「短い小説」岳 洋著

ひとり静かに過ごす、土曜の夜のひと時・・・

 時代が大きく変わろうとした終戦時に生きた
若いふたりの物話です。

[二通の手紙」 寂しい終の訪れが・・12

2017-07-17 10:24:14 | 日記
当時電話連絡をしようにも、長距離通話は交換台に申し込んで数時間待たされた。

夜遅く電話が繫がり涼子は母親に小さな声で何かを伝えている様子のようだった。
軽い疲れからきたもので大事には至らなかった。  
こんなことがあり、涼子と会う機会が仕事の繁忙と重なり暫く間をおいた。
もう、ひと月近く会っていない。 
元気付けに映画でも観に行かないかと手紙にして投函をした。
珍しく会社に電話が鳴った。 涼子からであった。
  「随分会ってない気がするよ。ところで、その後、体調の方はどうなの・・」
と、息を弾ませて聞いた。 
  「大丈夫よ。ご迷惑をお掛けしました。お電話をしようと思っていたの・・、映画でなく積もり積もったお話がしたいの・・」
  「そうか、ここのところ涼しくなってきたので、歩くのにも良いね」
  「夕食は良い店を開拓しておくよ」
  「期待して楽しみにしているわ」
短い会話で電話を切った。

 東横線自由が丘駅の改札口で待ち合わせた。 今日は休日。 奥沢の自宅を早やめに出た。 
何時もの通り、やはり涼子は先に着いて待っていた。 
  「おはよう。今日は山手教会や外人墓地、テニス発祥地などいろいろと調べておいたよ」
  「それから、夜は良いレストランを見つけたぞ。 バイオリンの引き語りをするドイツ料理店だよ。でも、ジャガイモ料理が多いかな。 東横線で桜木町まで行こう」
久ぶりのふたりは感情が高揚していた。
自由が丘駅の桜木町方面ホームは高架にあった。歩きながら・・
  「大桟橋までタクシーで行って、そこから海岸沿いを歩こう」

ここ日本大通りの銀杏並木は初秋の陽ざしを一杯に受けて黄色い葉が乱舞しているようだ。
  「ここまで来たので、グランドホテルで美味しい珈琲でも飲んでひと休みしよう」
戦火を逃れた古い歴史のあるこのホテルは毅然とした佇まいをみせていた。 
ふたりはロビー奥の喫茶ルームに案内され窓際の席に座った。 
珈琲を頼むと好きなサイコロ型のコーヒーシュガーがテーブルに置いてある。 
やはり、このホテルならではとひとり喜んでいた。  
今日は、横浜の港を散策し、山手教会の通り近くまで足を伸ばすのを忘れてしまいそうになった。 つい、話に夢中になってしまっていた。

 山手教会の近くまで来ると、近くのインターナショナルのプライマリー・スクールの高学年生が横断歩道で交通整理をしている風景に遭遇した。
ここ山手は戦前の外人居留地であった。
ふたりは小さい低学年の子の面倒をみている微笑ましい光景に思わず立ち止まった。 
そして互いに眼を見合わせて微笑んだ。 ふたりは家庭を夢見ていたのかも知れない。

(つづく) 
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