「短い小説」岳 洋著

ひとり静かに過ごす、土曜の夜のひと時・・・

 

「二通の手紙」寂しい終の訪れが・・8

2017-07-13 23:13:43 | 日記
観光客はいなく静な美術館だ。

涼子は珍しい物に巡り会えたかのように小声で歓声を上げていた。 
兜の家紋と言うのか、虫の百足が奇妙な姿で、兜の正面に付いているのに驚きを隠せなかった。
  「もっと 勇猛果敢な動物にすればよいのに・・」
と、理解不足な怪訝な顔を見せていた。
建てつけの悪い窓枠が隙間風でカタカタと小さな音を立てていた。
  「今日は、これで帰ろう。風邪を引いたかも知れないし、いまからだと、夕刻には着 くよ」
と、促しながら外にでた。
 
風がでてきたのか、周りの木々の梢が揺れて微かな擦れ合う音が聴こえてきた。
「山の木枯らしの吹く姿が何とも言えず、いいね」
と、元気を誘う言葉を投げた。
涼子は聞こえているのか聞こえないのか、黙って助手席のドアを開けて座った。 
 
いつもの、抜け道を通り中強羅から強羅公園の前を抜けて宮ノ下、塔ノ沢へと山道を下った。
早川のせせらぎの流れる音を後に小田原へでた。 
涼子は眼を瞑って何ものにも触れられたくない様子だった。
  「気分はどうなの。 大丈夫か」と、
あれから、ひと言も話かけてはいない。 
国道2号線を走り、車の揺れもなくなったので、声をかけた。 
  「ごめんなさい。もう、落ち着いたから・・」
落ち着くとは何が・・。 何故か訝った。 
詮索をしないで、ただ、車を走らせた。
  「風邪かしら。ごめんなさい。もう、平気よ。」
空元気な声ではしゃいだ。 
  「無理しなくていいよ。 強行軍だったし・・。 帰ったらよく寝ることだね」
洗足池の近くに来ると
   「ここでいいわ。止めて」
いつもより、自宅から離れた道角だった。
  「きょう、本当にごめんなさい」「ごめんなさい」
と、逃げるように、薄暗い街灯の下を小走りに去っていった。 
いつもなら、次に会う場所と待ち合わせ時間を決めていた。 
去っていく後姿を眼で追いながら車を動かした。 



 東京オリンピック開催に向けて昼夜を問わず工事が進められていた。 

首都高速道路も同じだ。 何でも、諸外国から、あの程度の規模の高架道路に「高速道路」
と名前を冠するとは・・と揶揄されたりした。
 
その工事中の脇を通り過ぎて深沢の家に向かっていた。 
明日は朝早く明治神宮の代々木参道に行かねばならない。
早く箱根から戻って来られたので睡眠不足の心配はなくなった。
 
 (つづく)
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