ガジ丸が想う沖縄

沖縄の動物、植物、あれこれを紹介します。

ケラマジカ

2011年04月21日 | 動物:哺乳類

 ふん、ふん、ふん

 心も体も、いつも真っ直ぐ立ち、真っ直ぐ正面を見据えている。いつも自分に厳しくあり、心の中に他人を思いやる余裕をいつも持ちつづけている。長い年月そうしてきたことの結果は、その人の顔になり、その人の人間としての魅力となっているのだろう。
 私は大概、怠け者ではあるが、その人、高倉健のようなオジサン、あるいはジイサンになれたらいいなあなどと思っている。無理とは認識しているが。
 憧れの人というのは男性だけでなく女性にもいる。子供の頃、高倉健のような男になりたいと思い、大人になってからは高倉健のようなオジサンになりたいと思い、オジサンになってからは高倉健のようなジイサン(には見えないが)になりたいと思っていたのと同様に、女だったら、こんな女になれたら最高だろうなあという憧れ。

 液晶テレビのコマーシャルをしている吉永小百合は、御歳60歳になるらしい。とてもそう見えないし、なおかつ、歳取るにつれてさらに魅力が増しているようにも思える。知的であり、上品であり、心の優しさがオーラとなって全身から漂う。
 そんな彼女が昔、雲子の歌を歌っていたという。雲子といっても鹿の糞。
 「奈良の春日の 青芝に 腰を下ろせば鹿の糞 フンフンフン黒豆や・・・」と歌う。鹿の糞が黒豆のようであるというのは解るが、しかし、何でまた、糞、糞、糞と連呼する必要があるのか。吉永小百合が、鹿の糞が大好きみたいに聞こえるではないか。
 一昨年、奈良を旅した。別に鹿の糞を見に行ったわけではないが、思った以上に鹿がいて、芝生の上には確かに黒豆もあった。黒豆はあったが、歌にするほどの価値があるかどうかについては理解できず、まして、吉永小百合が歌う意味については全く理解不能。

 沖縄にもごく少数だが、鹿がいる。慶良間諸島にのみ生息するケラマジカ。17世紀に薩摩から移入されたらしい。鹿は農耕の役には立たないので、おそらく食用として移入されたのだろうが、沖縄の日常食に鹿肉料理は無いと思う。特別なものなのであろう。
  冊封使(簡単に言うと、お前を琉球国王として認めるという明国の使い)を接待したときの料理にシカ肉料理がある。それは、『琉球冊封使一件』(1808年)などに記されている。接待料理の大部分は中国料理で、シカ肉料理もその一つ。
 とん鹿肉(とんしかにく):鹿肉の蒸し煮。
 鹿筋(しかきん):鹿のアキレス腱を使った料理。
などが記されている。文献には、材料は中国から取り寄せたとある。接待料理はなるべく地元の材料を用いようと、当時の役人、特に薩摩の役人が考えて、で、慶良間で鹿を繁殖させようと考えたのかもしれない。実際、使ったのかどうかは不明。 

 
 ケラマジカ(慶良間鹿):ウシ目の野生動物
 シカ科の哺乳類 アジア東部に分布 方言名:コーヌシシ
 慶良間諸島に生息するシカなのでケラマジカという名前。シカは、古い時代にはイノシシを含め単にシシと言い、イノシシと区別する際にカノシシと呼んだらしい。シシは獣のことを指し、猪(い)の獣(しし)、鹿(か)の獣(しし)という意味となる。カがシカになった由来は不明。方言名のコーヌシシはカノシシの沖縄語発音だと思われる。
 『沖縄大百科事典』によると「『琉球国由来記』に、ケラマジカは1628~44の間に薩摩から慶良間諸島に移入された」とのこと。また、「元は、渡嘉敷島、座間味島などにもいたが、農作物に被害が及んだため駆逐された。現在では阿嘉島、外地島、屋嘉比島、慶留間島に生息している。この内屋嘉比島と慶留間島に住むものが天然記念物として保護されている。」とのこと。1972年に国の天然記念物に指定された。
 ケラマジカは他のエゾシカ、ホンシュウジカ、キュウシュウジカ、ヤクシカ、ツシマジカなどと同様、ニホンジカの亜種として位置付けられている。
 学名はCervus Nippon keramae。

 2010年10月追記
 1983年発行の『沖縄大百科事典』に、ケラマジカの生息数は屋嘉比島、慶留間島、阿嘉島の3島合わせて60頭前後とあったが、1996の琉球新報の記事によると、19
95年の調査では約230頭いたらしい。農作物を荒らす厄介者が、絶滅危惧種に指定されてから保護されるようになり、生息数も増えていったものと思われる。
 夜行性の動物で、しかも臆病で警戒心が強いことから人前に姿を現すことは滅多に無いとのことであったが、慶留間島へ行った友人の息子K1によると、昼間でもその辺にウロチョロしていて、近付いても逃げなかったとのこと。絶滅危惧種に指定されてから、人は危害を加えないということを認識するようになり、人慣れしたものと思われる。
 繁殖期の秋になると、雄は鳴き声を発する。鳴き声に関する資料は無いが、私の耳にはヲー、ヲー、ヲーヲと聞こえ、抑揚があり、2、3分間隔で数回鳴き続けた。

 記:ガジ丸 2005.1.14 →沖縄の動物目次
 参考文献
 『ふる里の動物たち』(株)新報出版企画・編集、発行
 『沖縄大百科事典』沖縄大百科事典刊行事務局編集、沖縄タイムス社発行
 『沖縄身近な生き物たち』知念盛俊著、沖縄時事出版発行