風をうけて vol.3

お引越ししてまいりました。
拙いブログですがよろしくお願いします。

「ニッサン童話と絵本のグランプリ」下書き原稿です。

2017-06-18 04:42:45 | 童話
    「かばん屋のゆううつ」
 秋も深まり山にはそろそろ雪が降り始める季節になりました。そんなある日の午後です。ひとりの紳士が困り顔で公園のベンチに腰かけています。膝の上には肩にかけるベルトがぷっつりと切れてしまったかばんが置かれています。紳士はしばらく考えている様子でしたが、やっと何かを思いつたのでしょう。重そうなかばんを抱え、町の方向へと歩きだしました。そして、紳士は一軒のかばん屋を見つけだし、その店の前で立ち止まりました。

「ごめん。ご店主、ご店主はおるかな。」
「はいはい、ただいま。」
店の奥からお腹がぷるんと出っ張った店主が慌ててやってきました。
「お待たせいたしました。いらっしゃいませ。
今日はどのようなご用件で。」
紳士は切れたかばんのベルトを差し出し、
「これを見てくれたまえ。見事にぷっつりといってしまった。これを何とか修理していただきたいのだが。」
かばん屋は、切れたベルトとほどけた縫い目を念入りに見ていましたが、首を三回ふり、
「旦那様、これを修理するのはもう無理でございます。お気に入りのかばんでしょうが、どうです、ここはひとつ新調してみては。」
かばん屋の顔がほころびます。
「しめしめ、今日はこれで上客が三人目。こりゃ儲かるわい。」

 それは今朝のことでした。慌てた若者がかばん屋に駆け込んできました。
「かばん屋さん、このかばんのカギを失くして困っているんです。なんとか開けてもらえないでしょうか。」
今が朝食のかばん屋は、食事のじゃまをされたと機嫌がよくありません。
「さあね、ぼっちゃん。私はカギ屋じゃございません。そりゃね、カギのなくなったかばんはもう使えませんぜ。よろしければそのかばん、私が処分しておきましょう。」
若者はがっかりして、「そうですか」と言い残し帰っていきました。若者のおいていったかばんは茶色の大きな革かばん。二、三日分の旅の荷物なら楽に入るくらいの大きさです。
「こりゃ儲かった。こんなカギぐらいちょちょいと開けられるさ。」
かばん屋は机の引き出しから針金やねじ回しを持ち出し、あっという間にかちゃりとカギを開けてしまいました。かばん屋は満足そうにふふっと笑ってそのかばんをきれいにみがき、店の商品の棚に並べてしまいました。

 そこに今度は品の良いご婦人が日傘をさしてやってきました。
「ごきげんよう、かばん屋さん。」
「いらっしゃいませ、奥様。何かお探しでしょうか。」
どうしたのでしょう。今日はかばん屋には珍しく休む間もありません。
「かばん屋さん、わたくし、これから旅に出るのですが、ちょうどいいかばんがなくって困っているの。何かいい物がないかしら。」
かばん屋は心の中で「しめた!」と叫んでしまいました。さっきの若者の革かばんを売りつけてやろう。こりゃ大儲けだぜ。
「奥様、このかばんなどいかがでしょう。この茶色の革は最高級品でございます。」
ご婦人はそのかばんが気に入った様子。
「まあ、素晴らしいですわ、この色つや。気に入りました。」
そう言ってかばんを開けようとするご婦人。すると、かばん屋は顔を曇らせて言います。
「ですが奥様、このかばんにはカギがありません。ちょっと不便ですが、それでもよろしければお買い上げくださいませ。」
「そうですか。それは残念ですね。」
と、言ってご婦人は諦めかけています。まずいと思った口の巧いかばん屋は慌てました。
「奥様、これはお値打ちですよ。奥様でなくてもきっと直ぐに売れてしまうでしょう。」
ご婦人は頬に手をやり悩んでいる様子。
「それでは、こうしていただけないかしら。」
ご婦人はそう言って、自分のそれはそれは上等そうな手提げかばんを差し出しました。
「ちょっと古いかばんですが、これと交換していただくとうのはどうでしょう。かばんがふたつあっても仕方ないですものね。」
そう言われてかばん屋は、ご婦人のかばんをまじまじと見つめて考えました。
「どうせ、ただで手に入れた革かばんだし、あの手提げかばんの方がよほど立派じゃないか。ここは取り替えても損はないな。」
かばん屋はにこやかな顔をして言います。
「よろしゅうございます。奥様に喜んでいただけるならそういたしましょう。私は儲けよりもお客様に喜んでいただきたいのです。」
ご婦人は満足そうにその革かばんを抱えて帰っていきました。かばん屋はご婦人の手提げかばんをぴかぴかに磨き上げ、あの革かばんの代わりに店の棚にまた置いてしまいました。

そんな時です。あの紳士が現れたのは。
「旦那様、このかばんなどいかがでしょう。」
紳士に差し出されたのはご婦人の持ってきたぴかぴかの手提げかばん。
「ほう、きれいなかばんだな。それにこの頃、肩がこってな。肩掛けが少々辛くなってきたところだ。そうだな、それをいただこう。」
「ありがとうございます、旦那様。」
かばん屋は笑いをこらえるのに必死です。
「旦那様、その切れてしまったかばん。よろしければ私が処分しておきましょう。」
「おお、それは助かる。」
かばん屋はそのかばんを修理してまた売ってしまおうと考えているのです。紳士はそんなかばん屋の悪だくみも知らず、自分のかばんから大事そうに置時計を取り出しました。
そのあまりに立派な置時計にかばん屋の目は釘づけ。かばん屋は魔法にかかったように、その置時計がどうしても欲しくてたまらなくなってしまいました。
「旦那様、大変立派な時計をお持ちですね。」
いかにも物欲しそうにその時計を見回すかばん屋に紳士は言いました。
「これはな、春を告げてくれる大切な時計なのだが、それ程気に入ったのならこのかばんと交換ということでどうです。」
かばん屋はびっくりしています。
「春を告げる、ですか。よく分かりませんが、よろしいんですね、時計をいただいても。」
と言って、その置時計をさっそく抱きしめ、子供のように小躍りをして喜んでいます。
そんなかばん屋の姿を見ながら紳士はぴかぴかのかばんを下げて帰っていきました。

翌朝のことです。また慌てて昨日の若者がかばん屋にやってきました。
「かばん屋さん、カギが見つかったんだ。ボクのかばんを返してくれよ。」
今朝も食事のじゃまをされたかばん屋は不機嫌です。
「ぼっちゃん、そりゃないですぜ。処分してもいいって言うから・・・。」
と、言いかけてかばん屋はごくりとつばを飲み込みました。
「処分したのはこのかばんのことですか。」
なんと、若者の後ろにはあの品の良いご婦人が今日も日傘をさしてそこに立っているのです。そして、手にはあの茶色の革かばん。
「お母様、ありがとうございます。お父様もこっちにきてください。」
驚いたことに、ご婦人の横にはあの紳士もいるではないですか。紳士は涼しい顔をして言います。
「やあ、かばん屋さん。ああ、その棚に置いてあるかばんは私のかばんですね。」
かばん屋は案の定、紳士のかばんを直して、ちゃっかり店の棚に置いていました。これまでの悪だくみが全部ばれてしまったかばん屋の顔は、見る見るうちに青ざめていきます。
「かばん屋さん、私の時計とかばん、返してもらうよ。いいね。」
かばん屋はそう言われるとむきっと顔をあげ、
「旦那様、そりゃないですぜ。全部直したのはこの私で・・・。」
と言いかけて、口をつぐんでしまいました。
なんと、三人の目がけもののようにギラリと光ったのです。紳士は棚にある自分のかばんに手をやりながら、
「そうですか、それではその時計だけはお礼の代わりに置いていきましょう。」
「ちっ」と、舌打ちしたかばん屋でしたが、
仕方ありません。この時計だけでも手に入ったのだからここは我慢するかないようです。
「旦那様、ありがとうございます。」
そう言いながらもかばん屋は悔しくて仕方ありません。三人の帰える後姿をしばらく見送っているとそのお尻からポンっと茶色いしっぽが飛び出たのが見えました。「あっ、やられた!」かばん屋は慌てて時計を見ましたが、それは目を疑うような、ただの汚いガラクタ時計。どうしてこんな物だが欲しくなったのか不思議でなりません。かばん屋は力が抜け、へなへなと座り込んでしまいました。

「父さん、上手くいったね。拾ったかばんがぴかぴかだよ。人間って面白いね。でも、大事な時計なのに、あげちゃって大丈夫なの。」
「ああ、本物はこれから行くあなぐらに大切においてあるから大丈夫だ。安心しなさい。」
「さあ、あなた達、これからこのかばんに冬の間の食べ物をたんと詰め込みますからね。また上手く人間達をだますのよ。」
「分かったよ、母さん。そんなの簡単だよ。ねえ、父さん。」
そんな三匹の笑う声が、秋の風に乗って遠くから聞こえてきました。
今年の冬も寒くなりそうです。


ハイ、見事に落選いたしましたわ。
ここも厳しい世界でございます。
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4 コメント

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かばん屋のゆううつ (げたのうら)
2017-06-18 08:29:40
楽しい童話読ませていただきました。

情景が浮かんでテンポ良いお話に引き込まれてしまいました。とっても楽しいお話ありがとうございました。
一路さん、素晴らしい才能だと思います。

落選とのこと残念でしたが、新作の投稿また楽しみにしていますよ。
見事に…! (yoppe)
2017-06-18 19:20:41
金髪のイケメンの背の高い青年と、口髭の囃した清楚な紳士と、上品でブルーのドレスアップしたご婦人をイメージしながら、いかにもケチくさいかばん屋の主人とのやりとりを想像しながら読んでました。最後にやられましたけど~
ズルいことはできないのですね✨
げたのうらさん (一路)
2017-06-19 14:34:29
ありがとうございます。
そうして読んでいただけるととっても嬉しいです。

賞は賞としいして、書いているときは必死で・・・(笑)
そんな時を、充実してるなって、少しは楽しめたかな、って思えることが一番大切じゃないかな、なんて思っています。
これも趣味。
色々なことで楽しんで行こうと思っています。
yoppeさん (一路)
2017-06-19 14:40:34
ああ、そんな想像をして読んでくださったんですね。
本もそうですが、ひとそれぞれにイメージがあって少しづつストーリーに違った色が付く。
そう言うのっていいですよね。
想像は読まれる方によっていろいろですから。
いやいや、そうしたご感想、とってもためになります。
ありがとうございます。

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