ひまわり博士のウンチク

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燐光群『天使も嘘をつく』を観る

2016年11月20日 | 演劇

 
 クソ忙しいのでこのところ、せっかくの招待を息子に譲ってきたので、たまには観に行こうと思い立った。
 ゲストに竹下景子が出ているのも理由の一つだ。
 初日が18日なので、できればもっと後の方で観たかったのだけれど、先の予定が見えないので、なんとか時間を捻出できる19日のマチネにした。
 案の定台詞がこなれていなくて、聞き取りにくいこと甚だしい。そもそも坂手さんの芝居は台詞が重要なのだけれど、役者達が自分の台詞を理解していないせいなのか、ほとんど段取りになっていてメリハリがないのだ。決してへたくそな劇団ではないので、稽古不足なのだろう。
 
 ステージに数段の段差を設け、背景に褐色の太い柱が4本立っただけのシンプルな装置だ。転換は椅子やフェンスやテントなどを象徴する道具の出し入れで行う。
 舞台は沖縄の離島の一つ。メガソーラー発電所が建設されるはずであった場所が、自衛隊と米軍の共同使用を目的とした軍事基地に取って代わろうとしている。
 ヒロコ(竹下景子)はドキュメンタリー映画を撮影するために、クルーを伴って訪れ、そこに住むさまざまな人間の姿を目の当たりにする。
 沖縄戦の体験を話す老女、中国や北朝鮮の脅威を語るビジネスマン風の男。尖閣諸島の問題、米軍基地の問題、領有権の問題など、作演出の坂手洋二は登場人物を通して言いたいことをこれでもかとばかり語る。
 実はこれがあまりうまくいっていないと感じた。台詞を割り振っただけで、登場人物のキャラがまるで立っていない。役者の技量の問題か、脚本、あるいは演出に問題があるのか、稽古に立ち会っているわけではないのでなんとも言えないが、そのために台詞の内容が観客に伝わりにくくなってしまった。
 おまけに、芝居の内容そのものが難解で、社会情勢に疎い人にとってはチンプンカンプンだったろう。辺野古はまだしも高江は聞いたこともない、泰麺鉄道に至っては何のことやらさっぱりわからないという人が、世の中の大半である。これが本であれば、脚注をたくさん付けなければならないような台詞内容なのだ。しかも、出演者の何人かは滑舌が悪くて聞き取りにくいのだから、竹下景子目当てでやって来た客にとって、この2時間半は拷問だったろう。実際あちらこちらでいびきが聞こえた。
 
 しかし、何の収穫もなかったわけではない。ウクライナ領であったクリミヤ半島が、住民投票でロシアに併合されてしまった例があるが、住民がそれを望んだとしたら、果たして悪いことなのか。
 沖縄の離島の住民が「自分たちは中国に帰属したい」と望んだ場合、戦争を起こして犠牲者を出すくらいなら、併合を認める方がいいのではないか。坂手洋二は、この芝居を通して、「戦争をして人が死ぬのは見たくない。一人の犠牲者も出さないためには、その地域に住む人々の意思を尊重し、もし日本ではなく他国への帰属を望むなら、それを認めるべきだ」という大胆な提案をなした。国よりも住民の意思を尊重すべきという考えだ。
 これこそ究極のグローバリズムだ。
 日中国交正常化のとき、周恩来は尖閣諸島問題にはどちらの国も触れないこと、つまり、何十年何百年という時間をかけて自然に結論がでることを待つ、「棚上げ論」を提案して田中角栄もそれを了承した。さらに、その後来日した鄧小平は「中国と日本の関係は〝小異を残して大同に従う〟道をとるべきだという言葉を残した。友好関係を最優先事項とすること、それをすべてぶちこわしたのが、石原慎太郎だ。尖閣諸島を東京都が買いとり所有するなどとバカなことを言い出した。自民党政府はもっと大バカで、だったら国で買うとなった。
 こうなると、「日中国交正常化」での約束は反古にしたのに等しい。
 
 坂手洋二の言う、「戦争をするくらいなら領有権は渡してしまおう」は一瞬乱暴に聞こえるかもしれないが、何百年何世紀というスパンで考えたとき、国境が自然と動き、いつのまにか消えていくこともあるのではないか。それは過去の歴史から見ても十分あり得ることだ。
 この日、偶然客席内で杉並区議会議員のI女史に出会った。終演後聞いた話だが、近くにいた女性客が、この「上げちゃえば」発言を聞いて「えええ!」と驚きの声を上げたそうだ。まあ、大半の人は理解不能だったのではなかろうか。もう少しわかりやすい説明が必要だったと思う。
 これ一つとっても、予備知識のない客には難解な芝居であったろうと感じた。
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