「短い小説」岳 洋著

ひとり静かに過ごす、土曜の夜のひと時・・・

 

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夢で逢いたい人・・・1

2017-08-05 21:10:48 | 日記

夢で逢いたい人

                                岳  洋 著


 傘寿を迎えた老人の青年時代に十数年も昔になるのか、もっと昔なのか・・・いまだに記憶に残る夢があった。 
この不思議な夢をいつしか「夢で逢った人」に、「夢で逢いたく」なった。 
 
 元来、夢は朝、起きるとともに消えて覚えていないのが夢であると、よく言われている。
 
あれから幾夜寝ても逢わない・・・・・・。

 何時しか、夢の中に入ってしまったようだ。

 夏日の強い或る日、ひとりの青年が千曲川沿いを、素朴なたった一両の車両に乗り野沢温泉らしき駅で下車をした。 初めてなのか青年は人気のない駅のホームで辺りを見回していた。 

 青年は照り返しの強い日照りの中を、汗を拭き拭き山間に向かって歩いていた。 そして、大きな冠木門のある豪農の家の前に辿り着いた。 ここの家を訪ねるつもりでいたようだ。 
青年は敷居を跨ぎ敷地内を覗いた。数人の家人が掃き寄せられた落ち葉を季節外れの焚火で燃やしながら談笑をしていた。 
人の気配を感じ話し声が途絶え、ひとりの若い女性が青年を凝視した。  
女性の首のあたりは肉腫なのか太く腫れていた。 
女性は懐かしそうな笑みをたたえ、いまにも何かを言いかけようとした時、青年は何か見てはならないものを視てしまったと言う顔になった。 反射的に顔を背けた。 
女性の顔は悲しい、寂しい顔に・・・。女性は病を発症し養生のために古里に戻ったのだ。 
いつ瞬とは言え顔を背けた・・・青年は顔を戻した。

   それから,永い年月が流れ、・・移り・・時代も変わった・・・。
   
 青年は車窓から遠ざかる晩秋の山肌を物思いに眺めていた。
 もう、何年になるのかな~。 と頭の中で思考した。 
まだ、北陸新幹線も走っていない信越本線の時代だった。 携帯電話もなかったな~。 いまじゃ、何でも欲しいものは手に入る時代になった。 当時は努力せねば手に入らぬ時代で地道な努力をしたものだ。 いずれが幸せな時代なのか分からない。 

あれか四十五年の月日が流れた。 青年も傘壽を迎えた。
 
脚が大分弱くなった。 これが最後の訪れかも知れない。

 美子と知り逢ったのは確か東京オリンピク開催の翌年だった。 気づくとまた2020年に東京でオリンピックが開催される・・・。時折、車窓の外を観ながらひとりもの想いに更けていた。  

 今日も、この新幹線に乗るのに東京駅でなく、上野駅まで山手線で乗り過ごし、すでに東京から買い求めてある自分の座席指定席に座るのに拘わった。 
昔、星野温泉へは上野駅発で行った想い出が強く残しておきたかった。

(つづく)


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