーを見上げたかと思えば、それを正義の象徴だとも思わず、かといってキラのように理想をかなえる為の力だとも捉えず、ただただ、血を流す為の兵器でしかないとケロリと言ってしまうのだ。
あの頃からシンは既に追い詰められ、追い詰めていた。
それも無邪気に、無闇に、夢中で、いや霧中で。

ブレーキが無かったのではない。
ブレーキに気付かなかったのでもない。
ブレーキに手を掛けなかったのだ。

子供が、度胸試しのように、恐怖と興奮の狭間に身を投じるように、自転車で坂道を全力で下っていくように。
もしかしたら、曲がり角からトラックが走って来るかもしれない。
或いは子供が飛び出してくるかもしれない。
ひょっとすれば、行き止まりになっているのかもしれない。
ガードレールも何も無く、真っ逆さまに落ちてしまうかもしれない。
彼女が消えてから、覚束ない足取りで、死なず生きず、ただ漫然と生きていた頃では見ることのなかった悪夢の意味。
恐怖と不安と、高揚感と興奮。
死んでしまいたいという願望と、死んでしまっても良いという欲望。

シンは気づいているのだろうか。
そんな悪夢を見るときの自分の心のありように。

シンは気付いているのだろうか。
その昏い衝動こそが、彼を何よりも鮮やかに凶暴に、妖しく生かしているという事に。

シンは気付いているのだろうか。
生きていく糧とするにはそれは余りにも破滅的な衝動でしかない事に。





                                        ◇





申し訳程度の灯りに照らされた薄暗い回廊を足早に駆けていくのは、決して怖いからではない。
勿論、全く怖くないわけではない。ぼやけた灯りが点々と灯された細長い廊下は、嫌でも様々な想像を呼び起こす。
仕事が終わったからと何気に付けたテレビで流れていたホラー映画を惰性で観てしまった事を後悔する。
映画そのものは陳腐なものであった。最新の技術を駆使した映像こそ中々と感心するものの、それだけだ。
実に取るに足らない内容であったが、それでも恐怖を助長する為のイメージの材料としては一役買っている。
目当ての部屋の前に辿り着くと、息を整える。
思った以上に息が上がっている。

もう少しジムの時間を増やした方がいいかしら。
頬が鏡を見なくとも熱に染まっている事が当てた手の平から伝わる温度でわかる。
机にかじりつく仕事柄運動不足は切っても切れない。
ドアに手を伸ばそうとして、手櫛で髪を軽く整える。
額に前髪が張り付いていないか。
今日はグロスにしてあるから、滲んでいる事はない筈だ。
インターフォンを鳴らそうとして、一拍置いてから口元に小さく笑みを浮かべる。
カードキーをポケットから取り出す。
持つのは部屋の主、彼の副官、そして、自分。
ピッと電子ロックが開錠される音が、やけに大きく回廊に響く。

視界に即座に部屋の主の姿が入る。
俯くように、手元の書類に目をやる姿に、しばし目を留める。
長めの髪が頭を垂れる柳のように、さらさらと繊細な影を白い頬に落とす。
若干くたびれた感じの着崩した白服のす裾から伸びる白い手が書類をゆっくりとめくる。


部屋に充満する香ばしい独特の香りがコーヒーの、それもあまり品質の良いとは言えないインスタントコーヒーの匂いだと気付く。
この前は缶コーヒーの山だったかしら。
味覚は確かなのに、あれ程美味しいコーヒーが淹れられるというのに、不思議と自分が飲むコーヒーに関しては無頓着なのだこの子は。
飲めれば良い。、というよりも、寧ろ好みとしては安っぽい味を好んでいる傾向が窺い知れる。
昔から変わらないんだから。そう思うと何だか微笑ましい。
違うのは、ミルクを入れなければ飲めなかった頃と違い、今は入れるのを嫌う。
大人ぶっちゃって、とからかったら頬を膨らませていたのは果たしていつだったか。

組んだ足は、すらりと長く、けれども受ける印象がキラ・ヤマトとは全く異なる。
モデルのような、うっとりする形と長さのキラとは違い、シンの足は、アスリート、いや、野生の動物を連想させるしなやかさと強靭さがある。
それが、足の出来ではなく、彼等の性質から育ってきた環境、出生といったあらゆるバックボーンに由来している違いだという事など言うまでもない。
伏目がちの瞳からそっとこぼれるように長いまつげが、紅の煌きをもどかしくなるように覆い隠してしまっている事が容易にわかる。
足音を立てないようにそっと近づいて行くと。普段はいやいやながらもしっかりと留めた襟元を大きく開けている。
後ろに回ったところで、両肩に手を伸ばす。

「仕事はいいんですか?ジュール議員は随分とお忙しそうでしたけど」
「エザリアのお手伝い程度だから私は。彼女程の立場でもないしね。今終わったところだけど…シン君は珍しく一人なのかしら?」
「そりゃあ、たまには部下達に早く帰らせてやらなきゃ、暴動が起きてしまいますから」
「そうなんだ。偉いわね、こんな時間にシン君が一人でいるって久しぶりな気がするわ」
「ですかねぇ」

少しだけ口調が意地の悪いものになってしまう。
エザリアにはああいったものの、やはり愉快ではない。私と彼が恋人同士という訳でもないし、そんな確約を結んだ覚えもない。
だから、私がムッとする理由はないのだ。そもそも、彼には実際のところ明確に周囲に公言している形での恋人という存在はいない。
あえて、形に名前をつけまいとしているのであろう事は容易に想像が着いてしまう。
それが背負いたくないからなのか、結びつきが出来てしまう事が怖いのか。
そんな此方の思いに気付いているのかいないのか、シン君は随分と気のない返事。
そこで、彼の瞳の下に大きく深く刻まれた隈に目が行く。
ああ、なるほど。そっけない態度、というよりもどこかぼんやりとした彼の態度に得心が行く。エザリアが言っていたのはこういう事なのね。

「ロミナさん?」
「なぁに?」
「結構はずいんですけど」

思わず口元が綻んでしまっていたみたい。
指先が自然と紅い瞳の下をなぞる。隈が消えてくれるように、二度、三度と指の腹で微かに押すようになでてやる。
手の平にあたる彼のひんやりした頬の感触が心地よい。
少しだけ気まずそうな、だけど聞いて欲しそうな表情に、増々唇が釣り上がってしまうのが自分でもわかる。


「何を今更言っているのかしら。それよりも……眠ってないんでしょ?」
「ジュール議員に聞きましたか?同じ事を言われました」
「聞かなくてもわかるわよ。雪みたいな肌なんだもの、凄く目立つわ。ファンデーションで隠したらいいのに」
「ウチ連中みたいな事言わないでくださいよ。嫌ですよ恥ずかしい」
「ま、大人ぶっちゃって。どうして寝てないのかしら、忙しいから?」

わかっているのよ。本当は。
そっと心の中で呟く。けれどわざと意地悪な質問。すっかり大きくなってしまって、大人のフリが随分上手になってしまって。
すっかりエッチで女の扱いが旨い子になっちゃって。だから、こうして子供扱い出来るのが嬉しいの。嬉しいからしてしまう。
こう質問されれば打ち明け易いでしょ?


「そりゃあ、忙しいですよ……新型の話があって…それで、明日は地球ですから」
「オーブの派遣軍と合同任務の話ね」

昨日の話。オーブが経済同盟を結んでいる国に、援助という名目で派兵をするという。
教義を曲解させてまで正当化させるなんて。オーブのお姫様は随分と好戦的になったのね。
指を黒い、夜が溶けて混ざったような髪に絡める。微かにしっとりとした感触。痛み、満足に櫛の通されていない髪。
彼の忙しさと疲れを、そして何よりもこの数日の眠れない夜を物語っている気がする。

「でもそれだけ?忙しいから眠れないわけじゃないでしょう。そんな事今に始まったことじゃないもの。シン君だって苦しい言い訳だって思ってて言ってるんでしょう。それとも私には話したくない?」


逸らそうとする瞳を捕まえる代わりに、目元に置いた指を滑らせて頬に持っていくと、少しだけ力を込めて自分の方に向ける。
小さい頃、隠し事をしていたニコルによくしてやったように。
初めてあった頃は頭一つ分小さかった少年が、いつしか座ってようやく頭一つだけ目線が高くなっている。
過ぎていった月日と、目の前で居心地悪そうに微かに揺れている紅の瞳の変わらなさに言いようのない感情が浮かぶ。
切なさと、寂しさ。そして、喜び。



「ロミナさん」
「うん」

するりと腰に回された手。微かに震えている。
怖いからじゃない、怖くて震えるわけじゃない。これは緊張。これから話す事への緊張。
泳いだ瞳が、おそるおそる見上げてくる。それは露骨に怯えているわけではない、陽炎のように、僅かに揺らぐ程度のもの。


「ロミナさん、俺」
「うん」


吐き出すように言う。
懺悔の色が不思議とない。申し訳ないという表情はあるけれども、それだけ。
それは正しいのだと、わかっている。
自分達の関係からすれば、そうだろう。懺悔をするものでもない、強いるのは見当違いだ。



「議長を抱きました」
「うん」


知ってる。見たわよ。


「何度も」
「うん」

何度も獣のようになって。貪っていたわね。
あの議長が、あんなにも崩れてしまうなんて、本当に驚いたわ。
少し妬けてしまったくらい。


「それで……だから、夢を見てるのね?」
「 ――― はい」


搾り出すような声に滲む苦渋、苛立ち、自己嫌悪。
きっとわかっていないのね。自分の心の戸惑いに。
そっと髪を撫でてやる。梳いてやる。そっと手に力を込めて顔をあげさせると、幼い顔が私の目の前に現れる。
途方にくれたような、困ったような、伺うような。
悪戯をした子供が、それでも母親に甘えたくて、くっついた足元からそろそろと上げるような。
ニコルが小さい頃もたまにしていた仕草。

「本当にもう、馬鹿な子ね」

でもそれは嘘。
子供が母親に甘える仕草。それは嘘。
本当はそんな軽くて、単純なものじゃない。微笑ましいものではない。
その瞳の中の苛立ち、必死さ。切実さ。怯え。苦しみ。


「それで私が怒ってしまうって……そう思ったの?私の夫と、息子を『奪った側』の彼女と通じてるからって」

決して、彼女と男女の仲になった事が問題なのではない。
私とシンは恋人ではない。彼が誰を抱こうと、私が誰に抱かれようとも互いに互いを責める資格はない。
きっと私が他の男に身体を曝したとしても、きっとシンは何も思わないだろう。
嫉妬も怒りも憎しみも苛立ちも悲しみも悔しさも。
最も、私はシン以外に身体を任せるつもりはないのだけれど。それでも、シンがきっとそんな感情を見せない事をわかっている。彼にとっては少なくとも私は恋人ではないのだから。
故に、ここで抱くべき申し訳なさは、私から全てを奪った彼等と、その中の象徴である彼女と不覚交わったから。
裏切り行為ではないかという恐れ。


「仕様の無い子。そんな事を気にして……あの人を抱いて、貴方の中で何か変わったのね?救われると思ったのかしら。それとも救われたいと思ったとかかしら。いえ、違うわねきっと貴方の事だから救われてしまうって、焦ってしまったのかしらね。焦って、それで怖い夢を見てしまって、でも私には言い出せなかったのね。気にしてるって思って」


途方に暮れた、迷い、戸惑う疲れた瞳が真っ直ぐに見上げてくる。
額に、そして瞼に唇を落としてあげる。
顔を近づけたら、香る汗の匂い、シンの匂いが鼻腔をくすぐる。
触れた瞼の裏で、瞳が驚いたようにぶるぶると動くのが、少しくすぐったく、愛らしかった。


なんて強い子だろう。こんなに傷だらけになってもまだ立っている。
なんて弱い子だろう。こんなに傷だらけになってふるえている。

なんて優しい子だろう。失う事の痛みを知っているから。
なんて残酷な子だろう。失う事の痛みを知っているのに。

なんて幸せな子だろう。こんなにも愛されているのだ。
なんて哀れな子だろう。こんな私に愛されているのだ。


なんて愚かな子だろう。
なんて孤独な子だろう。
情けなくて歪で可愛い子だろう。


ああ、なんて愛しい子だろう。
愛しい愛しい私だけのボウヤ。
愛しい愛しい私だけのアナタ。



開いた紅い瞳に舌をそっと触れさせる。
つるぅっと滑らかな瞳の上を舌でゆっくり這わせていく。ぞくりと背筋が震える。宝石を舐めたような、赤い果実のような、蜜のような甘さが舌を捕らえた。
そんなはずが無いとわかっているのに。
私は何度もシンの瞳を舌で舐める。

恋人ではない。
でも、私はそれで構わない。



「今日は一緒に寝てあげるわね。温かいミルクを入れてあげる。一緒にお風呂にも入りましょう。気の済むまで、怖くなくなるまで、ずっと私が一緒に寝てあげるからね。ええ、シン君がゆっくり眠れるように、抱きしめて、朝までずっと寝ましょう。私が抱きしめてあげるから安心しておやすみなさい」


回された手の力強さが彼の肯定の意を表している。
そっと包むようないつもとは違い、しがみ付く様な力強さ。
背筋をつるりと撫でる指先は、頼りなく震えながら掻き寄せるように腰を掴む。
男としてのシン・アスカが発情して私を求めているのではない。
悪夢に怯える子供のようなそれは、けれども、本能に近い場所の傷跡が発する飢え、禁断症状のそれに近い。
今の自分を維持するために、何恥も外聞もかなぐり捨てた行動。


恋人ではない。
でも、私はそれで構わない。
だって、私は彼にとっての『麻薬』でありさえすればそれでいいのだから。



























風邪治らねぇ〜〜食べ物味しねぇ〜〜鼻水止まらねぇ〜〜



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小説
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インターフォン ホラー映画 電子ロック インスタントコーヒー 缶コーヒー デスティニー クリスマスプレゼント ポーカーフェイス サプライズ ストライクフリーダム
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2 コメント

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Unknown (BBE)
2010-02-27 03:17:34
シンにとってルナマリアって、幼なじみとヤっちゃったみたいな感覚なのだろうか?
ルナマリアが出来過ぎるからシンとしても居心地が良すぎて関係が発展しそうにないわ。
 
ロミナママンおっかねえ……。シンはひたすら痛々しいが、ロミナママンの倒錯ぶりというか何というか…。
Unknown (FE)
2010-02-28 13:47:09
何かここのラクスとロミナママン見ているとラオウを思い出す…
「誰を抱こうがどんなに汚れようがかまいません。最後にこのラクスの横にいればいいのです!」
「誰を抱こうがどんなに汚れようがかまわないわ。最後にこのロミナの横にいればいいのよ!」
テレッテー

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