3人は深夜のカウンター・キッチンで、朝子の入れたブラックのキリマンを前に沈黙していた。
裕希はもう、また眠りについた頃だろう。
朝子が口を切った。
「やっぱり裕希くんを早くこの新宿(まち)から出さないとね。」
秀が答える。
「そう素直に帰るかな。和人に完全になついちゃってるし---俺ちゃん同様。」
と、見えない尻尾をぱたぱたと振ってみせた。
「俺はお前の飼い主か。」
和人が呟いた。「とにかく『儀式』も近いし---どうするかな。」
「先刻さ」
朝子が和人に、「裕希くんが変な夢見て魘されたっていうの、あの昼間の『占い師』の事和人が彼の記憶から『封印』したからじゃないの?」
「和人がそんなちゃちい『封印』の仕方するかよ。」
秀はキリマンを一口飲み、「だとしたら、その『封印』を『邪魔』してるヤツがいるってことだぜ、朝子。」
「やっぱ」
朝子はため息をついた。「九桜の側か・・・。裕希くん、狙われちゃってるのね、たぶん。」
「俺とかかわったせいでね。」
和人もキリマンを一口飲み、静かに言った。「あの九桜の側の『占い師』との間に何があったかはわからないけど、裕希もあっちに術をかけられたのかもしれない。」
「そうかもな。」
秀は答えた。
黒縁の伊達メガネを少し上げ、「だとしたら、あちらさんも裕希を『結界(このまち)の外』へ帰したりしないだろう。」
「それより、秀」
和人はそんな彼を目を細めて見つめ、「何か、『臭わない』か。」
「ああ、そうだな。」
秀は、ニヤリ・・・と不敵な笑みを浮かべた。「俺ちゃんたちの出番らしいぜ。」
言うが早いか。
彼は勢いよく席を立ち、ベランダへと向かいそのまま夜空へ飛翔した。
その後を追う、和人。
「気をつけて、2人共!」
朝子はエプロン・ドレスの裾を翻して、ベランダへ駆け寄って叫んだ。「満月はもうすぐよ!」
「オーライ!」
漆黒の天空の彼方から、秀の声だけが舞い降りてきた。
新宿3丁目。
人も途絶えたオフィス街に彼らの姿はあった。
「遅かったか・・・」
白いシャツ姿の和人は路上にひざまづき、冷たいアスファルトに横たわるスーツ姿の女性の首筋に左手をあてた。
そこには、2つの赤い傷跡。
「九桜の側か・・・!」
秀が目を細め、そして周囲を見回して叫んだ。「おらっ!隠れてないで出てこいよ、吸血鬼(ヴァンパイア)ども!」
すると。
その声に反応したかのように、無数の紅の瞳が周囲の闇から浮かび上がった。
「仕方がない・・・。九桜の側にするわけにはいかない・・・!」
和人は苦しげに呟いて、左手を握りしめた。
迸る蒼い閃光。
「ギャーッ!!」
路上に横たわっていたスーツ姿の女性は、一瞬のけぞり、和人を紅の瞳で睨みつけるとそのまま、また路上にひれ伏した。
「今度はお前らの番だ。」
憎しみを込めた翡翠色の瞳が闇に煌めき、その口元には白銀の輝きを持つ2本の牙があった。
秀と和人は、まるで申し合わせたかのように、左右へ散った。
「待てっ!!」
それぞれの後を追う、無数のヴァンパイアたち。
「待とうか?」
秀は一瞬立ち止まり---そのまま、追いかけて来たヴァンパイアの一人に蹴りを入れた。
「ウガーッ!!」
悲鳴を上げて、後の仲間の中に突き出されたヴァンパイア。
たじろぐ、『闇の者』。
「満月真近の狼男(ウルフ・ガイ)をなめちゃいけないぜ。」
不敵な笑みを浮かべる秀。「お次はだーれ?」
その頭上を一筋の碧の光が走る。
と、秀が振り向くのと同時に彼に襲いかかろうとした一人のサラリーマン風のヴァンパイアがその光を浴びて闇に散った。
「秀。」
「悪い、悪い、和人ちゃん。」
秀は、左から襲ってくるニート風の男性を殴り倒し、背に並んだ和人へ肩越しに答えた。
「あと2時間もすれば、夜明けだ。」
和人は左手を振り上げて言った。「俺は九桜の一族を『闇』に葬る気はないんだ。」
「和人・・・!」
「ただ、『光』と『闇』の境界線を越えさせたくないんだ---九桜の二の舞だけはさせたくない!」
哀しげな眼差しで、前方の女性を見つめ左手を振り下ろす---
「キャーッ!!」
その『光』を受け、女性は同様、『闇』に散った。
その時。
周囲の雰囲気が変わった。
和人と秀を襲う、紅の瞳は相変わらず、ただ、『彼女』の『降臨』だけが周囲のざわめきを抑えつけた。
「甘いよ、和人。」
彼女は言った。「その『光(ひと)』の持つ『優しさ』が命取りなんだよ---『闇』を率いる唯一無二の『帝王』としてふさわしくないのだよ。」
「お前は!」
和人は目を細めた。「昼間の・・・」
「そうだよ」
彼女---黒いレースを口元まで覆った女性は、昼間、裕希を『占った』、『占い師』だった。
「お前が裕希を!」
秀は、占い師を睨みつけた。「『術』でもかけたか・・・!」
「違うよ。」
占い師は、うっすらと笑った。「私はあの子が望むようにあの子の運命を変えてあげただけさ。」
口元に2本の牙を宿し----
夜の静間に、女性の高らかな笑い声が響いた。
裕希はもう、また眠りについた頃だろう。
朝子が口を切った。
「やっぱり裕希くんを早くこの新宿(まち)から出さないとね。」
秀が答える。
「そう素直に帰るかな。和人に完全になついちゃってるし---俺ちゃん同様。」
と、見えない尻尾をぱたぱたと振ってみせた。
「俺はお前の飼い主か。」
和人が呟いた。「とにかく『儀式』も近いし---どうするかな。」
「先刻さ」
朝子が和人に、「裕希くんが変な夢見て魘されたっていうの、あの昼間の『占い師』の事和人が彼の記憶から『封印』したからじゃないの?」
「和人がそんなちゃちい『封印』の仕方するかよ。」
秀はキリマンを一口飲み、「だとしたら、その『封印』を『邪魔』してるヤツがいるってことだぜ、朝子。」
「やっぱ」
朝子はため息をついた。「九桜の側か・・・。裕希くん、狙われちゃってるのね、たぶん。」
「俺とかかわったせいでね。」
和人もキリマンを一口飲み、静かに言った。「あの九桜の側の『占い師』との間に何があったかはわからないけど、裕希もあっちに術をかけられたのかもしれない。」
「そうかもな。」
秀は答えた。
黒縁の伊達メガネを少し上げ、「だとしたら、あちらさんも裕希を『結界(このまち)の外』へ帰したりしないだろう。」
「それより、秀」
和人はそんな彼を目を細めて見つめ、「何か、『臭わない』か。」
「ああ、そうだな。」
秀は、ニヤリ・・・と不敵な笑みを浮かべた。「俺ちゃんたちの出番らしいぜ。」
言うが早いか。
彼は勢いよく席を立ち、ベランダへと向かいそのまま夜空へ飛翔した。
その後を追う、和人。
「気をつけて、2人共!」
朝子はエプロン・ドレスの裾を翻して、ベランダへ駆け寄って叫んだ。「満月はもうすぐよ!」
「オーライ!」
漆黒の天空の彼方から、秀の声だけが舞い降りてきた。
新宿3丁目。
人も途絶えたオフィス街に彼らの姿はあった。
「遅かったか・・・」
白いシャツ姿の和人は路上にひざまづき、冷たいアスファルトに横たわるスーツ姿の女性の首筋に左手をあてた。
そこには、2つの赤い傷跡。
「九桜の側か・・・!」
秀が目を細め、そして周囲を見回して叫んだ。「おらっ!隠れてないで出てこいよ、吸血鬼(ヴァンパイア)ども!」
すると。
その声に反応したかのように、無数の紅の瞳が周囲の闇から浮かび上がった。
「仕方がない・・・。九桜の側にするわけにはいかない・・・!」
和人は苦しげに呟いて、左手を握りしめた。
迸る蒼い閃光。
「ギャーッ!!」
路上に横たわっていたスーツ姿の女性は、一瞬のけぞり、和人を紅の瞳で睨みつけるとそのまま、また路上にひれ伏した。
「今度はお前らの番だ。」
憎しみを込めた翡翠色の瞳が闇に煌めき、その口元には白銀の輝きを持つ2本の牙があった。
秀と和人は、まるで申し合わせたかのように、左右へ散った。
「待てっ!!」
それぞれの後を追う、無数のヴァンパイアたち。
「待とうか?」
秀は一瞬立ち止まり---そのまま、追いかけて来たヴァンパイアの一人に蹴りを入れた。
「ウガーッ!!」
悲鳴を上げて、後の仲間の中に突き出されたヴァンパイア。
たじろぐ、『闇の者』。
「満月真近の狼男(ウルフ・ガイ)をなめちゃいけないぜ。」
不敵な笑みを浮かべる秀。「お次はだーれ?」
その頭上を一筋の碧の光が走る。
と、秀が振り向くのと同時に彼に襲いかかろうとした一人のサラリーマン風のヴァンパイアがその光を浴びて闇に散った。
「秀。」
「悪い、悪い、和人ちゃん。」
秀は、左から襲ってくるニート風の男性を殴り倒し、背に並んだ和人へ肩越しに答えた。
「あと2時間もすれば、夜明けだ。」
和人は左手を振り上げて言った。「俺は九桜の一族を『闇』に葬る気はないんだ。」
「和人・・・!」
「ただ、『光』と『闇』の境界線を越えさせたくないんだ---九桜の二の舞だけはさせたくない!」
哀しげな眼差しで、前方の女性を見つめ左手を振り下ろす---
「キャーッ!!」
その『光』を受け、女性は同様、『闇』に散った。
その時。
周囲の雰囲気が変わった。
和人と秀を襲う、紅の瞳は相変わらず、ただ、『彼女』の『降臨』だけが周囲のざわめきを抑えつけた。
「甘いよ、和人。」
彼女は言った。「その『光(ひと)』の持つ『優しさ』が命取りなんだよ---『闇』を率いる唯一無二の『帝王』としてふさわしくないのだよ。」
「お前は!」
和人は目を細めた。「昼間の・・・」
「そうだよ」
彼女---黒いレースを口元まで覆った女性は、昼間、裕希を『占った』、『占い師』だった。
「お前が裕希を!」
秀は、占い師を睨みつけた。「『術』でもかけたか・・・!」
「違うよ。」
占い師は、うっすらと笑った。「私はあの子が望むようにあの子の運命を変えてあげただけさ。」
口元に2本の牙を宿し----
夜の静間に、女性の高らかな笑い声が響いた。
NAGAさんが『本館』より『別館』だけ見ないことを祈るのみです。
カキコありがとう♡励みになりますvv