大人のための歴史学

しがない一日本史研究者です。「大人」の視点から歴史を眺め直してみませんか。
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コラム:「情報」が歴史を動かす(12)ディアスポラと楽市(下)

2017-04-23 15:13:08 | コラム
例えば本一つをとっても、それが役に立つかどうかは手にとってみるまでわからない。アマゾンで入手は容易になった。しかし実物が届いてみるとガッカリということも多い。カスタマーレビューは意外に当てにならない。なぜなら、情緒的反応が多かったり、逆に売り上げに貢献してポイントなどをもらうため、基本的に宣伝になっていたりするからである。そもそも問題関心が人によって異なるため、という理由もある。

ましてや学会や研究会の開催頻度と質の高さには雲泥の差がある。地方を基盤とする学会や研究会には、未だに戦後直後か?と耳を疑いたくなるような議論や価値観が支配的で、正直あまり勉強にはならない。これは研究の世界に生きる者にとっては致命的である。また交通網が発達して便利にはなったのだが、なぜか中央の学会に行くことに否定的な空気やハードルがあり、時に中央かぶれ、地方軽視との誹りを受けることも少なくない。博物館や美術館の展覧会の質と量にも、格段の差がある。都会ではこうした刺激にさほどの交通費も時間もかからず、日常的に触れられる機会があるのである。これは学生にも大きな刺激になる。

ところで、玉木氏はこのアムステルダムへの商人の移住を、単に物質的な財の集積、商品の集散、あるいは漠然とした商業の活性化という観点でなく、商業ネットワークの移転や情報の集積という点で重視し評価しており、筆者もこの捉え方に共鳴する。氏の表現を借りればソフトパワーの威力ということになろう。

筆者はこうした観点がら、楽市というものを見直す必要があると考えている。そこでは従来から言われてきた、商業の活性化、自由な商売、物資の集散ということの他に、情報の集散という機能があるといえる。取り引き情報、商業情報の他に、様々な情報、知識、技術が交錯し、また新たな情報、ソフトパワーが連鎖反応的に創出される空間、そういう側面があったのではないか。

もちろんこうした実態を史料で裏付けることは困難である。また、楽市や都市が楽園であると言っている訳でもない。当然そこには激しい生存競争がある。しかし、その刺激がまた空間全体を活性化させ、ソフトパワーの蓄積促していく、そうした側面があったのではないだろうか。それを領内に蓄積させていくこと、織田信長を始め楽市を設定した領主たちはそれも狙っていたように思われるのだ。(了)

参考文献:玉木俊明氏『近代ヨーロッパの形成』創元社
ジャンル:
経済
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