MOON

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MOON-2『BOY MEET VAMPIRE』<9>

2010-05-07 19:20:24 | 日記
 3人は深夜のカウンター・キッチンで、朝子の入れたブラックのキリマンを前に沈黙していた。
 裕希はもう、また眠りについた頃だろう。
 朝子が口を切った。
 「やっぱり裕希くんを早くこの新宿(まち)から出さないとね。」
 秀が答える。
 「そう素直に帰るかな。和人に完全になついちゃってるし---俺ちゃん同様。」
 と、見えない尻尾をぱたぱたと振ってみせた。
 「俺はお前の飼い主か。」
 和人が呟いた。「とにかく『儀式』も近いし---どうするかな。」
 「先刻さ」
 朝子が和人に、「裕希くんが変な夢見て魘されたっていうの、あの昼間の『占い師』の事和人が彼の記憶から『封印』したからじゃないの?」
 「和人がそんなちゃちい『封印』の仕方するかよ。」
 秀はキリマンを一口飲み、「だとしたら、その『封印』を『邪魔』してるヤツがいるってことだぜ、朝子。」
 「やっぱ」
 朝子はため息をついた。「九桜の側か・・・。裕希くん、狙われちゃってるのね、たぶん。」
 「俺とかかわったせいでね。」
 和人もキリマンを一口飲み、静かに言った。「あの九桜の側の『占い師』との間に何があったかはわからないけど、裕希もあっちに術をかけられたのかもしれない。」
 「そうかもな。」
 秀は答えた。
 黒縁の伊達メガネを少し上げ、「だとしたら、あちらさんも裕希を『結界(このまち)の外』へ帰したりしないだろう。」
 「それより、秀」
 和人はそんな彼を目を細めて見つめ、「何か、『臭わない』か。」
 「ああ、そうだな。」
 秀は、ニヤリ・・・と不敵な笑みを浮かべた。「俺ちゃんたちの出番らしいぜ。」
 言うが早いか。
 彼は勢いよく席を立ち、ベランダへと向かいそのまま夜空へ飛翔した。
 その後を追う、和人。
 「気をつけて、2人共!」
 朝子はエプロン・ドレスの裾を翻して、ベランダへ駆け寄って叫んだ。「満月はもうすぐよ!」
 「オーライ!」
 漆黒の天空の彼方から、秀の声だけが舞い降りてきた。

 新宿3丁目。
 人も途絶えたオフィス街に彼らの姿はあった。
 「遅かったか・・・」
 白いシャツ姿の和人は路上にひざまづき、冷たいアスファルトに横たわるスーツ姿の女性の首筋に左手をあてた。
 そこには、2つの赤い傷跡。
 「九桜の側か・・・!」
 秀が目を細め、そして周囲を見回して叫んだ。「おらっ!隠れてないで出てこいよ、吸血鬼(ヴァンパイア)ども!」
 すると。
 その声に反応したかのように、無数の紅の瞳が周囲の闇から浮かび上がった。
 「仕方がない・・・。九桜の側にするわけにはいかない・・・!」
 和人は苦しげに呟いて、左手を握りしめた。
 迸る蒼い閃光。
 「ギャーッ!!」
 路上に横たわっていたスーツ姿の女性は、一瞬のけぞり、和人を紅の瞳で睨みつけるとそのまま、また路上にひれ伏した。
 「今度はお前らの番だ。」
 憎しみを込めた翡翠色の瞳が闇に煌めき、その口元には白銀の輝きを持つ2本の牙があった。
 秀と和人は、まるで申し合わせたかのように、左右へ散った。
 「待てっ!!」
 それぞれの後を追う、無数のヴァンパイアたち。
 「待とうか?」
 秀は一瞬立ち止まり---そのまま、追いかけて来たヴァンパイアの一人に蹴りを入れた。
 「ウガーッ!!」
 悲鳴を上げて、後の仲間の中に突き出されたヴァンパイア。
 たじろぐ、『闇の者』。
 「満月真近の狼男(ウルフ・ガイ)をなめちゃいけないぜ。」
 不敵な笑みを浮かべる秀。「お次はだーれ?」
 その頭上を一筋の碧の光が走る。
 と、秀が振り向くのと同時に彼に襲いかかろうとした一人のサラリーマン風のヴァンパイアがその光を浴びて闇に散った。
 「秀。」
 「悪い、悪い、和人ちゃん。」
 秀は、左から襲ってくるニート風の男性を殴り倒し、背に並んだ和人へ肩越しに答えた。
 「あと2時間もすれば、夜明けだ。」
 和人は左手を振り上げて言った。「俺は九桜の一族を『闇』に葬る気はないんだ。」
 「和人・・・!」
 「ただ、『光』と『闇』の境界線を越えさせたくないんだ---九桜の二の舞だけはさせたくない!」
 哀しげな眼差しで、前方の女性を見つめ左手を振り下ろす---
 「キャーッ!!」
 その『光』を受け、女性は同様、『闇』に散った。
 その時。
 周囲の雰囲気が変わった。
 和人と秀を襲う、紅の瞳は相変わらず、ただ、『彼女』の『降臨』だけが周囲のざわめきを抑えつけた。
 「甘いよ、和人。」
 彼女は言った。「その『光(ひと)』の持つ『優しさ』が命取りなんだよ---『闇』を率いる唯一無二の『帝王』としてふさわしくないのだよ。」
 「お前は!」
 和人は目を細めた。「昼間の・・・」
 「そうだよ」
 彼女---黒いレースを口元まで覆った女性は、昼間、裕希を『占った』、『占い師』だった。
 「お前が裕希を!」
 秀は、占い師を睨みつけた。「『術』でもかけたか・・・!」
 「違うよ。」
 占い師は、うっすらと笑った。「私はあの子が望むようにあの子の運命を変えてあげただけさ。」
 口元に2本の牙を宿し----
 夜の静間に、女性の高らかな笑い声が響いた。

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2 コメント

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面白いね。 (FUKU)
2010-05-10 19:03:02
なかなか読み応えがあります。面白いですね。ノーマルの方期待しています。
そうですね(笑) (kaito)
2010-05-12 19:11:42
『別館』はあくまでも『別館』ですから、FUKUちゃん。あちらのほうは煩悩サイトとでも思って下さい(単に、このブログだと現在のアクセス数がはっきりとわからなかったので『別館』を設置したとの理由もあります。
NAGAさんが『本館』より『別館』だけ見ないことを祈るのみです。
カキコありがとう♡励みになりますvv