「短い小説」岳 洋著

ひとり静かに過ごす、土曜の夜のひと時・・・

 時代が大きく変わろうとした終戦時に生きた
若いふたりの物話です。

「二通の手紙」寂しい終の訪れが・・9

2017-07-15 08:44:10 | 日記
枕元の目覚まし時計が五時に鳴った。
 
別室に寝ている親や弟妹を起こさないように身支度をして家をでた。 母が就寝時に、そうと海苔巻のおにぎりをつくって置いて呉れていた。 

車を走らせながら朝の空腹を満たした。 
現場は建設中の中央高速道路の代々木インターから未開通の道路をマスコミに、ご披露する中央公団にとって未曽有の完成前セレモニーだった。
各自動車会社はもとより各タイヤ会社の広報担当者は総出の賑わいだった。
車のコマーシャル制作にと各自動車会社宣伝部は撮影の場所取りに広告代理店の制作スタッフと共に開通前の高速道路の上を走りまわっていた。 
今日は逆走も許されていた。 
あの急坂も逆走が許されたのは後にも先にも、この時しかない。

実は数あるクアイアントのなかで、その業界では後発に位置する若い企業に的を絞り、通い詰めて、その努力が実り、今では4媒体のうち2媒体を任せてもらえるまでになっていた。


交換台から「お電話です」

いつもの明るい声で涼子からの電話だった。
  「ごめん。ここのところ仕事が重なり気にしていたところだった」
と、詫びた。
田町駅の改札口で待ち合わせをした。
会社帰りの時間帯と重なり改札ロビーは人いきれで混雑をしていた。 
涼子はこの人混みの中で声にならない声を出して手を振った。 
  「凄いね。この人混みは・・久し振り・・やっと、会えたね」
  「やはり、平日は無理ね」
ふたりしてタクシー乗り場に駅舎の階段を下りた。 
  「東京タワーの直ぐ近くの「ボルガ」と言うレストランへお願いします」
と、タクシーに乗りドアが閉まると運転手に行き先を告げた。 
  「新しく開拓をした店でね。バンドがあってリクエストが出来るんだ」
一か月ぶりの再会で興奮をしていた。
店に着くと、ロシア正教時代のモスクの門構えで民族服に身を包んだドアマンが迎えて呉れた。 
中央の席に座ると、丁度バンドマンたちが舞台に戻りショウータイムが始まろうとしていた。
ロシア民謡は学生時代から好きでロシア語のレコード盤セットを大事にもっていた。
時折、休日にレコードプレヤーで聴いていた。 
「ね。この夏に合宿していた上高地に行かない。もう一度、あの頃に戻りたいの」
涼子は眼を輝かしてせがんできた。
 「行きたいね。 もう一度、青春を呼び戻したい・・だね」
 「そうよ」
涼子はわが意を得たかの顔をして頷いた。

 (つづく) 

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