ガジ丸が想う沖縄

沖縄の動物、植物、あれこれを紹介します。

バナナ泥棒

2016年06月03日 | ガジ丸のお話

 畑のバナナが1房、数ヶ月前から垂れ下がっていた。季節が冬だったこともあってなかなか色付かなかったのだが、5月中旬になって上部の1列が黄色くなり始めた。「明日には収穫した方がいいな」と思ったその明日、朝、畑に行ってすぐにバナナを見る。ところが、収穫しようと思ったその1列がごっそり消えていた。何者かに盗られたようだ。
     
 私の畑(借り物だが)ナッピバル(と名付けた)の番鳥(ナッピバルに住みついているイソヒヨドリ)が近くにいたので、呼んで、「何か知っているか?」と訊いた。
 「念のために言っておくが、俺じゃねーよ。」
 「分かっているよ、お前はバナナを食べないし。」
 「盗られるところを見ていないからなぁ、何とも言えないなぁ。」
 「ここ数日、怪しい奴が畑に来たことはないか?」
 「俺の女房は知っているか?」
 長い間独身であった我が畑の番鳥、河原万砂(かわらばんさ、私の命名)にも昨年春やっと恋人ができ、結婚もした。そして、今年もまた、同じ相手かどうか不明だが、めでたくゴールインしたようで、彼女も今、ナッピバルに住みついている。彼らの寝床は隣の藪の中にあるようで、彼女を目にする機会はバンサを見る機会よりずっと少ないが、それでも、時々仲良さそうに並んで立っているのを見る。
     
     
 
 「あー、そうか、言い忘れていた、結婚おめでとう。」
 「あー、ありがとう。そう改めて言われると照れるなぁ。」
 「どうだい、結婚生活は?子供はできたか?」
 「子供は3羽、女房が面倒みているが、俺も餌をやっている。大変だよ子育ては。」
 「女房とは上手くいっているのか?」
 「指図好きな女で、俺も扱われているよ。お前が結婚しない理由がよく解るよ。」
 「ふーん、そうか、鳥の世界でもそうなのか。いや、そんなことよりバナナ。今日食えるかと思っていたんだ、犯人を捜し出してやる。怪しい奴を見なかったか?」
 「虫どもは除外して、バナナを食えるほどの大きさで俺の女房以外だと、そうだな、ヒヨドリ、シロガシラ、メジロなどはよく見るし、カラスもたまにやってくるが、奴らがバナナ食う時は突っついて食う、その場合実は残る、ごっそり消えることはない。」
 「うーん、そうか、番鳥のお前が言うんだからそれはきっと確かだろう。そうか、それじゃあ、バナナをごっそり食いそうな奴は他にいないかなぁ?」
 「バナナをごっそり食いそうって言ったら、オオコウモリかなぁ、向かいの森に何匹かが住み着いているってのはお前も知っているだろう?」
 「あっ、そうか、そうだったな、オオコウモリがいたな。犯人はオオコウモリか。」
 「いやいや、そう早合点するな、犯行現場を見ていないから断定はできないぞ。確かにオオコウモリの可能性もあるが、もう1匹、容疑者はいるぜ。」
 「もう1匹?何者だそいつは?」
 「うん、もしかしたらマングースかもしれない。奴は木登り上手だ。」
 「あっ、そうか、マングースもいたか。そうか、マングースか。」
 「あー、どちらかというと、犯人はマングースの可能性が高いと俺は思うな。」
     

 そういえばそうなのだ。この辺りでバナナを食う奴と言えば、犬や猫ももしかしたら食うかもしれないが、人間の他にはオオコウモリかマングースしかいない。犬や猫はこの房の高さまで届かないし、人間なら、どうせ盗むんだったら1列だけじゃなく房ごと持って行くだろう。そして、バナナの房はバナナの葉に隠れて空から見えないからオオコウモリの目には気付かない可能性が高い。マングースは地面を走り回る、下からだとバナナの房は丸見えだ。バンサの推理通り、犯人はマングースの可能性が高い。
 で、さっそく、マングース対策をする。房に袋を被せた。2列目が熟する頃となった2日後、袋を開けてみるとバナナは無事であった。ただ、無事で食えたのではあったが、房のあちらこちらにヤスデなどの小さな虫が着いていた。
     
 さらにその3日後、3列目が熟する頃となった、袋を開けてみたら、3列目の半分は腐ったようになっていて、残りの半分も何者かに食われた跡があった。房にはヤスデなどの小さな虫がわんさか着いていた。3列目は1本も食えなかった。
 袋を被せると風も太陽も当らないジメジメした環境となり、そんな環境をヤスデなどの小さな虫たちが好み、わんさか発生したものと思われる。
     

 虫に食われたバナナを地面の上に並べて、未練がましく写真を撮り、失ったものを残念に思いながら「あーぁ」と溜息ついていると、バンサがやってきて言った。
 「房に着いた虫は俺たち鳥の食い物だ、袋を被せるとよ、房に着いている虫に俺たちは気付かない。だから、虫たちにとっては袋の中は天国みたいになるんだろうな。」
 「知っているんだったら先に言えよ!バーカ。」
 「知らねぇよ、バナナの房に袋を被せたのは、お前も初めてだろうが、俺だって初めて見たことだ、人間のお前なら、そんなこと本で読んで勉強しとけよ、バーカ。」
     
 うっ、確かにバンサの仰る通りだ、鳥ごときに「バーカ」と言われて腹は立つが、不勉強の私に非はある。しょうがない、この失敗は良い勉強になったと思うことにした。バナナ泥棒がいる、犯人はおそらくマングース、そして、通気性の悪い袋を被せると袋の中に虫がわんさか発生する、などということを私は今回勉強できた。
 バナナの房にはまだ3列の実が着いていた。房を切り取って小屋の中で保管し、そこで追熟させ、後日、美味しく頂いた。バナナ泥棒の真犯人はまだ判っていないが、明日のための勉強もできたし、めでたしめでたしということで、この話はお終い。
     

 記:2016.5.28 ガジ丸 →ガジ丸の生活目次